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第23話 あぶないご趣味とあやうい立場

 魔王らしい外見というものがあるとすれば、俺の見た目はまず及第点と言っていいだろう。かつてのエリアスがそうであったという、真っ直ぐな黒髪と紫の瞳のおかげだ。


 とはいえ、さすがに黒と紫の持ち主がみな魔王というわけではない。


 しかし、ハロルドは迷いなく俺をそう呼んだ。いつかのギルベルトのように、笑みをたたえて。


 皇帝と同様、勇者様にも俺の正体はとっくにばれていたわけで、つまりどういうことかというと、


「──危ないなあ」


 遠慮なくやっちまっても構わないということだ。


 だが、俺が放った攻撃は、ハロルドに届く前に消し飛んだ。


 眉も動かさず俺の術を相殺したハロルドは、わざとらしい仕草で服の裾をはらった。


「きみ、手が早いって言われたことはない?」


 あるぞ。つい最近な。おまえはやつより気がきいてる。おまえが身をかわしていたら、後ろの樫の木が吹っ飛んでいたところだった。おかげで、庭師のヤン爺に叱られずに済みそうだ。


「おまえ、何者だ?」


 単刀直入に俺は尋ねた。


 こいつがただの人間じゃないことはわかっている。自惚れでも何でもなく、俺の術を瞬時にはじいてしまえるやつが、ただものであるわけがない。


「いやだな、昨日ちゃんと名乗ったじゃないか。ハロルドだよ。勇者ハロルド」

「はぐらかすなよ。もう一発いっとくか?」


 脅しの意味をこめて片手をあげると、ハロルドは「やめときなよ」と首をふった。


「綺麗な庭が台無しになる。これも言っただろう? ぼくは綺麗なものが大好きだって」


 にこやかに笑うハロルドは、勇者というよりいっそ「王子様」と呼びたくなるような外見だった。


 きらめく金髪に晴れた空のような瞳。俺とは対極の明るい色彩も、だけど俺の目にはまったく別の色に映っている。ねっとりと絡みつくような、沼底のような暗い色に。


「だから、きみのことも気に入ってる。だってきみ、すごく綺麗だからさ。特に昨日の衣装はよかったね。あれ、また着てくれないかな。それでさ、今度は寝台でさあ……」


 白皙の面にうっすらと朱をのぼらせて、ハロルドはつづけた。


「ぼくのこと縛って踏んでくれない?」


 ──ドッカン!!


 ごめん、ヤン爺。我慢できなかった。


「だあから」


 今度は飛びのいて難を逃れたハロルドの横で、かわりに犠牲となった樫の残骸がぶすぶすと黒煙をあげていた。


「危ないって。きみ本当に気が短いね」


 やかましい。誰より危ない趣味の持ち主がなに言ってんだ! あーやだ、もうやだ、なんで俺のまわりってこう変態ばっかなの!?


「せっかく二人きりで話をしようと思ってきたのに、これじゃあまた邪魔者が寄ってきちゃうじゃないか」


 ハロルドの言うとおりだった。さっきの大音響で、じき人が集まってくるだろう。おそらく鬼の形相をした庭師を筆頭に。


「ま、いいか。こんなに明るくちゃ気分も出ないし。いったん出直すことにするよ。今度は夜に会おうね。ちゃんと道具も持ってくるから」


 どんな道具!? 知りたくないけどすっごく気になる! 悪い意味で!


「そこの変態」


 もはや名を呼ぶのも嫌になった俺は、代わりにそう呼びかけた。


「おまえのイカれた趣味に付き合う気はまったくないがな、それ以外は全部俺が相手をしてやるよ。だから、他の人間には手を出すな。この館の人間に指一本でも触れてみろ。その金髪頭引っこ抜いて教団の祭壇に供えてやる」

「……いやだねえ」


 すうと目を細めてハロルドは俺を見下ろす。


「仮にも魔王を名乗った者が、くだらない情に流されちゃってさ。いくら偽者だからって、見苦しいにもほどがある」

「なんだと……」


 やつに噛みつきかけて、俺はぎくりとした。おい、こいつはいま何と言った? 偽物って──


「ねえ、ノア」


 そう呼んだ後で、ハロルドは首をかしげた。


「たしか、ノアでよかったよね。つまらない名だけど、とりあえずそう呼んでおくよ。だって、エリアスなんて呼ぶ気にはなれないもの。それはぼくに返してもらわないと」


 がん、と頭を殴られたような衝撃だった。


 魔王エリアス。一千年前の、伝説の王。


 その生まれ変わりが俺だなんて、俺自身も信じたことはない。そもそも生まれ変わりなんて話自体、馬鹿げていると思っていたのだ。いまこのときまでは。


「ね、ノア、きみはもう少し自分の立場ってものを考えたほうがいいんじゃないかな。ぼくの名も城も手下たちも、全部きみが盗んだわけだからさ。盗人にはお仕置きが必要だろう?」


 そのお仕置きとやらは、される方なのかする方なのか……いや、いま気にするところはそこじゃない。


「ハロルド」


 腰を浮かしかけたところで、左足に激痛が走って地面に手をつく。くそ、この役立たずの足が。


「じゃあまたね、ノア」


 ハロルドはひらひらと手を振り、次の瞬間ふっと消えた。


 無様にへたりこむ俺を案ずるように、バルトが鼻を寄せてくる。


 俺は目を閉じ、バルトの首を抱きしめた。館の人々が駆け寄ってくるまで、そのまま温かな毛に顔を埋めていた。





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