03.孤児院
諸事情から、段落などがなく大変読みづらくなっています。後日修正いたします。申し訳ありませんm(_ _)m
※修正しました
「ずっと昔、私たちの生きるこの世界は"無"そのものでした。
光も闇も、生も死も、何も無い世界……そこにある時《神》が顕れました。
"無"の世界に、神は息吹を吹き込みます。
神の吐息が世界を撫でると、そこに大地が生まれました。
神の涙が海を創り、海はやがて生命を育むようになりました。
大地が緑に覆われ、世界に三百の大陸が出来たとき、人間が生まれました。
時と共に、人間達は、生きていくということを知り、同時に死を知りました。
やがて人間達は争います。他の生き物達を殺しながら。世界を壊しながら。
神は嘆きました。世界を創ったのは間違いだったのか、と。
そうして、神は一つ試練をこの世界に与えることにしました。
その、試練とは」
「ロキお姉ちゃん!!」
自分を呼ぶ声に少女は、手にした書物から顔を上げた。途端に、先程までは少女の朗々とした声が響くばかりだった部屋に、子供達の喧騒が沸き上がる。
「ユイ! ジャマすんなよな!」
頬を膨らませている少年。その少年が睨んでいるのは、先程走ってきた少女のほうだ。ユイと呼ばれた少女も少年もまだ幼く、あどけない顔立ちをしている。
「だ、だって……」
息を切らしながらも少女は、少年の目を真っ向から睨み返している。しかし、その伏し目がちの目には、早くも涙が浮かんでいた。
「レオやめなさい。ユイも、すぐ泣かないの」
「だって、こいつが」
「な、泣いてないよぉっ!」
今にも取っ組み合いを始めそうだった2人を宥めたのは、先程ロキと呼ばれていた少女だ。言葉とは裏腹に、優しく目を細めている彼女を見て、ようやく2人はお互いから目を逸らした。それを見て、微笑んだロキは、ユイに向かい合うようにして、しゃがみ込む。
「それで、ユイはどうしたの?」
「あ、あのね! ルークが帰って来たの!」
「ほんとかっ?!」
嬉しいそうに言うユイの言葉に反応したのは、腕組みをして顔を背けていたレオだった。さっきまでの不機嫌そうな表情は、きれいさっぱりと消えている。
「ほんとだよ。ただ……」
「ただ?」
「そ、その……」
ユイが何かを言いかけるが、レオは満面の笑みを浮かべて、どこかへと走り去っていってしまう。
ロキはユイに問うが、明確な答えが返ってきそうに無い。その時、
「うわああああっ!」
聞こえてきたのは紛れも無く、さっき走っていったレオの悲鳴。
ロキの表情が一瞬で険しくなると、部屋を飛び出していく。後には、あちゃあ、という表情をしているユイが残された。
「どうしたのっ?」
「ロキ!? ……え、えっとこれには色々理由があってだな……!!」
玄関から続く広間に飛び込んだロキの耳に聞こえたのは、五日ぶりに聞く家族の声。焦ったような響きを伴ったそれは、ロキの脳を素通りしていく。
目の前の光景が、彼女にとって理解しがたいものであったからだ。
広間の空気が張り詰めていく。レオはとっくに逃げ出していた。広間にいるのはロキと、入口で冷や汗を流している少年。そして、
「ルーク……」
「ロ、ロキ?」
「どういうことか、しっかり説明してもらうからね」
五日前に狩りへ出かけてようやく帰ってきた彼の手に抱かれている、紅い髪の美少女だけだった。
にっこりと微笑んだロキ。けれどその灰色の瞳は全く笑ってない。
ルークと呼ばれた少年は、背筋に寒いものが伝うのを感じながら、どうしたら命の危険を回避出来るかを必死に考えていた。
◇
「誰だと聞いてるのよ!」
何故こんなところに少女が? それもたった一人っきりで? 少年の頭の中に、いくつもの疑問が弾けるように浮かんでは消えていく。
目の前の少女は、既に腰に履いた剣のつかに手をかけている。少しでも怪しい素振りを見せたら、次の瞬間には首が飛ばされているだろう。
「……」
少年は何も言わない。いや、言えなかった。
ようやく獲物を手に入れられると期待していたのに、その結果がこれだったのだ。美少女よりも獲物を求めていたのだから、その落胆は大きい。
そんな少年にしびれを切らしたのか、少女はつかに手をかけたまま、一歩踏み出した。しかし、少女の膝は足を下ろした瞬間、かくんと折れてしまう。当然、少女の体は重力に従って前のめりに倒れていく。
「っぁ……!」
そんな吐息を唇から微かに漏らし、少女は地面に崩れ落ちた。その紅い髪が地面に広がっていくのをみて、ようやく少年は何が起こったのかに気づいたようだった。
慌てて少女に駆け寄った少年は、その体を抱き起こす。息はしているようだし、怪我をしているような痕もない。ホッと息をつく少年。
(それにしても……綺麗だな……)
近くで見る少女の顔は、その肌の白さや睫毛の長さがより際だって見えた。着ている服がドレスであるため、見ようによっては、人形とすら思える。
(ドレス……?)
見ると、所々汚れているが、その細部まで丁寧に施された刺繍や、美しい装飾をみるかぎり、そうとう高価なもののようだった。少女は、よほど身分が高い人物に違いない。
(それなら、ますますこんな所にいる意味が分からない……それに、急に倒れたのは、一体……?)
と、その時
ぐきゅうるるる……
少年の疑問に答えるように、少女のお腹からそんな音が響いてきた。
「……どうすれば良いんだよ、これ……」
困惑顔で呟いた少年に、ヴァイスラビットが小さく、きゅるっ?、と鳴いた。
ありがとうございました( ´∀`)