第一話
試験的に投稿してみます。
面白い、続きを読みたい、という声がたくさん集まったら、第二章以降も書きます。
普段、私の代表作を読んでいる人からすると、違和感がありまくりかもしれません。
これはこれ、あれはあれということで、まったく別の方針で作品を書いているとご理解ください。
今日もバイトだ。
毎日忙しい。せっかくの大学生活だってのに、この春からは働いてばかりだ。遊ぶ余裕がないのはもちろん、授業に出る時間すらない。ま、学業に興味などない。それならサークル活動に顔を出したいかというと、そうでもないんだが。
少し家を出るのが遅くなった。遅刻するとマズい。
やっぱり、出発直前までネットでエロ動画をダウンロードしていたのがいけなかったか。だが、あれこそは俺の生きがいだ。
女はいい。巨乳、貧乳、ロリ、お姉さん、看護婦、スチュワーデス、女子高生……なんでもいい。だが、特に好きなのが、ハーレムプレイだ。複数の女を侍らせる。最高じゃないか。まさに男の夢。
この前、二十歳になった。そして俺は相変わらず童貞だ。性欲だけはハチきれんばかりにあるのに。
五年くらい前から、ずーっと毎日毎日、女のことばかり考えて生きてきたが、結局、ついに手が届くことはなかった。
いや、一度だけチャンスならばあった。あったんだが……。
梅雨の合間の晴れ空。雲の隙間から抜けてくる日差しがやけに眩しい。乾きかけた路面を自動車が走り抜けていく。排気ガスがどうにも鼻につく。雨に洗われたばかりの空気にまず最初についたのが、その臭いなのだ。
アパートの自室は涼しかったが、外に出ると、じんわりと暑さを感じる。今日のアルバイトは引越し屋の手伝いだ。非力な俺にはつらい仕事だが、給料は割といい。ただ、帰る頃には汗だくになっているだろう。
頭上を電車が走る。高架下の日陰に入ると、すっと涼しくなる。もうすぐバイト先だ。
「やぁ」
脇を見ずに歩いていると、誰かがそんな風に声をかけている。
「君だよ、君」
……ん?
俺?
顔をあげて、声のしたほうを見る。暗がりから出てきたのは、一人の男だった。
パーマがかかった真っ白な長髪。顔立ちは美形に分類できるだろう。というか、あんまり日本人っぽくない。まあ、それはいい。
服装がおかしい。この蒸し暑い日本の初夏に、こいつは黒いロングコートを羽織っている。
「なんすか」
この忙しいのに、うぜぇな。
もっとも、俺は自分が臆病者だという自覚もある。弱虫だってこともよーくわかってる。だから、ちょっと冷たい口調で応対するくらいが、せいぜいだ。
まあ、一方で弱い奴には強いし、エロが絡めば絶対に諦めない自信だってあるんだが。
「お願いがあるんだが」
「なんすか。時間ないんで」
「ああ、すまない」
なんだ?
ヤケに気取った喋り方をする奴だな?
「君……ちょっと、異世界に行って、超能力を受け取ってみようとは思わないか?」
「ハァ?」
異世界? 超能力?
こいつ、何言ってんの。
「ああ、まずは自己紹介しなくてはな。私はヤール・トゥルツァーヌーン。まぁ、気安くヤールと呼んでくれればいいよ」
……これは。
アレだ。
春先の、あの、変態が湧く季節にデビューし損ねた、こじらせちゃったタイプの。
イタいイタい厨二病が重症化した、哀れむべき人だ。
「そうですか。じゃ」
「待ちたまえ」
はい、待ちます、なんて誰が言うか。
時間もないし、アタマおかしい人と付き合って、ひどい目に遭うのもゴメンなんだよ。
「色摩君」
なっ!?
「色摩好男君だね。ちゃんと君の事は調べてきた」
なんでこいつ、俺の名前を?
