441Hzの自画像
今回初めて小説を投稿しましたNatsuです。
この話には周りとズレた「自分」が本当に間違っているのだろうか?というふとした思いで書かせていただきました。
初めての投稿でまだかってがわからない部分もありますが、これからも投稿していこうと思うので気が向けば是非読んでみてください。
俺の声は、いつも教室の空気を完璧に調律する。
「明日の放課後、みんなでカラオケ行かね?」
「え、それありー!」
「お前マジで天才!」
「丁度いきたかったんだよなー!」
「だろ!」
俺が笑えば、クラスの温度が1度上がる。
俺が頷けば、その場の空気が「正解」に近づく。
周りの欲しい言葉を欲しいタイミングに言う。
俺はきっとこのクラスのオートチューンの1人なんだろうと思う。
みんなが愛する「440Hz」の基準音。それを完璧に奏でるのが、俺の役割だ。
けれど、誰にも見えない俺の内側では、441Hzの不協和音が鳴り止まない。
中心にいればいるほど、その1Hzのズレが、俺の心を鋭く削っていく。
放課後。誰もいない教室に一人残り、俺はカバンからノートPCとヘッドフォンを取り出した。画面の中で明滅するのは、昨日作りかけたトラック。
それは、教室で見せる「完璧な自分」とは正反対の、歪んだノイズの塊だった。
低音は心臓を圧迫するほど重く、メロディは出口を失ったまま彷徨っている。
これを誰かに聴かせたら、きっと「体調悪いの?」と心配されるか、眉をひそめられるだろう。
いつもみんなが見ている俺を維持するためには、この音は絶対に表に出してはいけない「間違い」に違いない。
俺はヘッドフォンを強く押し当て、ボリュームを上げる。
教室の隅々まで染み付いた、昼間の「440Hzの会話」の残響を、自分の汚い音で塗りつぶしたかった。
窓の外では、夕立がアスファルトを叩き始めている。
激しい雨音。それは音楽理論も、教室のルールも無視した、暴力的なホワイトノイズだ。
ふと、俺は作業を止めた。
ヘッドフォンを外し、静まり返った教室に耳を澄ませる。
トタンを叩く雨音。
遠くで鳴る雷鳴。
古びた校舎が軋む音。
それらはすべて「正しくない音」だ。誰にも調律されず、誰の機嫌も伺わない。けれど、今の自分には、それこそが唯一の「正解」に聞こえた。
俺は再びヘッドフォンを装着し、マウスを握り直した。
今まで「間違い」だと思って消そうとしていた、1Hzのズレ。
それを直すのを、やめた。
あえて不協和音を強調し、リズムをさらに狂わせる。雨音をマイクで拾い、そのままトラックに叩き込む。自分の喉の奥にこびりついていた、言葉にできない「居心地の悪さ」を、そのまま音の波形に乗せていく。
完成した曲は、お世辞にも「良い曲」ではなかった。
美しくない。救いもない。
でも、その曲を聴き終えたとき、自分が初めて深く呼吸できたことに気づいた。
1Hzのズレを抱えたまま、俺は俺として鳴っていてもいいのだと、壊れた音楽が教えてくれた気がした。
翌朝。
俺はいつも通り、教室のドアを開ける。
先に来ていた友達が座る関の真ん中へと歩いて行く。
いつもと同じ朝の時間。
けれど、何かが変わっていた。
みんなが笑っていても、自分だけが少し違うテンポで歩いていても、もう怖くはない。
俺はカバンの中に、昨夜書き出した「441Hzの自画像」を隠し持っている。
それだけで、自分がたとえ世界と合奏できなくても、俺には俺だけの、鳴らし続けるべき音がある。
俺は友人と「正解」を奏でながら、心の中で自分だけで441Hzを刻み始めた。




