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こんな夜は、たいまつを片手に  作者: 麻戸 槊來
どこまでも透ける心
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みんなのハロウィン

遅くなりましたが、ハッピーハロウィン!


今年もまた、この時期になるとみんながぞろぞろ一つの館に集まった。

なんだかんだ言いながら、伯爵も狼男もやってきたらしい。私は骸骨の形をしているため、場所が悪ければ参加できないこともあるが、今回は比較的参加しやすい場所だったため参加できた。


人間として生きていた時に色々あってこんな姿になったが、どうもこの姿はほかのみんなと違って闇夜に紛れていないと動きにくい。日中は特殊メイクなどで偽装しないと動けず、その特殊メイクをしてくれる人間も限られている。

以前より特殊メイクの技術は上がっているが、どうも骨だけの姿だとうまくいかず、服から出ているところ以外も肉付けをしないとならないのだ。マスクや着ぐるみなどいろいろ持ってはいるが、最近では小悪魔のデビィさんや魔女の力を借りて何とかしている。デビィの幻覚は強力だし、魔女は広範囲の人間への目くらましなどをしているから大変助かっている。


毎年集まりの時は、暗くなるのを見計らっているため最後になることが多い。

だが今年は、これまでより質の良い『普通の人間に見える』スーツを特注できたし、早くやってくることができた。


「ふー、窮屈だったぁ」


「あれ。骸骨くん、今年は早いんだね」


「嗚呼、この前はありがとございました。デビィさん」


「中々、良イ衣ヲ纏ッテイルナ」


「有難うございます。フフッ、これは魔女と伯爵のお陰で作れた、特注品なんですよ」


スーツをまとったまま、くるりと回って見せる。

意外と気遣い屋なミイラ男だけではなく、デビィさんまで褒めてくれるのだから、なかなかな完成度なのだろう。

これは顔だけではなく、服からのぞく手首や首元まで自然に見えるように作られた特注品だ。これまでのように不自然に膨らんだ着ぐるみでもなく、ピッタリし過ぎて不健康そうな装いでもない。


「おー。すごいすごい、似合っているよ。製作途中に触っちゃうと正気に戻る人間が多いのに、魔女も魔法をかけるのがうまくなったね」


「あ、ありがとう……」


「まじょ、よかったな」


「フランケンも、外出用のスーツを作ってもらったから、前よりお出かけしやすくなったのよね」


「うん、まじょのおかげ。ありがとう」


「ソレハ、益々良イ事ダ」


ニコニコと笑顔のフランケンに、はにかみながら魔女が答える。

実はこの中では一番魔女が若くて、何かとみんな構い立てしたくなるのだ。今回も何かお礼をしたいと言ったのだが、キャラメルアップルとババロアの材料を買ってくれればそれでいいと言われて歯がゆい思いをした。自分が食べる分にはこだわらないのに、フランケン用のババロアは自身で手作りするだなんて、健気で余計に可愛く思える。


「うーん。資金を出してくれた伯爵にも、何かお礼をしたいのですが。じゃあ、死神への交渉を手伝えなんて言われて、困っちゃったんですよねぇ」


「そんな無茶なことを言うなんて、どれだけあのエセ貴族は性格が悪いのかしらね!」


あんな奴に、お礼をする必要なんてないわよ!と鼻息荒く語る魔女には悪いが、そうもいかないというのが本心だ。何かないものかとデビィを見つめる。すると、ニコリと笑った後に赤く塗られた口を開いた。


「ねぇ、なんで魔女ちゃんは、そんなに伯爵様のことが嫌いなの?」


「そんなの、あの男がどうしようもなく、女にだらしないからに決まってるじゃない」


「は?」


思わず、間抜けな音が口から洩れた。

デビィの隣にいるミイラ男も、心なし戸惑った雰囲気が伝わってくる。そこにやってきた狼男にもこのことを話すと、狼男もいぶかしげな顔をする。


「あー、確かに伯爵様は女性が途絶えることないもんねぇ」


デビィまでそんなことを言いだして、この女性陣は伯爵のことを色々誤解しているのだと分かった。なんだなんだとやってきた幽霊娘と死神にも話すが、案の定死神は「そんなことどうでも良い」と全く気にした様子はない。幽霊娘は恥ずかし気に頬を染めて、珍しくしどろもどろに黙り込んでしまった。


