6・ナナカと奈々香
見下していたのだ。
奈々香に負担ばかりかける彼女が少しだけ許せなかった。
親なら気付よ、といつもどこかで悪態をついていた。
言ってしまえば責任逃れができて、自分は楽になる。
でも、言ってしまえば彼女は窮地に立たされ、下手したら自殺をはかるだろう。
そうしたら奈々香はどうする?
目が覚めたときに母親がいなかったら、彼女は自由と少々の解放感を得た代わりに崩れ落ちてしまうだろう。
だから奈々香のためを考えてこれ以上この人を刺激しないようにしよう。
とぼんやりと隣でまだ涙を流している奈々香の母親を眺めていた。
それから幾日かが過ぎ、ついに脳死状態にあると聞かされた。
ナナカもあの頃のまま電源を入れられずにいた。
もしこのまま意識が戻っても体は正常にはもどらない。
奈々香の母親の体力も限界まで来ていた。
この前、過労でぶっ倒れたらしい。
これ以上奈々香を入院させることはできないだろう。
きっと入院させておくために必死に掻き集めたお金がすぐに消えたのだから。
奈々香の生死を決めるのは彼女だ。
俺ではない。
だから久々にナナカにスイッチを入れよう。
異常があるかもしれない。
そう思いたち、ナナカに電源を入れると、その目は見開かれ、プログラムされていない言葉を発した。
「アレ・・・・・・イチヤ・・・・・・アタシ ナニ シテタノ・・・・・・?」
ナナカの声でも、言葉の使い回しが完璧な事、またプログラムしていない仕草をナナカがしていることにすごく驚いて壹也はナナカをまじまじと見た。
「ナナカ?」
「ソウダケド・・・・・・体ガ 重イ 言葉 モ 遅イ ナンカ・・・・・・全部 ガ 変・・・・・・。」
その瞬間壹也はナナカではなく、ナナカの中に奈々香がいるのだと気付いた。
「奈々香!?」
そのとたん、プツンという小さな音がして、いつもの聞き慣れた声が聞こえた。
「イチヤ プログラム 二 バク 発生 削除開始 サレル?」
「削除するな!ノーだ!ノー!」
するとナナカは目を少しだけ点灯させると言った。
「未知 ノ バク 現在移動中 今スグ 削除開始 プログラム 書キ換エ サレタ コノ ママ NANAKA.Program 実行不可能。」
ナナカが言おうとしているのは自分のプログラム内に今まで存在しなかった自分で行動するバクが現れたということ。
しかもそのバクはナナカの設定をどんどん今も変えているらしく、このままではナナカに設定してあったNANAKA.Programというファイルまで書き換えかれて、ナナカ自体が代わり、NANAKA.Programが実行できなくなるということだ。
でもそのバクというのはナナカの中にいる奈々香本人の意思・・・・・・。
壹也は無我夢中でナナカに命じた。
「構わない!消すな!ノー!」
「了解 サレタ。」
その瞬間、また目が点滅のようになると、奈々香が現れた。
「アレ? アタシ 何 ガ 起コッテ・・・・・・ソレヨリ ドウシテ アタシ コノ子 ノ 中 二 イルノ?」
どうやら頭の回転がいい奈々香はすでに体が自分の物ではなくナナカの中にいると気付いたらしい。
「ア、ア、ア、アァァァァァァアアア~♪」
壹也が困っていると奈々香はいきなり声をあげた。
しかも音量がまちまちなために非常にうるさい。
「う、うるせー!奈々香!何やってんだよお前!」
「ダッテ 音 ガ 小サカッタ カラ・・・プログラム 書キ換エ シタカラネ。」
確かに音は聞きやすい音になったが発音はまだまだだ。
「ム ム・・・・・・マダ 単語 ト 単語 ノ 間 ガ 長スギ・・・・・・!」
「というか、あんまりいじくんなよ。壊れるかもしれないだろ。」
するとしばらくの間が開いたのちに彼女は言った。
「コレデヨシ!」
それは彼女の声そのもので、感情まで入っている。
どうやらイントネーションも変えて、間も変えたらしい。
声は元々彼女に採取を頼んだものだ。
彼女の声以外になるわけないが、イントネーションがあると彼女が本当にそこにいるようだった。
「大体サァ、プログラムファイルガ重イ!アリエナイ!アタシ、コノ子ノ中二イルノニアタシガイジクルノモ大変ナンテ、重スギデショ!」