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番外:I・E前史【黄金と暗黒の世紀】

*****

 およそ四半世紀前、全世界が月面着陸ムーンショット以来の高揚感に包まれた。きっかけは、完全な(実用的な誤り訂正)量子コンピュータの完成。異次元の演算能力によって起こった爆発的な技術革新は、人類に夢のひとときをもたらした。

 人と同等もしくはそれ以上の能力を持つ人工知能やロボット、宇宙と地球を繋ぐ軌道エレベータ、現実空間を電脳上に再現し活用するデジタルツイン、現実と同等以上に感じられる仮想現実バーチャルリアリティ、など。かつての夢が驚異的な速度で現実となり、想像が創造と化した黄金期。

 人をかたどった存在、天を貫く塔、地球ホシ模擬実験シミュレート、電脳という新たな世界。「人の技術は神の御業に」そんな言葉すら聞こえ始めた頃。何の兆しもなく夢は覚めた。人類は未だ、地上を知らなかった。

 突如として起こった地磁気の異常低下。それに伴い、銀河の風から地球生命を護る不可視の恩寵ヴェール、磁気バリアが弱体化。太陽風や宇宙線が地上へと降り注ぎ、寒冷化(に伴う大規模な不作)、生物の細胞異常、機械の誤作動など、深刻な問題が発生。人類の安全圏は大幅に縮小し、食糧他あらゆる物資が不足した。

 未曽有の極限状態は世界中の火種を燃え上がらせ、紛争や政情不安が勃発。連鎖的に第三次大戦へと突入した。自律あるいは遠隔操作されたロボットが戦線を闊歩し、軌道エレベータは衛星兵器に物資を運搬。作戦はデジタルツインで立案・コントロールされ、仮想現実は兵器の遠隔操作や戦闘のゲーム的演出(戦意高揚・プロパガンダ)に使われる。覚めることのない、悪夢のような暗黒期。出口の見えない争いは五年を越え、人々は眠れない夜に疲弊し、深い絶望に打ちひしがれた。

 そんなある時、世界に転機が訪れる。地球の護りを取り戻す【装置】の開発が進めらているという報せだった。

 現在名称:【天蓋てんがい】。旧名称:火星環境調整用電磁石。火星テラフォーミング研究の一環で開発中だった、磁気バリア形成装置(磁気バリアがなく、太陽風により大気を維持できなかったとされる火星に、人工磁気バリアを形成する装置)。これを宇宙へと投じることができれば、地球は元に戻る。暗闇に差し込んだ一筋の光だった。

 絶望は一転して希望に。しかし、状況は甘くなく。天蓋の情報は戦争被害を抑えるため、飛ばし記事として公表されたものであり、完成には数年かかるとされた。開発国も当然ながら開発人員・物資両面で疲弊している上、大戦で軌道エレベータ全てが破損している状況である。

 希望は見えたが、すがれはしない。そうなってようやく、人類は銃を置いて手を取り合った。全戦闘の停止と、開発に関わる国際協力体制の確立。国の垣根を超え、あらゆるリソースを天蓋及び起動エレベータ開発へと集中。数年かかるとされた開発工程は、わずか一年でその全てを完了した。


 こうして人類は、未だ揺籃の中であるところを知り、遠くラグランジュ点に配した人工のヴェールに自立の痛みを感じながら、ひとときの微睡みを過ごすのであった。

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