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幸せな令嬢の話

最強の婚約者

作者: ぺいた
掲載日:2026/07/26

優しい義母と義妹に恵まれて婚約者と幸せになります

https://ncode.syosetu.com/n8318mm/


に出てくるアラン視点です。↑を先に読んだほうがわかりやすいかもしれません。


誤字報告ありがとうございます~!

何の気なしに学園の窓から校庭を見たら、どこかのクラスが魔法学の実技演習をしていた。


新入生らしい初々しさで、一生懸命魔法の練習をしている。がんばれよ~と思いながら見てると、ひとり動きのおかしい女生徒がいた。その生徒は、きょろきょろと首を動かしながらもぞもぞと足踏みをしていた。手をあげて何か言った後、腹をおさえて校舎に向かって走って行った。


(ああ、腹を下したのか)


と納得していたら、校庭から悲鳴が上がった。

ひとりの生徒の魔力が暴走して、あたり一帯が火の海になったのである。

すぐに教師が消して事なきを得たが、何人かは軽い火傷を負ったようだ。


(さっきの女生徒、いいタイミングで事故を逃れて良かったなあ)


偶然だろうけど、なんとなくさっきの女生徒が気になった。翌日、あの時に校庭にいた先生を見つけたので、名前を聞いた。


「事故の直前に抜けた生徒? アーノルド伯爵家のクラウディア嬢ですね」


アーノルド…どこかで聞いたことがあるなあ、と思って記憶を手繰り寄せて、


(あっ、投資詐欺を逃れた貴族だ)


と思い出した。

2年ほど前に、王都に住む数多くの貴族が投資詐欺に遭ったことがある。

「まだ公になってない、新しい古代遺跡を見つけた」と言って、実際に発掘したという遺物を見せられ、「奥まで採掘すればもっとすごい物が見つかると思うけれど、採掘の費用がないから出資してもらえないか」と持ち掛けてくる詐欺だ。


実際に、少額の投資をした人は1か月ほどで「発掘した遺物を売った利益」として出資金の3倍を手に入れたので、知り合いの貴族みんなに勧めたのだ。参加した貴族は、みんな1度はうまい汁を吸わせてもらえるので「この投資は信用できる」という噂が広まり、ほとんどの貴族が参加して、高額の出資をした途端、投資をもちかけたグループは消息を絶ち、詐欺だったと気づいた時は後の祭りだった。


その時に、被害に遭わなかったのがアーノルド伯爵家だ。他の貴族との関りを避けていたような貴族を除いて、それなりに親しい貴族がいて投資に参加しなかったのは、アーノルド家だけだった。そのせいで詐欺グループとの関与を疑われたが、関連性はまったくなかった。


それで、「どうして投資の話に乗らなかったのか」と伯爵に聞いたら「娘が強硬に反対しまして」と答えたのだった。


ということは、あの女生徒が強硬に反対したってことか?

もしかして、庭での行動は偶然じゃなかったのか?

まさかとは思うが、未来を予見する能力があるとか?


直接話をしてみたくなって、私はアーノルド伯爵令嬢の教室まで行って、呼び出してもらった。


「キャー! アラン王子殿下!? えっえっ、私に? 何の御用ですか!?」

嬉しげに近寄ってきた令嬢を見て、予見能力があるようにはとても見えないなあ、と思ったが、とにかく「ちょっと話を聞きたいんだ」と言ってティーサロンに誘った。


お茶を飲みながら「2年前の投資詐欺のことなんだが」と切り出した。

「あっハイ! ありましたね! 遺物発掘のやつ!」


「その時、アーノルド伯爵は『娘が強硬に反対したから参加しなかった』と言っていた。反対したのは君か?」


「そうです! よくご存じですね」


(やっぱりこの娘が反対していたのか。こんな能天気な顔してるのに、実は思慮深いのか?)


