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こんな夜は、たいまつを片手に  作者: 麻戸 槊來
大鎌とさまよう魂
17/25

にぎわう空気と、沈み込む気持ち

暗さは抑え目になってますが、砂吐くのは無理そうです、ごめんなさい。


鮮やかな飾りに、生きている時はまず見かけなかったキラキラした照明。

手をつないで入っていくカップルも、仲良さ気な親子連れも全てがすべて、輝いて見える。これらの一つ一つが魅力的に見えてしょうがないのだと、彼女はキラキラした目で言っていたのは数時間前の事だった。



今日は、彼女に懇願されて『遊園地』なる人間の娯楽施設に足を向けていた。

いくらこの近くの病院に用があったとはいえ、こんなことは予定外だった。「どうして、こんな阿呆みたいな所に、行かなきゃいけないのか……」そんな事を言っていた頃が懐かしい。


どうやら、魔女や小悪魔たちが遊園地に行ったという話を聞いて、幽霊である彼女は興味を抑えられなくなったらしい。もともと、好奇心の強い彼女のことだ。遊技場や娯楽施設など、前々から行きたがっている節はあった。


それでも、こちらが必要に迫られた時に足を向けない限り、行ってみたいと壊れたことすらなかった。……だというのに。前回の集いで、やけに魔女や小悪魔たちとこそこそ話しているかと思えば、いきなりキラキラした眼差しでこちらを見つめてきた。


さすがに、しばらくは無視を決め込んだ。

業務に関係ないことで、足を向ける理由もない。これまで何十世紀と、業務以外であんな場所に足を踏み入れたことはなかった。どんなに魅力を語られても、「興味ない」どんなに一生に一度のお願いだと言われても、「お前はすでに死んでいる」などと切り捨ててきた。正直、意地になっていなかったとは言えない。何せ……。


「少しくらいなら、融通きかせてあげればいいじゃない。フランケンなら、文句言うどころか進んで一緒に動いてくれるのに」


「そうよ、死神くん。家のミイラ男も、たとえ無理でも何とか私の希望をかなえようとしてくれるわよ?」


「少しは他を、見習いなさいよ」


「そうそう。ちょっと寄り道するくらい、如何ってことないじゃない。女心が分かってないわねー」


そんな風に、数時間に及んで魔女たちに言われ続け、苛立つなという方が無理な話だろう。

幾ら彼女の願いだとしても、あそこまでしつこく、ぼろくそに言われ続ければ嫌にもなる。あの女たちこそ、「彼女を見習ってかしましい所を治せ」と口を滑らしてから、目を吊り上げて解放してもらえなかったのには本当に参った。


「死神さん!いや、死神さまっ。お願い、お願い、おねがーい」


「無理だ」


今日は、寝床から近い場所に遊園地があると知り、朝からずっと目をキラキラさせて見られていた。始めはパンフレットを見せられていただけだが、次第に我慢が出来なくなったのだろう。腕を引っ張られ、耳元で懇願され続けこれまでの信条を変えることにした。



―――まさか、それをこんなに後悔することになるとは、思いもしなかった。


「い、行くのか……?」


「もっちろん!」


目を爛々と輝かせる彼女に、どこか恐ろしいものを感じる。

まるで麻薬中毒者のような正気を無くしたそのさまに、思わず一歩後ずさる。この遊園地に入ってから、子どもの喜ぶ遊具に始まり、様々なアトラクションに挑戦してきた。


どうしてあんな、無意味に空中を回るブランコが面白いのか。

何故、あんな行列を作り、どこでも買えそうな菓子を買おうとするのか。

もはや謎が多すぎて、これらを理解するのは無理そうだと横を向いたら、これまでになくにこにこした彼女が「次はアレに乗りましょう!」と指さす方を見て思わず固まったのは数分前の事だった。


「…………」


「ちょっと、ちょっと死神さん!何逃げようとしてるんですかっ」


「い、いや、決して逃げようなどとは……」


「もーう、四の五の言ってないで、行きますよ!」


彼女が言うには、「私一人じゃアトラクションに乗ることなんてできないし、もし無理やりこれを楽しもうと思ったら、そこら辺のでっぱりにでも捕まっているしかなくなる」ということだ。


普段乗り物なんかに乗る機会がないため、あんなただ高速で園内を移動するだけの乗り物でも魅力的に見えてしまうのだろう。「いくら物を通り抜けてしまうからと言って、こういったものを楽しむのは不可能ではないと教えてくれたのは、ほかならぬ死神さんではないですか」などと説得され頭を抱える。以前に口にした事を取り消したい時とは、こういう時なのだろうと理解した。


「あー、わくわくする!もう少しで私たちの番ですねっ」


「……想像しただけで、吐きそうだ」


「さぁ、ぐちぐち言っていないで乗りますよ!」


予想した通り、あの悪魔の乗り物はこれまでにない地獄の数分間を味わわせてくれた。

とりあえず、自分の体に胃という機能がついていなかったことを感謝する、初めての日になったという事だけ言っておく。





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