2・奈々香
「はい。」
ちなみにナナカというのは彼の・・・・・・イチヤの幼なじみでありライバルであり、片想いの相手である春川 奈々香というまんまそれである。
ナナカは彼女に似せて作られており、声も彼女から採取したものを音源にしている。
奈々香という少女はイチヤよりも数段賢く、彼がロボットを作り出したのも彼女の影響だ。
「やぁっほぉっ!壹也ぁ!」
そう元気に入ってきたのは・・・・・・奈々香、彼女である。
彼女はこうしてたびたび唐突にイチヤの部屋を訪ねてはナナカの調子を見にくるのだ。
「いきなり来んなよ・・・・・・。」
内心爆発しそうな胸を押さえて冷静にかつ、素っ気なく言った。
「だってさぁ?気になってぇ・・・・・・。」
間抜けそうにテヘッと自分の頭を叩く姿を見ながらイチヤは到底頭よさそうには見えない・・・・・・と毎度の事ながら思い、彼女を部屋へと上げる。
いや、むしろ彼女が部屋へと上がり込んできたといえる。
そんな彼女でもロボットを目の前にするととたんに目付きがかわる。
そんな彼女の才能はイチヤ自信が一番よく理解している。
「ね、壹也、この子の名前はまだ?」
奈々香はナナカを指差しながらイチヤを振り替える。
「ま、まだ!」
少女に少女の名を付けたことを少年はまだ話していない。
「ふぅん・・・・・・壹也、この子どれくらい話せるの?」
「イチヤ 理解不能。」
ナナカはこれで二度目となる理解不能を感情なく言い切った。
「まだまだじゃん!なぁんだ、そろそろ壹也があたし抜かしててもおかしくないなと思ったのに。」
そういいながら彼女は笑った。
そう、もうとうに抜かした彼女の身長も、ずいぶんと低くなった声も、彼女の丸みを帯びた体付きも、時は流れた事を告げているのに少年は少女を追い越せずにいる。
「よく言うよ・・・・・・世界ロボコンで一位のヤツが・・・・・・。」
少年はいやみをこぼし苦笑した。
少年は世界ロボットコンテストで16位の結果に終わったが、それでも前回の予選敗退よりはかなり伸びたと豪語しているし、彼女もそのことは良くわかっている。
「なぁんてね、敵観察ってわけじゃないの!にしても・・・・・・いつもながらに汚い部屋・・・・・・あんたって少年誌とかに出てくる典型的な男子だよね、私だって足場がなくなるくらい汚くしたことなんてないのに・・・・・・。」
あきれ気味に腰に手を当て、室内をキョロキョロ見渡す奈々香を見ながら自分だってどっかのにぶちんで俺の気持ちに気付かないどこかの漫画の中の人物じゃないか・・・・・・と心で突っ込んだ少年を無視し、少女はある場所に駆け寄ると一つの雑誌を拾い上げた。
「わぁ、やだ、やらしー。」
そういいながら嬉しそうに拾いあけだのは・・・・・・エロ本・・・・・・!
少年は慌てて少女からその雑誌を奪い取った。
この中には少女に似た感じのモデルもいるので彼のお気に入りなのだ。
でも、そのことはぜったい彼女に知れれてはならない。
「そっかそっか・・・・・・壹也よ、君も男なのだな!ロボット一筋じゃなくてよかったよ!」
ちなみに先程からイチヤのことを少女は壹也、壹也と連呼しているが、彼の正式名は高倉 壹也という。
奈々香が少年を壹也と呼ぶからナナカにもイチヤと呼ばせていることは、言うまでもないだろう。
「お前なぁ、人の部屋でエロ本探すのやめろよな!」
強い口調で言うと、奈々香は膨れて、ブーっと言った。
「壹也が起こったぁ・・・・・・。」
「そりゃ怒るよ・・・・・・普通男の部屋に1人でくるか?」
バリバリと頭をかきながら少女を見下ろす少年、その差なんと20センチ、ちなみに少年はまだのびる。
これで終わりではない。
すると奈々香は爪先立ちをし、さらに壹也の顔へと近づくので壹也は思わずのけぞく。
「身長で圧倒するな!大体、壹也が私に何かできるとでも思ってるの?私はある意味、君の師匠なのだぞ!」
しゃべり方を一部いつもと変えながら壹也の肩をつつく。
これはあんまりだ、少年は少女に見下されている。
本当は今すぐにだって襲い掛かりたいほど好きなのにその気持ちは奈々香には伝わらず、当然のことながら少年も少女にはまったく手を出せずにこれまで生きてきた。
そしてきっとこれからも。
「イチヤ 理解不能。」
また繰り返すナナカに壹也はかすかなため息を盛らし、命令をした。
「ショートニングプログラム、エンター、終了・・・・・・。」
「終了 プログラム 終了 サレル。」
するとナナカは少しだけ目が点滅し、やがて動かなくなった。