私は納得いかない気持ちになりながらも「反対した理由を教えてもらえないだろうか」と聞いてみた。

すると、


「大嫌いな奴と同じ顔してたから」


と言うのである。

なんだその理由。予見能力があるのを隠したいのかもしれないが、もうちょっとましな理由はなかったのか。


「大嫌いな奴というのは?」


「学校の先生! 顔がいい女子ばっかひいきして、男子や私らにはやたら厳しくて意地悪で嫌味で、もー最悪の奴! なんであんなんが教育者を名乗れるの! 思い出してもむかつく! むきーー!」


彼女の剣幕に驚きながら、「そ、そんな先生がこの学園にいるのか?」と聞くと、「あっ」と今気づいたような顔をした。そして、もじもじしだして


「あの…信じてもらえないかもしれませんが…私には、前世の記憶があるんです」と言った。


「前世」


「ええ、こことは違う世界の。日本という国だったんですけど、そこの学校の先生が、そりゃあひどい奴だったんです。実はその顔を見た時に、前世を思い出したんです。『ああそうだ、私は前世で、こいつにひどい扱いを受けた!』って思い出して」


「なんと」


「こんな顔の奴がいい奴なわけないし、契約したら、この顔が、何度もうちに来るかと思ったらもう我慢できなくて! 絶対反対を貫きました!」


「顔で決めたと…」

なんとも荒唐無稽な話だ。嘘をつくならもっとましな嘘をつくものだろう。設定がおかしすぎて、逆に真実っぽく感じる。


「じゃあもうひとつ質問がある。きのう、魔法の授業の時、生徒の魔力が暴走する事故があったよな?」


「あったみたいですね」


「その直前に君は校舎に入っていったと思うんだが、あれは、この先起こることがわかってたのではないのか?」


令嬢は一瞬ポカンとした後、両手を振って


「まさかまさか! そんな、未来のことなんて、わかるわけないじゃないですか! 急にお腹が痛くなったので、抜けさせてもらっただけですよ~~」


これが演技だとしたらたいしたもんだ、という表情で、令嬢は否定した。

やはり偶然だったのか? だとしても出来すぎのような。どうにも気になる。


私は内密で彼女に監視を置くことにした。その結果、


(予見ができるというより、やたら強運の持ち主のようだ)という認識を得た。


例えば「次の試験で赤点を取った生徒は補習」という時には、ギリギリで赤点を免れる。

予見ができるなら、あらかじめ問題がわかっていそうだし、もっと高得点が取れると思うのだ。


またある日、食堂でランチを取ろうとした時、うっかりトレーを傾けてエビフライを落とし、涙目になって残ったランチを食べていたが、その時のエビフライで食中毒患者が出た。

予見できるなら、そもそもエビフライの入ったランチを頼まないはず。わざわざ選んで床に落とすのは不自然だ。


報告を聞くたびに興味深くなって、すっかり令嬢ウォッチングが趣味になってしまった。


そして「この子なら、一生を共にしても飽きない気がする」と思って、伯爵家に婿入りを打診してみた。

もともと、優秀な第一第二王子がいるし、王位継承には興味がなかったし、彼女は、ひとりしかいない跡取り娘だったし。


伯爵家は二つ返事で了承し、アーノルド伯爵令嬢は私の婚約者となった。


「クラウディアと呼んでいいかな、私のことはアランと呼んでくれ」


「う、嬉しいです! アラン様…! キャッ! 呼んじゃった!!」

真っ赤になってじたばたするクラウディアがかわいい。結婚するのはまだ先だが、婚約者として、じっくり彼女を観察することにした。


内密の監視役は引き続き依頼していたんだが、私と婚約したことに対する妬みなのか、クラウディアはいろいろな令嬢の嫌がらせに遭うようになった。


例えば教室で、クラウディアの足を引っかけて転ばせようと、進行方向に足をのばした令嬢がいた。すると直前で「ハクシュン!」と彼女がくしゃみをして、鼻水がたらりと令嬢の足にかかった。「えっやだっ! 鼻水かけちゃった! ごめんね!」と彼女はすぐに謝ったのだそうだ。


