初手
「まだか…」
木島はモニターを眺めながらそう呟いた。
「そうですね」
すると木島の隣の女性、三嶋亜季が返答する。彼らは今、被験者のデータを目の前のモニターで観察しており実験の全体の動きを見ている。
「そろそろ休憩したらどうですか?まだ始まったばかりなのでデータは取るのは難しいのでは…」
実験開始からほとんど寝ずに研究を進めていた木島の体を考え三嶋は休憩を勧めた。すると、木島は少しの間黙り込み
「そうだね…そろそろ休まないと体が持たないね…少し休んでくるよ」
木島はふらついた足取りで実験室を出ようとする。そして木島が仮眠を取ろうと寝付いた時、晴人はホテルを後にしていた……
晴人はホテルから急いで出ると外はとても暗かった。その不気味な暗さが晴人の恐怖がさらに増幅させる。
(ホテルを出たのはいいが…どうしよう…)
何も考えずに出てきてしまったため全く計画を立てていない。とりあえず現在地を把握しようスマートフォンを取り出すため荷物を下ろす。すると、晴人は自分の荷物を確認していなかった事に気づいた。
運営からの荷物は黒いリックサックの中に入っており、晴人が起きた時もベッドの近くに置いてあった。そのリックサックの中を開けると中にはお金や携帯型充電器、水など生活用品などが入っていた。
そして生活用品の他にはこの実験に必要不可欠な武器があった。晴人はその武器を手にとると見た目の迫力に驚く。それは大型のサバイバルナイフだった。
ナイフの刃の部分にはカバーがされており晴人はそのカバーを外すと月の光に反射させて刃をじっくり見る。月の光により光る刃はさらに鋭く見えた。
数秒後、我にかえった晴人は急いでリュックサックの中に荷物を詰め込んでスマートフォンで現在地を検索する。
(とりあえず…人の多そうな駅周辺に行こう)
現在地を確認した晴人は安全を確保するため人がいる場所に向かう事にした。人が多ければ敵は変な行動も出来ないし、誤って一般人を殺してしまい失格になるかもしれないからだ。
数分走ると駅に着いた。駅周辺はそう遠くはなく、晴人の読み通り人が集まっていた。しかし、ここに来たのはいいがまた先の計画を考えなくてはいけない。
とりあえず一旦、休もうと近くのベンチに座ると晴人はスマートフォンを取り出した。ボタンを押して起動させると時刻は0時を過ぎ日付が変わった事に気づく。
(ポイントがもう減ったのか…)
こんな風に1日ずつ生きていける日が減っていくのを実感すると自然と目から涙がこぼれた。
(俺が何をしたっていうんだよ…くそっ…)
ぶつけようのない怒りが溢れ、無意識に手に持っていたスマートフォンを強く握りしめていた。
そして涙を拭くと晴人は誓った。絶対に生き残る事を…