「檸檬 石 青空」
お題 「檸檬 石 青空」
フィルター越しに飛行機を見る。初めて乗ることになる大型機体は、眩しいばかりの白さを淡い黄色で和らげていた。
いま思うに、父は奔放な人だったのであろう。
仕事で海外を飛び回り、宝石の買い付けを生業としていたらしい。おかげで幼い頃の私は久々に会う父の顔をたびたび忘れてしまい、父はとても味のある表情を浮かべていたそうだ。
仕方ないじゃないか。文字どおり覚えてない話である。
そんな父が、あるとき土産をくれた。自分のことを忘れないように、という願いを込めて。
シトリンという種類の黄色い宝石であった。私は一目でこれを気に入り、失くさないよう母に頼んで紐をつけてもらい、どこに行くにも身につけるようになった。いつしか、初めて見るものや気に入った景色に宝石をかざして眺めるのが癖になっていた。
宝石のおかげか、その後は父の顔を忘れることは少なかったらしい。
この国の景気が傾いてきてからは、危険地域と呼ばれる場所にも出向いて商談を行っていた父は、やがて帰ってこなくなった。
母が、お父さんは遠い空の向こうにいると教えてくれた。元々あまり家にいなかった人である。薄情なようだが悲しみは少なかった。ただ、宝石を握りしめていたことを覚えている。
いつの間にか場内アナウンスが搭乗を促していた。少し思い出にひたっていたようだ。
目にかざしていた宝石を外す。雲一つない良い天気。きっとこれが旅日和というものなのだろう。
私はこれから海を越え、父と、まだ見ぬ弟妹たちに会いにいくのだ。
END
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