その時のことは私にも話してくれて、「鼻水つけちゃったのに、全然怒らなかったのよ~。優しいクラスメイトに恵まれて幸せだわあ」と言っていた。


また別の日、彼女にだけ「気の置けないお茶会なので、平服で来てね」と噓をついて、他の令嬢はドレス姿で待ち構え、恥をかかせてやろうとした人間もいた。


その時、彼女はなんと、メイド服でお茶会に現れた。

メイドに「平服ってどんな服?」と聞いたら「私たちが普段着てるような服ですよ」と教えてもらったからだという。そして「あらやだっ、みなさんの平服って、そんな素敵なドレスだったんですね! 私ったら勘違いしちゃって恥ずかしいから、このままメイドにまぎれてお手伝いするわ!」と言ってメイドのふりをして、各テーブルを回った。


彼女は「メイドごっこ、とても楽しかった!」と喜んでいたが、「伯爵令嬢にメイドをさせるなんて」と、主催した貴族が顰蹙を買ったことは言うまでもない。


彼女自身に嫌がらせをするのではなく、嫌がらせの冤罪をかぶせようとする令嬢もたくさんいたらしい。


「クラウディア様に教科書を破かれた」

「大切な形見のアクセサリーを壊された」

「倉庫に閉じ込められた」


という被害を訴えてくるのだが、いつその被害に遭ったのか聞くと、必ずその時間、クラウディアは第三者の目のあるところにいて、確固としたアリバイがあるのである。


それならば、とクラウディアがひとりで二階のトイレに入ったのを見定めて、人けがないのも確認してから階段を落ちたふりをして、「クラウディア様が私を…」と言おうとした計画的令嬢もいたが、その時彼女はトイレの窓から「悪いんだけどー! 紙がないから出られないのー! 持ってきてえー!」と校庭にいる生徒に叫んでいた。


そんな感じでクラウディアはいつも無実が証明され、「私以外の人は、なぜかいろんな嫌がらせに遭うのよね。私だけ無事で、なんだか申し訳ないわ」と言っていた。面白すぎる。


私はクラウディアのひとつ上なので、先に学園を卒業した。

卒業パーティーでクラウディアを婚約者として紹介して、アーノルド伯爵家に婿入りすることを公式に宣言した。反対して騒ぎそうな貴族たちは、なぜか当日、急な用事や急病で欠席していた。


クラウディアは私のいない学園で1年過ごすことになったが、監視は続けていたので、愉快な報告を聞くのが楽しみだった。そんなある日、彼女の母親が急死した。王都から離れたココドコ村で流行っていた病に倒れたらしい。


なぜそんな村に行ったのかと思ったら、「お母様が…お友達に会いにアソコカ領に行くと言っていたので…だったら近くの村の名物のココヨ飴を買ってきてほしいと…私が頼んだんです…」と言う。

「まさかそんな病が流行っていたなんて…私のせいでお母様が…」と泣くので、「君のせいじゃない」と励ましたが、クラウディアが「今まで母親が出かけてもなんとも思わなかったけれど、この時だけはお土産を頼みたくなった」と言っていたので、これは何かあると思って極秘で調べさせた。


そうしたら、驚くべきことがわかった。クラウディアの母親が会おうとしていた友達は、実は最近知り合ったばかりの愛人で、その正体は敵対する隣国のスパイだったのである。このまま母親がこの国の情報を流していたら、お家取りつぶしはもちろん、連座で処刑もあり得た。その前に死んでくれて良かったとしか思えない。


クラウディアがご丁寧にも「帰りに買おうとして売り切れだったりしたら嫌だから、必ず行きの道でも寄ってね」と念を押していたせいで、母親はスパイと会う前にココドコ村に行ったので、情報も漏れていない。何の被害もなくスパイを捕まえることもできた。


