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こんな夜は、たいまつを片手に  作者: 麻戸 槊來
つぎはぎと魔法
1/25

魔法の箒で、貴方の治癒を

もしかすると、一年に一度しか投稿できないかもしれませんが。

ハロウィン過ぎてから連載するのは嫌なので、今日投稿します!確認甘いし、急いで仕上げたので途中で手を加える可能性大です。


短編『ハロウィンナイト』に登場した存在たちの姿を描きます。よろしければ、お付き合いください。


ふわふわと箒に腰かけ低空飛行をしている私の横を、フランケンは疲れを感じさせない足取りで歩いている。休みなく歩いているはずなのだが、一向に弱音も吐かず黙々と歩いている。


私も彼の体力を知っているから、特に気にすることはなく大柄な彼の腹部より多少高いくらいのところで飛んでいる。むしろ彼はこちらのことを心配しているようで、たどたどしいながら「まじょ、つかれない?」「やすむか?」などと聞いている。


「私は一流の魔女なのよ。箒で飛んでいる私が、どうして疲れなきゃいけないのよ。……そんな事より、あんたは大丈夫なの?」


「おれ、げんき。……まじょ、やさしい」


「うっ、うるさいわね!あんたみたいな図体の大きな男に倒れられたら運ぶのが大変だから、聞いてあげているだけよっ」


「うん。まじょに、めいわくかけない」


がんばると言いながら、それまで以上に歩くスピードを上げたフランケンに、私は小さく息を吐き出した。何も、早く家に帰りたくて声をかけたわけではない。ただ、ずっと歩いていて疲れないかと聞きたかっただけなのに…。


私の口は、なかなか素直に動いてくれない。

この間のハロウィンだって、彼のためにせっかく作ったデザートをぐちゃぐちゃにしてしまった。せっかく心配してくれたのに、可愛く小首をかしげ笑いかけることすらできやしない。このままでは、いつか愛想を尽かされてしまうのではないかとこうべを垂れる。


箒に乗りながら、下を向いたのが悪かったのだろう。

気づいた時には木が目前に迫っていて、バランスを崩した私の体は傾いていた。


「きゃっ」


「まじょ!」


落ちると強く目をつぶって、衝撃に備える。

いくら空高くを飛んでいた訳ではなくても、ここで落ちたら怪我なしでは済まないだろう。咄嗟の事に魔法を使うこともできずに身を縮めているが、何時まで経っても痛みが訪れることはない。


「だいじょうぶ、か?」


恐る恐る目を開けてみると、私はフランケンの腕に抱きとめられていた。


「あああっあ、あ」


「どこか、いたむ?」


「いいえっ!」


声をひっくり返しながらうろたえると、怪我でもしたのかと心配される始末だ。

何とか自分の足で立とうともがくけれど、驚きすぎて変に力が抜けてしまったらしくうまく体勢を整えられない。


「まじょ、あばれる、だめ」


「そ……そんなこと、言っても、」


なにせ、フランケンは色々な人間や様々なものをツギハギして、命を持ったとはいえ…その体は立派な成人男性なのだ。血管の浮き出る太い腕はたくましくて、筋肉質な胸に抱きとめられるとドキドキする。



子どもの頃に魔女へ憧れ弟子入りするまでは、それなりに異性の友達もいた。

けれど皆から恐れられ、ときに敬愛される魔女になってからはそもそも人とのかかわり自体がずいぶん減った。


小さな頃から魔女としての素質があった私は、いつしか普通の生活に限界を感じるようになっていた。自分の力を制御する術を持たない私は、感情が高ぶるとその力を暴走させ、家族を傷つけてしまうことすらあったのだ。

魔女と魔法使いは似ているが、少し異なる面がある。それは……魔法使いは修業をし、正しい呪文や手順でなければ人ならず者の術を扱えないのに対し、魔女は生まれ持った素質で大なり小なり力を扱えてしまうということだ。


もちろん、素質がなければ魔法使いになることはできない。―――けれどそれなりに成長し、多感な時期を過ぎてから術を教わるのと、本能で扱ってしまうのでは雲泥の差がある。


「まじょ、いたい…つらい」


「フランケン……」


自分が怪我をしたかのように、彼は顔をゆがめてみせる。

何時も彼は、自分が馬鹿にされたり痛めつけられることより、私のことを心配している。

そんな姿を歯がゆく感じるとともに、胸が締め付けられるような感覚をおぼえてしまう。昔だったら、些細なことでも感情が揺らぐと不安に思えたけれど、今なら暴走することはない。



両親ははじめ、秘密裏に魔女へ助言を乞い、少しでも私が普通の街娘として暮らせるようにしつけてくれた。幼いころから私が感情を高ぶらせ暴走しないように、抑制させようとしていたのだ。