「おい、ちょっとまて」


「そ、そうですよ皆さん。どうやら女性の皆さんは、誤解しているみたいですよぉ」


あまりの誤解に、伯爵が可哀そうになってくる。

いつも敵対している狼男まで焦っているのだから、これは訂正してあげなければ可哀そうだ。


「どうして、そんなに焦っているの?狼くんまで伯爵の味方するなんて、珍しいね」


「いや、おまえらさっきから好き勝手言ってるが、あの吸血野郎は見た目騙しだから、最後までやってねぇぞ」


あまりの発言に、みんなでビシリと固まった。

誰も口を開けない中、恐る恐る口を開いたフランケンは勇者だと思う。


「おおかみ、なぜ、しってる……?」


「そ、そうよね。まかさか狼男って、そんな時まで吸血鬼に……」


心なし青ざめた魔女は、思いっきり体を引いている。

幽霊娘に至っては完全に耳をふさいで、ひたすら死神と見つめあって現実逃避していた。こんな光景はめったに見られないけれど、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべるデビィが恐ろしくて目をそらす。自らを小悪魔だと名乗る彼女は、常人と貞操観念が異なるから下手にかかわるとえらい目に遭ってしまう。


「四六時中、くっついているわけないだろうっ!女といる時まで張り込んでいるなんて、どんな変態だっ」


「じゃあ、どうしてそんな風に断言できるのよ」


「そんなの、匂いでわかる」


狼男が言うには、性的なことをすればにおいが違うという事らしい。

『そういうこと』をしたにしては、伯爵についている相手のにおいが弱いらしい。元々男同士で飲むことなどもあったから、ミイラ男やフランケンも狼男のいうことを疑う様子もない。あれで伯爵は、一途なのだ。こんな骨男からすれば、他者と触れ合えるだけで羨ましいものなのだが、それぞれ悩みはあるらしい。


「―――さっきから、人のいない所で勝手に盛り上がるなんて、下世話が過ぎますよ」


「げっ、伯爵様もう来たの?」


「えーちょっと、楽しくみんなでお話していただけなのに、下世話だなんてひどーい。骸骨くんのために大金を払うなんて、優しいねって言ってただけなのに」


キャーキャー騒ぎだす魔女さんとデビィ相手に、あまり触れられたい内容ではないのか、伯爵が嫌そうに顔をしかめている。


「……ただの、気まぐれですよ。お金だけなら、有り余ってますから」


「わー、嫌味なやつ。フランケンの控えめなところを、もっと見習いなさいよ」


「伯爵に無いのは、理性だけってことだね!」


「うまいこと言うな、デビィ!このエセ貴族にはピッタリだ」


わいわいと三人がかりで馬鹿にされ、不快そうに外套を脱ぐと、伯爵は立ち去ることもなく空いているソファへ座った。昔だったら、そのまま帰ってもおかしくなかった。彼も我々も、緩やかながら変化しているのだろう。楽しみなような、不安なような気持ちが押し寄せるが、変化に乏しい我々にとっては願ってもないことだ。


今年もまた、一つの夜が更けていく。




とりあえず、この話で終わらせていただこうと思います。

だいぶハロウィンが広まったなぁと思ったら、コロナで一気に下火になりましたね……。元は悪霊などを退ける意味なのだし、別に騒ぐだけがハロウィンじゃないだろうと思うのですが、みんなで楽しむことすら自重気味なので難しいものです。皆様が安全なまま、楽しめることを願いまして。


それでは改めて、ハッピーハロウィンです!

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