彼女の強運は本物だ。彼女が「急に何かをしたくなった」ら、それはきっと、災難を避けるためなのだ。


彼女の母親の喪が明けると、父親が後妻を連れ込んだ。後妻にはクラウディアのひとつ下の娘、エリーがいた。父親と同じ髪の色、似た目鼻。どう見ても父親が浮気して作った子供だ。けれどクラウディアは「それはないわ~。お父様もお母様も、ケンカひとつしたことないのよ~。仲良しだったのよ~」と言っていた。


二人とも愛人を作っていたんだし、ケンカをしないというのは、そんな関わりを持ちたくないくらい、冷めきった夫婦だったのではないかと思うんだが、クラウディアにはそういう発想はないようだった。


愛人を迎え入れた父親や、新しい義母や義妹が、クラウディアにどんな対応をするか心配だったので、腹心の部下であるマチルダに侍女として入ってもらった。クラウディアには「私に近い人間を君の側に置きたい」と言ったら、真っ赤になって「やだアラン様ったらヤンデレ? ヤンデレなの?」と意味不明なことを言っていたが、嬉しそうだったので気にしないことにした。


私の不安は的中し、クラウディアの新しい義母と義妹は、明らかにクラウディアを害そうとしていた。毒の入った食事を出したり、馬車に故障するような仕掛けをしたり、新しく作ったドレスに呪詛を込めたり、階段から突き落とそうとしたり、池に突き落とそうとしたりしていた。


しかし、すべてクラウディアが自分で回避していた。たぶん無意識に。


「今日も、毒の入ったお皿だけをエリー様に渡していたようです。なんなんですかあの人は」

マチルダが呆れたような声で報告してきた。ほんとになんなんだ私の婚約者は。


義母と義妹のしていることはすべて記録してあるし、毒や馬車の仕掛けやドレスも証拠として保存してあるので、いつでも罪に問うことができそうだ。


父親のスタンスがいまいちはっきりしないのだが、たぶん、どっちつかずなのだろうと思う。クラウディアが詐欺を未然に防いでくれたこともあるし、クラウディアが口を出すたびに、父親の事業はうまくいっていたのではないだろうか。だから、愛人にいい顔はしたいものの、積極的に娘を排除しようという動きには出ないのだろうと思う。


しかし後妻とその娘の犯罪行為を止めない時点で、クソには違いないので、一緒に葬るつもりである。


そろそろ始末をつけようかと思っていたある日、デートのためにクラウディアを迎えに行くと、彼女がおずおずと言った。


「アラン様、今日は一緒にお芝居を見る予定でしたけども…」


「どうしたの?」


「なんだかどうしてもチーズケーキが食べたい気分になってしまったのです」


「そうなんだ、じゃあケーキを食べにいこうか。おすすめのお店はある?」


クラウディアがこう言ったということは、芝居の劇場に何かがあるのかもしれない。

私はマチルダに、劇場の警備を固めるよう伝達を頼んだ。


前にも、出かける直前に「市場に行くのはやめて、図書館に行きたい」と言い出したことがあって、念のため市場付近を警戒していたら、はぐれ魔物が出没したのだ。警戒していたおかげで、被害はほとんどなかった。


だから今回もたぶん、クラウディアの言う通りにケーキを食べに行けば、危険な目にはあわないのだと思う。魔力とか戦闘能力とか、強いスキルを持ってるわけじゃないけど、私の婚約者はもしかして、この世で最強なんじゃないだろうか。そんなことを考えながら、私とクラウディアはケーキの店に向かった。



ちなみにこの日、劇場には何の異常もなかった。


ただ、私の母親である王妃が「息子の婚約者と抜き打ちでお話したい」と待ち伏せていた。

つまり、クラウディアが避けたかった災難て…。


いや、まあ、無駄に警備をさせてしまったが、被害が無くて何よりだ。

やたら長くなっちゃいましたが、読んでくれてありがとうございました。

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すごすぎる(๑•̀ㅂ•́)و✧ 最強だ!
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