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こんな夜は、たいまつを片手に  作者: 麻戸 槊來
つぎはぎと魔法
2/25

林檎よりも、赤く甘く

扉を開けて、フランケンへ礼を言う。

現在の仮住まいは、大通りから少し外れた屋敷だ。真実を知る者が少なくなった今の世でも、一部の人間には魔女の薬や呪いは必要とされている。

一時期は、魔女狩りなどでずいぶん肩身の狭い思いをした。けれど、数百年が経ちたとえ「本物の魔女です」などといっても笑い飛ばされるばかりなのだから、人生とは分からないものだ。


あの時は、本物の魔女や魔法使いではなくとも疑われ、突然罪状を突きつけられることもあった。

修業を終え、一人前と認められてからも魔女だと知られることを恐れていたものだ。それから考えれば、『変わり者』と呼ばれる今のほうが、よっぽど居心地がいい。食事は美味しくなったし、科学の発展により多少のことはマジックだといって乗り越えられる。



スカートを撫でつけ、皺を伸ばす。

この黒いワンピースは魔女らしくて気に入っているのだけれど、どうも皺が伸ばしにくくていけない。くるくると玄関口に設置した姿見で確認すると、上着を脱いだ彼に向き直る。フランケンの容貌は目立つから、森の中など人目がないところ以外ではコートやフードなどで隠せるようにしている。

本当はそんなことをさせたくないのだけれど、彼も「しかたない」と笑ってくれるから、問題を避けるため着る物を提供している。


「結局、ずっと運ばせて悪かったわね。

 ゆっくり休んで、誕生日にしたいことを考えておいて」


「まじょ、これ」


すっと伸びてきた腕には、キャラメルアップルが握られていた。

かわいらしくデコレーションされたそれは、青りんごにキャラメルをコーティングした……リンゴキャンディーのような物だ。これは私の大好物で、小ぶりなリンゴは一本一本棒に刺されており、食べやすいように考えられている。


キャラメルアップルは好きなのだけれど、大きなものになると食べ難くて、いつも口周りや手がべたべた汚れてしまう。だから、決まって濡らしたハンカチを用意して挑んでいた。けれど、これなら途中でキャラメルが全てはがれることも無さそうだし、口に入りきらずべたべたになることもない。理想的な大きさだ。


その上、キャラメルアップルは一つではなく。ナッツがついている物から、おばけなどのイラストが描かれている物、グミなどで飾り付けしている物など様々ものが十個以上はありそうだ。これならしばらくの間、毎日キャラメルアップルを食べるという幸せに浸れそうで思わず笑ってしまう。


「もらえない、かなしそう、だった。……だから、かった」


「わざわざ、屋台で買ってくれたの?」


どうやら、私が人間へ写真撮影を頼まれている間に、彼は屋台に並んで買ってきてくれたようだ。屋台を物欲しそうに見てしまったのかと思えば恥ずかしいけれど、それ以上に嬉しくて顔がゆるむ。

ハロウィンの時はよくある事なのだけれど、私たちはしょっちゅう「写真を撮ってもいいですか?」と声を掛けられるようになっていた。聞いた所によると「とってもリアルで似合っているから、参考にしたい」のだそうだ。


リアルもなにも、私たちこそが本物なのだから当たり前なのだけれど。

そんなことも知らないで人間たちは、気安く私たちへ話しかけてくる。フランケンなんかは人がいいから、一緒にいる私も良くそういった輩に捕まってしまうのだ。



あんなにもみくちゃにされながら、よくそんな余裕があったなぁと感心するとともに、私のことをきちんと気遣ってくれていたことに胸が締め付けられ感動した。


「あり、がとう……」


頬が熱くなる感覚はそのままに、可愛いそれを受け取る。

少しうつむいて、髪が頬を隠してくれること願う。一つ一つは小さいのだけれど、可愛らしく優しい色味のそれは、まるで彼の心のようだ。それを沢山もらって、喜ばない訳がない。大きな手で包まれていたときは感じなかったけれど、いざ彼の手を離れて受け取ってみると相当な量だ。


落とさないように体を使って抱え込むと、ほんの少し心が温かくなった気がした。




キャラメルアップルは、海外などではハロウィンでよく食べられる物だそうです。林檎飴の、キャラメル版を思い浮かべて頂ければよろしいかと…。家庭でも簡単に作れるようですし、よろしければお試しください。

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