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第12話 お疲れなのは誰のせい

「昨夜はよく眠れたかしら、ノアさん」


 ええとても、という俺の返事が社交辞令であることは、相手がアデルじゃなくてもバレていたと思う。


 目の下にくっきり浮いた隈が、俺の寝不足ぶりをはっきり物語ってくれていたから。


 それもこれも、あの馬鹿皇帝のせいだ。あの赤毛野郎、結局あのまま居着いたあげく、寝ちまいやがって。


 寝台のかわりに長椅子を寝床にしたギルベルトを放っておいて、俺はずっと遠見の術を駆使して仲間を探していたのだが、やはり他人が側にいると気が散ってしまい、なかなか思うように「飛べ」なかった。


 ぶちぶち何度も術が切れて、目を開ければ鬱陶しい赤毛が視界の隅に映る。その都度あいつを部屋から蹴り出してやりたい衝動をなんとかおさえ、一晩中あちこちさまよった俺だったが、収穫はまるでなし。


 あきらめて意識を戻したのは明け方近くで、ギルベルトはいつの間にか姿を消していた。


 卓の上に残されていた「また来る」という書き置きを屑入れに突っこみ、短いまどろみから覚めたのはつい先ほどのことだ。


「ノア、元気ない? 足いたいの?」


 一緒に朝食の卓を囲んでいたエリックが、心配そうに俺を見上げてくる。


 おっと、エリック。悪い悪い。何でもないぞ。おにーさんは今日も絶好調だ。


「大丈夫、大丈夫」


 お茶のカップを持ち上げて、俺はせいぜい溌剌とした笑顔をつくってみせた。


「ちょっと疲れてるだけだから」

「あら、それはいけないわねえ」


 アデルがおっとりと口をひらく。


「陛下には私からよく申し上げておきますから。あまりノアさんを疲れさせないようにとね」


 ……何をお考えになってのご発言ですかね。いや、だいたい想像はつきますが、断じて違いますから、それ。


「ノア、今日はぼくと遊ぶよね? 何して遊ぶ?」

「エリック」


 勢いこんで俺に尋ねてくるエリックを、アデルはやんわりとたしなめた。


「ノアさんはお疲れなのですから、無理を言ってはいけませんよ。それに、エリックはお勉強があるでしょう?」

「……勉強やだ」


 心底嫌そうに肩を落とすエリックが可愛くて、俺はつい口をはさんでしまった。


「なんでそんなに嫌なんだ?」

「だって」


 ものすごく不味いものを口に入れてしまったときのように、エリックはぎゅっと顔をしかめた。


「今日の先生は、いやな……」

「エリック」


 やわらかく、だが有無を言わせぬ厳しさをもって、アデルがエリックの言葉をさえぎる。


「そういったことは口に出してはいけません。いつも言っているでしょう?」

「……はい」


 あー叱られちゃったか。まあ先生の悪口はよくないかな。お母さんの言うことはよく聞いたほうがいいぞ、エリック。


 だけど、なんだろうな。


 目の前の構図──息子をたしなめる母親、という世にもありふれた光景に、わずかな違和感を覚えたのは気のせいだろうか。些細な、本当に微細な棘のような引っかかり。


「エリック」


 棘の正体をつかめぬまま、俺はエリックに笑いかけた。


「勉強が終わったら遊ぼうか」

「ほんと!?」


 エリックの顔がぱあっと明るくなる。さっきまでしょげていたのが嘘みたいだ。


「ほんとほんと。楽しみに待ってるから、頑張って勉強終わらせてこいよ」

「うん!」


 元気いっぱいにうなずいて、エリックは部屋を飛び出していった。


 ここまで喜ばれると俺も嬉しくなるな。さて、何をして遊ぶとしようか。


「ごめんなさいね、ノアさん。本当にわがままな子で……」


 困り顔で謝るアデルは、やんちゃな息子に手を焼いている母親そのものだった。


 うん、べつにおかしなところはないよな。さっき感じた引っかかりは、やっぱり俺の気のせいだ。


 そう自分に言い聞かせ、俺はささやかな違和感を香り高いお茶とともに飲み干した。





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