思わず足が止まり、ギギギと首が後方に捻じ曲がる。斜め後ろに立つその男、ヤールは、余裕の笑みを崩していない。
ヤバい。
本気でヤバい。
絶対おかしいって。
……ただの変態じゃない。こいつは訓練された変態だ。ストーカーだ。
「うっ……わあぁぁぁっ!」
悲鳴をあげて、俺は走り出した。
「……待てというに」
男がそう呟いた瞬間、異変が起きた。
今、俺は確かに高架下から走り出たはずなのに、何かに引き摺られるようにして、また影の下に引っ張り込まれたのだ。
どうなってるんだ?
追いつかれた? いや、距離がある。なら、ロープか何かで引っ張った?
だが、そんな仕掛けは見つからない。まっすぐ立っているだけなのに、ズリズリと靴底が擦れる。そしてあの、ヤールとかいう変態のところへと近付いていく。
「ちょ、ちょっ!? タンマ! ストップ!」
「逃げないで話を聞いてくれるかね?」
「き、聞く! 聞くから!」
すると男は、満足げに頷きながら笑みを浮かべた。
「よかった。君に頼みがあるんだ」
「な、なんすか」
「さっき言ったろう? 異世界に行って、超能力を受け取って欲しいんだ」
こいつ、真顔だ。
あかん。絶対にあかん。イッちゃってる。
「……言葉で言っても信じてもらえないようだから、一度、無理やり連れて行くしかないな」
そう呟くと、男は俺の首根っこを掴み、コンクリの壁際まで引っ張っていく。そこでそいつが手をかざすと。
……薄汚れたコンクリの壁が、急に傷一つない、ガラスのような平面に変わった。
「ここを通るんだ」
「ひえっ!?」
俺が動き出すはずもなく。男は俺を無理やり、そちらに突き飛ばした。
転がり出た先は……周囲の壁が、どれもこれもガラスでできた通路だった。
「なんだ、これ……」
コンクリの壁をブチ抜いて、こんな仕掛けを作るとか、こいつ、どんなレベルの変態だ。金かかってるな。
「時間がないんだろう? 私もだ。とりあえず、もう一度転移するぞ」
また俺を掴む。そして、一瞬の浮遊感。
目を開けると、また風景が切り替わっていた。
周囲は石の壁になっていた。何百年も前の建造物っぽい雰囲気だ。暗い色の分厚い石が何段にも積み重ねられ、そこには複雑な紋様が彫り込まれていた。
背後は階段になっている。どれくらい長さがあるかはわからない。この部屋の中の灯りに照らされているのは、ごく僅かな範囲だけだ。
そして、今、俺と男のいる部屋はというと、縦横五メートルほどの、正方形だった。床だけはクリーム色で、何かの魔法陣みたいな図形が描かれている。そして、どういう原理だかわからないが、中空には、金色に輝く天秤が浮かんでいた。高さ一メートルほどの、割と大きな奴だ。
「これだ。『運命の天秤』……これを君が手にすればいい」
「は、はいぃ?」
なんか、常識を超えている。これ、テレビか何かのドッキリか?
いや。でも、じゃあ、どんな技術でこんなマネをしているんだ? こんな派手な演出にかけられる予算なんて、今時、どこの制作会社にもないはずだ。
「もしかして」
「ふむ?」
「マジ?」
俺の質問に、男は目をパチクリさせた。
「あ、ああ。そうとも、『マジ』だ。つまり、君には本当に超能力を得て欲しいと思っている」
「な、なんで?」
俺が問いを返すと、男は一度溜息を漏らしてから、説明を始めた。
「……僕が退屈でね」
「は?」
「この世界、エタールは……君にわかるように言うと、剣と魔法のファンタジー世界だ」
「はぁ」
「で、ここを創った創造神がいたんだが、そいつは無責任にもいなくなってしまってね……今では、この世界で神と言えるのは、私だけになってしまった」
理解が追いつかない。
「で、だ。私のお願いというのは、君にこの世界の管理を任せたい。その代わり、君の人生を分けてくれないか?」
「俺の? そんなことして、何が楽しいんだ」
「楽しいさ。代わり映えのしない世界をぼーっと見つめるより、変化のある人生を味わうほうが、ずっとね」
退屈した神様、か。
