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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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褒め合いの抜け道

「ソウヤが暴力を振るった何て意外過ぎる。だってソウヤは反撃しかしない。相手が攻撃を仕掛けてこない限り暴力を振るわないじゃん」


「そんな事ないさ。カッとなって手が出る事もある」


「ソウヤがカッとなる事が意外かな。ソウヤは優しいから基本的に許しちゃうから」


 俺の事を過大評価し過ぎだ。俺はそんないい人間じゃない。


「俺は人に暴力を振るい怪我をさせた。だから人は俺に近づかなかった。それほどまでに酷い事をしたんだ」


「噂に尾ひれはヒレが付くのは当たり前の事でその当たり前でみんなが勘違いしただけじゃないのかな?そんな気がするよ」


 嫌われる事をしたんだ。だからみんなは俺を避けた。尾ひれはヒレは付いていないはずなんだ。


「何でアリナはそんなに俺をよく言ってくれるんだ?俺はそんなにいい人間じゃない」


「私はソウヤと三年を過ごしてソウヤの九割理解していると思う。だからソウヤが周りに嫌われるほどの事はしてないし、ソウヤはただ自分の過去も認め欲しいだけだって確信を持って思えるんだよ」


「俺は自分の過去をアリナに認めて欲しいのか?」


「そう。自分の事が嫌いな理由を減らしていきたいんだよ」


 そうか。俺はアリナに過去も含めた俺を好きになって欲しいからこうしているのか。アリナに告白する勇気がほしいからか。そんな単純な理由で話したのか。


「アリナには敵わないな」


「私はソウヤ以上にソウヤの事を知っているんだから」


 全くその通りだ。という事はアリナは俺がアリナの事が好きなのを知っているのか?そんな事はないはず。自分の事が好きな人と四六時中一緒には居られないだろう。何をされるか分からないはずだから。


「それで俺の過去を聞いてどう思った?」


「別に変わらないよ」


「そうか。なら俺の過去を少しずつアリナに話していこうかな」


「うん。好きなタイミングで話していいから。話してくれたら私が全部受け止めるよ。それで私がソウヤが悪いかどうかを判断して、ソウヤが自分の事が嫌いじゃなくなるように努力する」


 悪いかどうかは判断するけど俺が悪いとは思っていないのか?自分のタイミングでと言われたし、タイミングが来たら確認しよう。アリナが俺の事をどう思っているのかも含めて。


「それで料理の方は大丈夫なのか?」


「忘れてた!ぎりぎり…セーフ!」


「それはよかった。少し話をしてくれれば良かっただけだったんだがな」


 少しだけ構ってほしかっただけだったのに。すっかり話し込んでしまった。


「ぎりぎりセーフじゃなかったら文句を言ってたけどセーフだから言わない」


「助かる」


「でも次から気を付けてね。真面目に答えなきゃいけない内容はタイミングを見て」


「タイミングじゃない時でも真面目に答えるアリナの優しさに甘えてしまった。次からは気を付ける」


 適当に言い訳をしておく。アリナは俺の話を真面目に聞かずに料理するタイミングだったのに真面目に対応してくれたのはアリナが優しいからだ。


「そんな言い方をすると次からはしないよ」


「すまん。いつも真面目に相手してくれてありがとう」


「真面目に相手する代わりに私にもっと甘えて」


 十分甘えているつもりなんだがな。アリナは俺をカウンセリングしなければいけないと感じているという事か。


「気が向いたらな」


「それでいいよ。少しずつ人に頼る量を増やしていけばいいから」


 アリナは俺を変えていきたいのかもしれない。もっと多くの人と関わらせたいのだろう。俺は多くの人と関われなくても気に入った数人と仲良く出来ていればそれでいいんだけどな。アリナは俺をどういう風にしたいんだろう?


 そんな事を考えているうちにアリナは朝ご飯をテーブルに運ぶ。なので俺も運ぶのを手伝って二人で食べ始める。


「「いただきます」」


 俺は料理を口に運ぶ。口の中に入れれば美味しさが口の中に広がる。やはり美味しい。あまり期待し過ぎないようにしようと思っていても目の前にあると期待してしまう。それでも安定の期待を超える美味しさ。これを毎日食べられる幸せ者は世界に俺だけか。


「美味い」


「それはよかったよ。ソウヤはいつも美味しいって言ってくれるから嬉しいよ」


「喜んでくれるならいくらでも言うよ」


 何度でも心の底から美味しいと言えるだろう。これならプロポーズの言葉は毎日俺に美味しい料理を作ってくださいとかになるのだろうか。でも俺はそんな台詞を言える自信はない。


「私はソウヤの料理の方が美味しいと思うけど」


「そうか?最近は料理の研究をしているから少し美味しくなっているかもな」


「料理の研究をしていたの?確かに一層美味しいとは思っていたけど」


「アリナが美味しいと思って貰えるように頑張っているんだが、成果が出ていてよかった」


 基本的に料理は交互に作る事になっているから二回に一回はアリナは俺の料理を食べなければいけない。だったらアリナには美味しい料理を食べて欲しいと思って勉強を始めた。その努力が少しだけ実を結んだようだ。アリナのためを思えば頑張れる。


 頑張れはしたけど、褒められていなかったら別の事を頑張ろうとしていただろう。続けるにはこうやって褒めて貰わなければ続かない。気持ちの効果が続くのは少しの間だけだから時々褒めて欲しい。そんな事を言ってしまえば思っていなくても褒めてくれるだろうから言えないのだがな。


「ソウヤって結構思っている事が顔に出るよね」


「そうか?どんな風に?」


「さっきは嬉しそうだったよ。いつも顔の変化を見ればソウヤの気持ちが分かるよ」


 それは恥ずかしい。顔が変わっている自覚はないんだがな。アリナが俺の心を読めるのは俺の表情の変化を見ているからなのかもしれない。


「ソウヤは褒められると喜ぶんだね。ソウヤの料理は美味しいよ」


「アリナの料理の方が百倍美味しいぞ」


「ありがとう。でも本当に私はソウヤの料理の方が美味しいと思うよ」


「俺はアリナの方が美味しいと思うが、ここで意見をぶつけても仕方がない事は何度も議論を繰り返したから分かっている」


 このやり取りを何度もしているからこの議論に意味はない事は両方ともよく理解している。だからこそ俺たちは最初に褒めた人が褒めて終わりという暗黙の了解がある。だからこそ最初に褒める事が大事なのだ。


 だが、今回のように一旦褒めを受け入れて会話を切り褒める事で相手を褒めて終わらせるという技術がある。俺たちにとっては相手を褒める事で大事だからこそ俺が産み出した技術なんだがアリナにこの技術を真似されかけて焦っている。そろそろその技術のカウンターを産み出さなければいけない。


「何か暗黙の了解の抜け道を産み出そうとしてるよね」


「ああ。俺は褒められて終わりは嫌何だ」


「私もそうだからこその暗黙の了解なんだけど。ソウヤが抜け道を行くというなら私も行くけど」


 俺の技術を封印する気か。これはカウンターを産み出せるまでの間は封印しておくべきだな。確実に俺が褒められる状態に出来るまでは暗黙の了解を守る事にしよう。


「もう行かない事にする」


「どうせ自分が褒められる状態に出来たらまた行くんだろうけどね」


 バレている。バレていてもカウンターさえ用意できれば問題はない。用意できた場合は常に俺がアリナを褒められるという天国の状態を作れる。天国の状態を言えるのはこの暗黙の了解上相手から一回は褒められるけど相手を褒めて終えられるという事にある。さっきも思ったけど時々褒められるのは結構大事な事だからな。

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