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本当に欲しいもの(3)

「……いや、それ怖いって」


 元皇妃の館の木陰で、現役魔王はうすら寒そうな顔で腕をさすった。


「何がだ。まっとうな一目ぼれだろうが」

「どこがまっとう? ひとの首切り落とした現場だぞ? それで惚れるとか、おまえ相当な変態だな」


 失敬な言葉をまきちらす口をふさいでやろうとあごを持ち上げたところを、手の平で阻まれた。


「ここ外!」

「誰もいないが?」

「いるだろエリックが! あとこいつも!」


 緑陰でまどろんでいた大型犬が、ふさりと白い尻尾をふる。遠くの生垣から顔を出す甥はともかく、犬まで勘定に入れなくてもよかろうに。


「いつまでたっても素直じゃないな、おまえは」

「黙れ変態」


 きっとにらみつけてくる瞳は、昼の光のもとでは明るく澄んだ菫色に見える。焦がれていた夜の色と同じくらい、今はこの色も好ましい。指通りのいい漆黒の髪も、からかうとすぐに赤くなる目尻も、何もかも。


「……何笑ってんだよ、気色悪い」


 笑いたくもなるというものだ。やっと欲しいものを手に入れたのだから。


 さんざん手間をかけて、用意周到に網を張って、手練手管を総動員して。それでもすばしっこく手をすりぬけようとするこの魔王の首根っこを、ようやくつかんだのだから。


 ひとたび手に入れたからには、手放す気はさらさらない。そのあたりの覚悟が、この鈍感きわまりない相手にはいまひとつ伝わっていないようだが、まあ、それはおいおい思い知らせてやるとしよう。


「楽しみだな、ノア」

「…………何が?」


 警戒もあらわに身を引こうとする愛人の肩を、すかさずつかんで抱き寄せる。


「だからやめろって、この変態!」


 真っ赤になってわめきたてる青年と、「叔父上ずるい!」と駆け寄ってきた甥と、足元で吠える番犬を、ギルベルトはまとめて抱きしめた。陽光きらめく夏の庭で。




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