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第8話 きわめて合理的な理由

「ふざけているわけではない」


 どこをどう切り取ってもふざけているとしか思えない言動について、ギルベルトはそう釈明した。


「きわめて合理的な判断にもとづく提案だ。まず、きみにはこれから三か月ほど皇城で過ごしてもらうわけだが」

「え、なんで?」


 やだけど。ものすごーく嫌なんですけど。


「なぜって、きみは怪我をしているだろう? 世話をする者が必要じゃないか」

「べつに。自分の面倒くらい自分で見られるし」


 片足がきかないのは不自由だが、その程度なら魔術で十分おぎなえる。


 足の固定もしてもらったことだし、あとは拾った森にでも返してくれれば、一人で適当にやっていくさ。バラーシュたちも探したいしな。


「それは困る」


 しかし、ギルベルトはあっさりと俺の希望を却下した。


「暗殺の決行は三か月後、夏至祭りの式典でと考えている。きみにはそれまで私の側にいてほしい」

「そりゃまた、ずいぶん派手な舞台だな」

「どうせやるなら、できるだけ大勢の目にふれる場の方がいいだろう。舞台が大がかりなぶん、細かな打ち合わせも必要になるだろうし、きみには近くにいてもらわないと困るんだ」

「連絡をとる手段ならいくらでも……」

「くわえて」


 ひとの話を聞け。あとなんで急に距離を詰めてくるんだ。


 後ずさりしたいところだったが、あいにく俺は寝台の中。逃げ場のない俺に、ギルベルトがぐいと顔を近づける。


「仮にも私は皇帝だ。いくらきみが素晴らしい力の持ち主でも、厳重な警備をかいくぐって暗殺をしかけるというのは不自然だ」


 単騎でふらふら犬の散歩してた奴がなに言ってんだよ。厳重って言葉の意味知ってるか?


「というわけで、きみには皇城に来てもらう」


 何がどういうわけなのか、さっぱりわからなかったが、ギルベルトの圧に押されて俺はうなずいた。


「んじゃ世話になるけど、だったらせめて違う口実にしてくれよ」

「たとえばどんな」

「んー……おかかえ魔術師とか?」

「魔術がらみはやめておいたほうがいい。きみが魔王だと気づかれるきっかけになりかねない」

「それもそうか。じゃあ森で出会った凄腕の剣士ってのは?」


 昔読んだ英雄譚を思い出して俺は提案してみた。森の奥でひっそり暮らしていた剣の達人は、仲間とともにいざ冒険の旅へ……


「きみは鏡を見たことがないのか?」


 よーし、おもて出ろ。三か月後なんてケチくさいこと言ってないで、今すぐ片をつけてやろうじゃないか。


「悪いが、きみの外見で武人というのは無理がある」


 かさねて傷えぐってくんじゃねえよ! そりゃあゲイルにも生あったかい目で「人には向き不向きがある」て肩たたかれたことあったけどさ! 俺にも理想というか、夢ってもんがあるわけよ。そのへんちょっとは配慮してくれ、お願いだから。


「それに、魔術師や護衛の剣士では、どうしてもきみに関わる者が増えてしまうだろう。同輩や上官や……そういったものはできるだけ排して、なるべく私的な関係にとどめておくのがよいと思うのだが」


 まあねえ、そりゃ色恋は私的な関係の最たるものだけど、そうは言っても、


「おまえはいいのかよ。俺みたいなの抱えこんだら、皇帝サマの評判がえらいことになるぞ」

「いや、むしろ好都合だ。なにしろ即位してからこのかた、皇妃を迎えろとせっつかれない日がないくらいでな。さすがにうんざりしていたところだ。きみが来てくれれば、宮中のうるさ方も諦めるだろう」

「かえってむきになるほうに金貨十枚……」


 俺はうつむいて額を押さえた。非常に腹立たしいことだが、こいつの主張にそれなりの理があることは否定できない。でもそれにしたって、


「さすがに愛人ってのはなあ……」

「だめだろうか」


 逆に訊くが、何が良いと思ったんだ、貴様は。細切れにしてヘルガの大鍋で煮込んでやろうか? 誰も食わんけど。


「まあ、きみがそう言うなら仕方ない。実のところ、私も少し気がとがめていたところだ」


 おお、珍しく話が通じるじゃないか。じゃあここはひとつ──


「やはり正式に結婚しよう」


 ちっがああああああう!!


 俺の手をとろうとするギルベルトの手を払いのけ、血を吐くような思いで俺は告げた。


「……愛人で……いこう……」

「そうか、わかった」


 満足そうにうなずくギルベルトに、俺が心の中で唱えた呪いの言葉はゆうに書物一冊分を超えていたと思う。“塔”の蔵書庫にある呪詛集の中級編くらいには相当するんじゃないだろうか。


 そうだ、久しぶりに忍び込んで上級編をかっぱらってこようかな。そんで片っ端からこいつに試す。想像するだけで胸が躍るぜ。


「あらためて、よろしく頼む。ノア」


 ふん、その名を呼ぶか。さすがにエリアスの名を使えないのはわかっているが、だからといって俺はおまえと馴れ合う気はないからな。


 差し出された右手から顔をそむけ、俺は両のまぶたを閉じた。ひとまず今は休みたかった。何も考えず、ただ眠りたかった。



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