たぶん殺人事件が起きる館を作っている工務店
日本国某県の山奥。付近にはコンビニの一軒もないような大自然の中で、十数人の屈強な男達が建築作業を進めていました。
「おう、そろそろ昼にすっぞ」
「へい、親方!」
彼らはこの土地の持ち主から依頼を受けた大工さん。
趣味というのは人それぞれなので別にそれが悪いというワケではありませんが、なんとも奇特なことに、こんな不便そうな場所に大豪邸を建てたいという仕事を注文してくる客がいたのです。
「どれどれ、今日の弁当はっと……お、焼肉弁当か!」
「しかも確かコレ、高いので有名な焼肉屋がランチで限定販売してるヤツっすよ。昨日はこんな場所まで寿司の出前が来たし、こんなご時世にもお金持ちってのはいるもんすねぇ」
普通に考えれば食事休憩を取るのにも苦労しそうな現場ですが、なんと依頼人の計らいで毎日欠かさずに豪勢な弁当や出前が配達されてくるのです。
現金なものですが、こうも手厚いサポートがあれば、トンカチやノコギリを握る手にも普段より力が入るというもの。人員や資材を運ぶのは大変ですが、そんな苦労も吹き飛んでしまいます。おかげで数々の難しい条件をものともせず、工事は順調に進んでおりました。
「わっはっは、毎度こういうお客ばっかりなら助かるんだけどな!」
「まったくっすね! たださぁ、この屋敷。これってもしかして……」
「シッ、言うな……これは単に遊び心があるだけのカラクリ屋敷だ。いいな?」
「う、うす」
条件面については何ひとつ問題はありません。
ただし屋敷の設計図に特定の手順でギミックを解かねば開かない隠し通路や隠し部屋がある点には、少しばかり引っ掛かりを覚えなくもないのですが。
ちなみに依頼者の言い分としては、子供の頃から忍者屋敷に憧れる大の忍者マニアだからなどと言っていました。それが本当かどうかは分かりませんし、忍者屋敷なら純洋風の洋館にするのは不自然だろうと思わなくもありませんでしたが。
ついでに言えば、妙に気前の良い依頼者と彼らが直接顔を合わせたことはありません。電話で声を聞いたこともなく、やり取りは全て電子メールのみ。向こうは仕事で多忙のためと説明していましたし、そうして意思疎通の労力が増える分の手間賃も支払いに上乗せされているので文句はないのですが。
土地の登記謄本でも取り寄せれば所有者の名前は分かるでしょうが、それが本当に依頼者本人なのか確かめるのも骨でしょう。そんな風に疑っているのがバレて、今から契約を切られたり支払いを拒否されたら一大事。
彼らが拒否したところで、どうせ他の工務店に話が行くだけです。
この不景気な時代、これだけ美味しい仕事をむざむざ見過ごすわけにはいきません。仮に完成後にこの館で何らかの事件が発生したとして、ただ依頼通りに建てただけの彼らが刑事罰に問われることもないでしょう。
「っと、そろそろ休憩終わりか」
「うす、親方。ええと午後は……居間の暖炉の中の抜け道からだけ行き来できる地下室の空調回りでしたっけ?」
「おう、ちゃんと仕上げとかねぇと中にいる人間が窒息しちまうかもしんねえからな。組み立て前に空調用のパイプしっかり点検しとけよ」
依頼者の真意がなんにせよ、今この場にいる彼らがやるべきは設計図通りに良い建物を作ることだけです。もし仮に完成後に何が起ころうと大工さんの出る幕はないでしょう。
◆◆◆
そして数か月後。
見事に完成した館の前に、一人の人物が佇んでいました。
「クックック、これで準備は整った……」
この人物こそは高額な費用を払って例の工務店に仕事を頼んだ依頼人。どうやら大工さん達は丁寧な仕事をしてくれたようで、仕込まれたギミックの数々はちゃんと設計通りに動いてくれました。
数々の隠し通路に隠し部屋。
床下収納と言い張って付けてもらった落とし穴。
リモコンのボタン一つで屋敷中の空調も照明も自由自在です。
「やはり忍者屋敷といえば日本家屋などという考えは時代遅れ。これからの忍者屋敷は洋風のスタイルを積極的に取り入れていくべきなのでゴザルよ。ニンニン」
まさか本当に忍者屋敷を作る依頼だったのか。
そう断じるのは早計です。
「これで拙者の発想を馬鹿にした忍びの里の連中を見返してやれるでゴザル、クックック……」
果たして、この館の用途がどうなるのか。
それを知るのは依頼者たる忍者のみでありました。