まだ、これを現実として、受け入れきれていないのだが、俺の考えは決まった。
「なるほど」
「私は君の人生の一部を借りて、向こうの世界で少し遊んでくる。その代わり、君にはこの世界で楽しく暮らせるよう、超能力を与える。どうだい?」
「だが断る」
冗談じゃない。
そんな話に付き合ってられるか。
「……なぜかな」
「当たり前だろう? お前が俺に成り代わるって? どうやって?」
「私には神と呼べるだけの力がある。君の見た目を真似るくらい簡単だ」
そう言うと、一瞬、男の姿が俺そっくりになった。そしてまた、すぐ元通りのヤールの姿に戻る。
「すげぇ」
「安心だろう?」
「だが断る」
俺の度重なる拒否に、ヤールはずっこけなかった。
だが、眉間に皺がよる。
「なぜかな」
「当たり前だろう? 俺の人生でいろいろ遊んでくるって? ふざけんなよ。数年後に戻ったはいいが、お前のせいでメチャクチャになってたら、どうするんだよ」
「ああ、安心してくれ。犯罪に手を染めたりはしない」
あかん、こいつ、わかってない。
「そういうレベルで納得しろってか。いいか、最近の大学生の就職事情は厳しいんだよ。日本がずーっと不景気だって、わかってねぇか? 来年からは大事な就職活動だってあんだよ。それに、俺には金がいるんだ」
「ほう」
「働いて、自分の学費を稼がないと」
「それだけじゃないんだろう? もちろん、知ってるとも」
そう言いながら、ヤールは俺の下半身を指差した。
「現在の地球上で、もっとも好色な人類、それが君だ……しかし、最近、どうも調子が悪いようだね」
「くっ」
ま、まさか。
医療機関以外では、どこにも誰にも話していない秘密。
それをこいつは。
「その若さで勃起不全か……気の毒にな」
「う、うるさい」
「女にモテたくてモテたくて仕方がないのに」
「だぁっ!」
くそっ、この野郎。
「一年前、テニスサークルの先輩の女性に、飲み会のあと、誘われて」
「それ以上はやめろぉっ!」
気付けば、肩で息をしていた。
こいつ、よくも。俺の心の傷を。
「くっくっくっ、済まなかったな。だが、この世界でなら、君の悩みは解決するかもしれない」
男は、天秤を指差した。
「これは『運命の天秤』といってね……まぁ、わかりやすくいうと、君が触れれば、この世界では絶対無敵になれる。つまり、無条件にあらゆる勝負に勝てるようになるんだ」
なんか、とんでもないこと言ってる。どんなチートだ。
「それが殺し合いでも、ギャンブルでも、クイズ大会でも。関係ない。勝負と名のつくものなら、絶対に君が勝つ。素晴らしいだろう?」
もう、ここまでのことがあるから、この天秤についても、きっと事実なんだろう。
だが、そんなヤバいものを俺に与えて、問題ないのか?
「そして女というものは。強い男を愛するものだ」
ヤールは俺に向き直る。
「この天秤の力で、好きなだけ暴れるといい。世界中の美女達を喜ばせてやれ」
「だが断る」
三度目だ。
こいつ、わかってない。
「なぜだ」
「なんか難しそう。俺は頭を使うのも体力を使うのも嫌なんだよ」
「そんな理由で……断るのか?」
ちょっと表情が険しくなってる。怖い。
「それだけじゃねぇ。バカだろ、お前。俺は勃たねぇっつってんだよ」
「馬鹿なのは君だ。治したいんだろう? 『それ』を」
「ったりめぇだろ」
「なら、私の提案を受けるのが最善だ。君の過去は知っている。男というのは、自信によって安心を得るものだ。勝利を重ね、無数の美女達が君に想いを寄せるようになれば……君が充分納得できるような女性に出会えれば、突然治ってしまうかもしれない」
むっ。
そういう考え方があったか。
治してから女を捜すのではなく。女を捜しまくれば、いつか治る、と。その発想はなかった。
しかし、そんなんでうまくいくのか。
「今、了承してくれるなら、オマケをつけてやってもいいぞ?」
「……それは、どんな?」
「絶対服従する有能な美少女を一人」
「よし引き受けた!」