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第30話 昼下がりの噂話

 昼どきの皇都の街を、武装した兵士が駆けていく。


 飯屋の窓からそれを眺めていた俺の隣で、職人風の男ふたりが飯をかっこみながら噂話に花を咲かせていた。


「まだ捕まらねえのかい。いやだねえ、さわがしくて」

「まったくだ。今日はとんと客がよりつかねえし、小僧どもも手え動かさねえでくっちゃべってばかりだ」


 一人がぼやけば、もう一人も渋い顔でうなずく。


「うちんとこもだよ。いっそ今日は休みにしちまおうと思ったんだが、カミさんがやかましくてなあ。ほら、このまま陛下がアレんなっちまったら、当分は店閉めねえといけねえだろ。だったら今のうちに稼いどけって」

「ははっ、できた嫁さんだなあ。俺も今のうちに黒の染料仕入れとくか。結婚とちがって葬式ってのは読めねえもんだが、備えとくのに越したことはないからな」


 いいねえ、おっちゃんたち。そういうたくましいとこ、俺好きだぜ。でも、もうちょっと声おさえたほうがいいかもな。下手すりゃ不敬罪であんたたちがとっ捕まるぞ。


「おっちゃん、おっちゃん」


 余計なお世話と思いつつも、俺は職人にそっと声をかけた。


「そういうことはさ、あんまり大声で言わないほうがいいんじゃねえの」

「なんでえ、あんちゃん」


 むっとした様子で顔をしかめた職人だったが、その向かいのもう一人(できた嫁さん持ちのほう)はうんうんとうなずいてくれた。


「あんちゃんの言うとおりだな。こういうのはあんまり大っぴらに話すもんじゃねえ。誰かに真似されちまうからな」

「それもそうか。儲け話はなるべくこっそり、てめえだけで抱えとくのが利口だな」


 お見それしました。俺なんかが口を出すまでもなかったですね。


 予想を超えるたくましさを披露した親方たちは、皿をどかして食後の一服をつけ始めた。


「あんちゃん、見ねえ顔だな」

「ああ、昨日来たばかりでさ。奉公先のお遣いで」

「そりゃあ運がよかったなあ。一日遅れてりゃあ城門くぐらせてもらえなかったぜ」

「そのかわり出してももらえねえけどな。あんちゃんも、運がいいんだか悪いんだか」


 煙管の煙をくゆらせながら、二人は何くれと俺に話しかけてくる。


 どうやら一服吸い終えるまでの暇つぶし相手に選ばれたらしい。同じく手持無沙汰だった俺は、しばらく職人たちに付き合うことにした。


「まったくだよなあ。早く犯人捕まってくれないと俺も帰れねえんだよ。旦那様に怒られちまう」

「気の毒にな。でもまあ、どうせすぐに捕まるだろ。そう遠くまでは逃げらんねえよ」

「へえ。てことは、もう犯人の目星がついてるのか」

「なんだ、あんちゃん、知らねえのか。これだよ、これ」


 職人の一人が小指を立てて意味ありげに笑った。


「なんでも、愛人にナイフでぶっすりやられたらしいぜ。痴情のもつれってやつだな」

「うわ、おっかないな」

「しかもだな、聞いて驚け。愛人は愛人でも、そいつはどうも男らしいんだな」

「うっそだろ!」


 大げさな俺の反応がお気に召したらしい。職人たちは得意げな顔で話をつづける。


「陛下がそっちのご趣味だってことは前から噂になってただろ。ほら、なかなか皇妃様をお立てにならないもんだから。けど、いつまでもそれじゃいけねえって周りにせっつかれて、とうとう別れることになったんだと。で、別れ話に逆上した愛人が刺しちまったとか」

「いや、俺は心中って聞いたぞ。先に刺したのが愛人だけど、力が足りなくて失敗しちまってよ。そんでびびって逃げたってな」


 おーい、おっちゃんたち、店の小僧さんのこと言えねえぞ。あんたらもめちゃくちゃ楽しそうにしゃべってるじゃないか。


「どっちにしても迷惑な話だよな」

「ちがいねえ。ま、せっかくだ。あんちゃんも、どうせ帰れねえんだったら皇都見物でもしていきなよ」

「それがいい。けど、気いつけなよ。あんちゃんみたいに別嬪さんだと、例の愛人と間違われてしょっぴかれるかもしれねえからな」


 がははと笑って職人たちは席を立った。


 微妙に失礼なことを言われた気もするが、この程度で腹を立てるほど俺も野暮ではない。たぶん基本的には気のいいおっちゃんたちだし。


 仕事場へ戻っていく親方たちを見送ると、入れ違いのように別の男が二階から降りてきてた。


 俺と同じく、簡素な旅装姿の若い男だ。違う点といえば腰に剣を下げているところだろうか。


「待たせて悪かった」

「そんなに待ってねえよ。話し相手もいたし」


 いつもと違う髪色が気になるのだろう。そいつは茶色の前髪をいじりながら、親方連中の背中を目で追った。


「何の話をしていたんだ?」

「おまえの葬式の話」

 

 俺が答えると、その男──ギルベルトは「気が早いな」と苦笑した。



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