戦闘
晴人はスマートフォンを見ながら、夜の町を風を切るように走っていた。
「ようやく距離が近くなってきたな…」
敵との距離感を把握しながら進んでいく晴人。どうやら敵も晴人の存在を分かっているのか、近づいた途端に場所を移動した。
そのため、晴人は敵に一歩でも近づこうとしているのだ。なんせ、3ポイントも払ったのだ。始末しなければ話にならない。
「んっ?」
スマートフォンを覗いていると異変に気づいた。敵が止まったのだ。
(待ち伏せか?それとも諦めたのか?)
一旦立ち止まり、冷静に脳をフル回転させ、いろいろな可能性を考える。が、
(馬鹿か…俺は!敵が止まったなら仕留める好機じゃないか!)
晴人の言う通り、敵が止まる事などめったに無く千載一遇のチャンスともいえるだろう。トラップかどうかは近くに行けば分かる。
そう考えた晴人は、再び止まった足を走らせた。
あの場から走って3分くらいだっただろうか。敵の止まっている位置に着いた晴人。そこは、新緑が豊かな大型の公園だった。
敵は300メートル前方の位置にいる。晴人は辺りを見渡し地形の特徴を確認する。
周りには木が多くあり、遮蔽物や死角としても使えそうだった。地面は雑草が生えており、素早く動くと音が出てしまい、自分の位置が敵にばれてしまう。また、街灯も遊歩道に沿って立っており、暗闇の視界には困らない。
(たぶん、敵の戦略は音で位置を割り出して木の背後から飛び道具を使って撃つか、木の背後で体を隠しながら一気に暗闇から飛び出してナイフで一発…)
いろんな動きを考え、対策を立てようとした次の瞬間。前方から発砲音がした。
(牽制か?……それとも強襲?……)
敵との距離を把握しながら、木を遮蔽物にして飛び込む。スマートフォンを見て、位置を確認。距離は70メートルと近づいていた。
(仕掛けてきたか…)
迎え撃つか、立て直すかの二択に悩んでいると敵が声を荒げて話しかけてきた。
「さっ、さっさと出てこいよ…!ほ、本当に、こ、殺すぞ…!」
晴人は溜め息をついた。こんな雑魚に変な事ばっか考えて緊張していたことに呆れていた。
「いざとなったら、あれがあるし…」
そう呟くと、腰を落として一気に強襲を仕掛ける。
(来た…!)
敵はすぐさま晴人に照準を合わせ発砲しようとする。が、晴人の異変にすぐさま気づく。彼の目は真っ赤に染まっていた。
「うわぁぁー!」
気味悪さに思わず叫んでしまう。しかし、晴人はそんな声に驚きもせず大型のサバイバルナイフを敵に突きつける。
それに反応し遅れて発砲。が、緊張からか全く晴人に銃弾が当たらず、大きく逸れてしまう。
(じゃあ…)
もう一度、照準を合わせ直しギリギリまで引き付けて撃つ戦法に変更する。それなら確実に銃弾を当てられるからだ。
晴人はどんどん距離を詰めていく。そして…
(今だ!)
発砲。銃弾は確実に晴人の眉間を貫く。
はずだった。
晴人は発砲のタイミングと同時に跳躍。一気に敵のふところに入り彼の頸動脈をナイフで切断。
敵は声にならない叫びと大量の血を出しながら、地面に倒れこんだ。
「腰を落として移動してたのは、避けやすいように下に銃弾を集めるためだよ。それに力が入り過ぎてて照準が狂ってたから、何回撃っても当たらないんだよ。」
晴人は地面に転がった屍を相手に、淡々と説明する。
そして、その屍を見る晴人の目は涙で滲んでいた。