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第14話 間抜けと天才は紙一重

「おい、クソ親父」


 性懲りもなくその晩も部屋にやってきた皇帝は、俺の呼びかけに首をかしげた。


「きみの父親になった覚えはないが」


 当たり前だろ。おまえみたいな変態野郎が父親とか、冗談でも勘弁してくれ。そうじゃなくて、


「エリックのことだよ。おまえ、エリックの父親代わりなんだろ?」

「兄上の代わりは誰にも務められないが、まあ後見役という意味ではそのとおりだ」

「だったら」


 毎度のことながら勝手に俺の向かいに腰かけたギルベルトを、俺は怒りをこめてにらみつけた。


「なんでエリックを放っておく。子どもの環境を整えてやるのが親の務めだろうが」

「……ああ」


 ギルベルトは苦い笑みを浮かべてうなずいた。


「もう気づいたか。さすがに察しがいい」

「悠長に感心している場合かよ」


 吐き捨てる俺の前で、ギルベルトは銀杯に酒を注ぐ。「陛下がいらっしゃるなら」とアデルが用意してくれたものだ。


 もてなしの心は素晴らしいが、できたら別の場面で発揮してほしかった。こいつには泥水を出しておくくらいが丁度いい。


「きみの言いたいことはわかっているつもりだ」


 俺の苛立ちを知ってか知らずか──いや、こいつ絶対わかってるよな──ギルベルトは悠々と酒杯に口をつける。


「魔術師の素質がある者は、すべからく“塔”へ。一切の例外はない。それは私も承知している。だが、あの子はまだ五歳だ。五歳の子どもを母親から引き離すわけにもいくまい?」


 それこそ俺だってわかってるんだよ。ついでに、次におまえが口にしそうな言い訳もな。


「それに、あの子は普通の子どもではない。次期皇帝、皇太子だ。魔術師の才を磨くより、学ぶべきことは他にいくらでもある」


 やれやれ、予想通りすぎて嫌になる。その程度で俺が言いくるめられるとでも思ったか。


 できることなら目の前の酒をこいつにぶっかけてやりたい。もったいないからやらないけど。


「エリックが次期皇帝なら、おまえは現皇帝だろ」


 二杯目を注ごうとしていたギルベルトの手が止まる。


「例外がないなら、おまえがつくれよ。そのたいそうな権力でも何でも使って、エリックに指南役の一人もつけてやればいい。そのへんの魔術師で不足なら、“塔”から誰かよこしてもらえ。皇帝ならそれくらいできるだろ」


 そう、なにも“塔”へやらなくてもいい。エリックに必要なのは、持って生まれた力を正しく理解し、制御できるよう導いてくれる者の存在だ。


 万が一にも、エリックがその力を暴走させることのないように。


「いくら私でも“塔”の掟に関与することは……」

「できるさ。あそこの連中、俗世とは関わらないとか、学究の徒だとかいってお高くとまってやがるけど、ひと皮むけばただの人間だからな」


 金と権力に弱いやつはいくらでもいるし、あのつるぴかの壁の内側も一枚岩じゃない。


「おまえがひと押しすれば、苔の生えた掟も簡単に書きかえてくれるだろうよ」


 言いながら、俺は奇妙な居心地の悪さに苛まれていた。


 なんだろう、この感じ。肌がざわざわするような、この何ともいえない違和感は。


 俺は間違っていないはずなのに、この落ち着かない気持ちはいったい何だ。


「なるほど」


 ギルベルトは膝の上に両肘をつき、組んだ指にあごをのせた。


「きみはずいぶん“塔”のことに詳しいのだな。さすがは元住人といったところか」


 その瞬間、俺は衝動的に酒杯をつかんで中身をぶっかけてやりたくなった。目の前の皇帝にではなく、間抜けな俺自身に。


「……知ってたのかよ」


 ああ、なんてざまだ。こいつが皇帝の皮をかぶった詐欺師だってことくらい、とっくにわかっていたはずなのに。いいように誘導されて、“塔”の内情までぺらぺらしゃべっちまった。


 だからあなたは脇が甘いというのですよ、なんて、バラーシュの小言が聞こえるようだ。ついでに「素直なのはいいことじゃないか。ほら、なんとかと天才は紙一重と言うだろう」というゲイルの慰めも……あれ、あのとき俺慰められたんだよな?


「前に話したはずだ。私は元々きみたちとの共存を望んでいたと。親しくなりたい相手のことを調べるのは当然だろう?」


 それ、やりすぎると付き合う前に嫌われるから、ほどほどにしといた方がいいぞ。俺に関してはもう手遅れだからどうでもいいけど。


「きみのことを調べるのはなかなかに骨が折れたよ、魔王エリアス殿。いや──」


 限りなくうさんくさい笑みを浮かべ、ギルベルトは酒杯を掲げてみせた。


「“塔”の天才魔術師どの」



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