何度失敗して両親を傷つけても、優しく抱きしめてくれた。兄弟たちとケンカの果てに傷つけてしまい「どうして、そんなひどい事をするんだっ」と責められた時も、叱りつつもかばってくれた。他の人に知られたら魔女として迫害される心配があったから、小さなころは家からほとんど出ることができなかったけれど、確かに愛されているのは感じていたのだ。



だから、祖父母に「そんな呪われた子ども、殺してしまえ!」と陰で罵られていると知った時は、ショックの次に安堵した。何せ、ずっと迫害されることを恐れ感情を制御し、病気がちだと言う嘘で家に引きこもっていたのだ。


本当は特別な用事がなくとも街をぶらつくなんて夢だったし、何時までも力を制御できないことにも苛ついていた。自己流でいろいろな方法を試してみたこともあるけれど、結局のところ感情が高ぶったら駄目だと分かり、悲しい本すら読むことができずにいた。


「まじょ?」


不思議そうに私を見つめてくるフランケンを見て、頬が熱をもっていくのが分かる。

あの時は、まさか自分がこんな感情を覚える日が来るなんて、予想もしていなかった。魔女に弟子入りする決意をした私は、家族の元を離れて必死に修行した。


幸い、魔女のつくる薬や呪いは人気があるため、魔女として一人前にならずともお金に困る日々を送ることはなかった。独り立ちしてからは家族に仕送りをするだけの余裕もできたし。何より、自分よりもはるかに力も術も秀でた魔女が傍にいることで、暴走したとしてもいざという時は「この人がとめてくれるのか」と思えば心強かった。



魔女裁判にかけられることよりも、人目を気にして生きなければならないことよりも、取り返しのつかない事態になることの方が、私は恐ろしかったのだ。

感情を抑えきれなくなるのは大抵、身近な人と接しているときだ。そんななか暴走したら、かすり傷をつけるだけに飽き足らず……命を奪ってしまう事すらあるのではないだろうか。夜に一人そんな恐怖心にとらわれ、暴走しそうになったことすらある。


何百年と経った今ならば、私も青かったと笑える内容でしかないのだけれど、あのときは必死だった。


つい、「これも修行の一環よ」などと言って、蛇の群れの中に一人置いて行かれたときのことを思い出す。先輩魔女たちの事は今でも尊敬しているけれど、「瑠璃色ヘビをみつけて、うろこを取って来てね?」なんて言われた時は、「ふざけんな、くそババア!」と思わず罵ってしまった。ただでさえ年齢は魔女にとって禁句なのに、自分よりも上の魔女に向かって命知らずなことをしたと苦笑しか浮かばない。


「だ…だいじょうぶよ」


「むり、よくない」


先ほどまで心配していたフランケンに、逆に心配を掛けさせてしまったと少し冷静になった頭で反省する。



今となれば、魔女の中でも上位に位置する存在となり。

一言『魔女』といえば、私を示すほどの存在になれた。他の魔女は大抵『良い魔女』だの『悪い魔女』だの言われたり、定住している者は方角や地域をつけて呼ばれるのだ。



まぁ、長く生きているとは言っても、今日のようなハロウィンの集いのなかでは年若い方に入るのだけれど。記憶が正しければ、幽霊の彼女ですら私より生まれた年代は早かったはずだ。長く生きているせいで家族はみな寿命をまっとうし、その後も三世代くらいは見守っていたのだけれど、戦争へ巻き込まれないようにふらふらしている内に行方を追うことはできなくなった。


年齢だけで言えばヴァンパイアや狼男が近いらしいけれど、気障男と単純バカと慣れあうおぐらいならば、姉御な小悪魔さんとお茶する方が楽しい。もっとも、いつも彼女と一緒にいるミイラ男は、その体質から長くいられる場所が限られてくる。そのため、大抵はふらふらしているこちらが、彼女たちのところへ赴くことになる。



だけど、彼らが好む砂漠はあまり好きではないし、フランケンの体や埋め込まれたネジやボルトの類を思えば、そうちょくちょく赴く気にはならない。

私が旅しようとすればフランケンは「おれ、いっしょ、いく」などと言って譲らないし、私自身フランケンと長く離れることは好ましくないからハロウィンの集いは貴重だ。


「沢山、お菓子を集められてよかったわね」


「こども、たのしそう、うれしい」


「そうね」


フランケンは、お菓子を食べるのも勿論好きなのだけれど、それ以上に子どもたちの嬉しそうな顔を見るのが好きなのだ。彼はその見た目からやはり迫害され、さびしい思いをしてきたのだという。博士が何を思ってこんな風な見た目にし、彼に命を吹きかけたのか分からない。ただ言えることは、悪戯に彼を傷つけるようなことをしたことに対する怒りと、何より彼を生み出してくれたことに感謝しているということだ。



魔女として位が高くなっても、どこか寂しいままだった。

幼いころよりも感情を表現できるようになったけれど、素直すぎる感情表現は周囲を遠ざけさせた。何故かフランケン相手にはうまく感謝を示したり、優しくすることができないのだけれど、彼は私にとってかけがえのない存在なのだ。


ずっと寂しい思いをしてきた私が、心優しい彼に惹かれたのは自然なことだと感じる。

だけど時々、どうして彼はこんな私の傍にずっといてくれるのだろうと、分からなくなる時がある。



ハロウィンの集いにやってくるみんなだけに留まらず、世界には私以外にも長命な存在は沢山いる。少し彼の内面をみてもらえれば、ツギハギだらけの見た目なんて気にならなくなるだろう。


透き通るような青い瞳は魅力的だし、腕力もそこいらの人間には負けない。

背丈だってある方だし、ガタイも良い。考えれば考えるほど、引く手あまたに思えてならない。多少頭部が一般的な人間より長いかもしれないし、縫い痕などは粗いけれど。それを補っても余りあるくらいに彼は魅力的なのだ。


彼をよく知らない人間は勘違いしているけれど、フランケンは言葉がスラスラ出てこないだけで頭は悪くないのだ。むしろ、長い年月をかけて得てきた知識や読んできた膨大な書籍から、私より知識があるのではないかと思わされるときがある。

そんな彼と会話するのも一緒にいるのも楽しくて、その優しさに救われている。


「―――ねぇ、フランケン。もしも行きたい場所があるのなら、自由にしていいのよ」


「じゆう?」


「そう。貴方をつなぐ鎖は、もう切れているのだから」


不思議そうに首を傾げる彼へ、そっと微笑んでみせる。

彼がこの世に生を得たとき、博士は「こんなはずではなかった!」といって、縛り付け外の世界と遮断したのだという。人間の分際で禁忌の術に手をだして、「理想の人間」を作り出そうなど考え自体が愚かしいことだ。そのまま彼の死を望んで、故郷に帰り。生き延びた彼が「ただ、一人でいいから自分を受け入れてくれる存在が欲しい」と願い出ても、彼の伴侶となる存在を作ろうとはせずにフランケンを殺そうとしたのだ。




正直、その判断が正しかったのかどうかは私にはわからない。

けれども、優れた体力や知性など内面を見ようとはせずに、ただ「容姿が醜い」といって存在を否定したことが許せない。この世に産み落とした父である博士に拒絶され、悲しみと深い絶望感のあまり、博士の周囲の人間を殺してしまったのだと現在でも悔やんでいる。


そんな風に拒絶され、存在を否定されても尚、博士が命を引き取ったときが一番悲しかったと語る。それを聞いたときは、普段の照れや意地などはかなぐり捨てて、思わず彼を抱きしめてしまった。


あの時に、心の底から思ったのだ。

こんなに優しい彼は、絶対に幸せになるべきなのだと。


「たんじょうび……?まじょ、する?」


彼にいわれて、思い出した。

そうだ。確かに私はここ数日、もうすぐで彼の誕生日だから何かしてあげたいと色々頭を悩ませていた。正確な日付までは分からないそうだけど、フランケンは11月のある夜に生を受けたのだという。


彼と親しくなってからは、毎年ハロウィンの集いの後にお祝いすることにしている。

時にはそのままみんなとお祝いすることもあるけれど、ほかの用事がある者も少なくないため、今回は二人きりで祝うことになっていたのだ。一度軽く瞑目して、己の心を整える。


「そう……だったわ、ね」


「まじょ、すき。いっしょ、うれし」


皮膚を引き攣らせながらも、にこりと近くで微笑まれたことで頭が一瞬真っ白になった。


気づけば彼は、ずっとこうして言葉も気持ちも届けてくれていたのだ。

素直じゃない私の気持ちも正しく読み取り、「好きだ、傍にいたい」と昔と変わらず言ってくれる。彼の真っ直ぐな気持ちによって、絡まっていた私の思考はほぐれ『やっぱり、傍にいたい』という結論にいつも行きつく。


思わずフランケンの瞳をまじまじ見つめると、ふっと柔らかく綻んだ。


「……じゆう。だから、そばにいる」


普段よりもほんの少し、滑らかな声で断言する言葉が心地よい。

誰に対してもフランケンは優しいのだけれど、私をみつめる眼差しには甘さが加わると言ったのは、幽霊少女だったろうか?突然思いだした言葉により、ずっと彼に抱きかかえられたまま見つめあうのは、恥ずかしくなってきた。


「そ、そろそろ箒を拾いたいのだけれど?」


「ほうき、あぶない、このまま、あるく」


過保護な言葉に、羞恥心も忘れて呆れてしまう。

注意されていたというのに、何だかんだで木へぶつかりそうになったのだから、私も人のことは言えないのだけれど。私を片腕へ乗せたまま、箒をつかんで歩き出す彼へ抵抗するのも馬鹿らしくて、早々に諦めることにする。


「そんなに私を運びたいなら、好きにすればいいわっ」


「ありがとう」


どうしてそこでフランケンが礼を言うのだと思いながらも、素直じゃない自分の口を呪うことにした。




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