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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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追うか追わないか

「もうスキルを解除してくれ」


 俺の体は重力を再び受け始めて久しぶりに地面を踏みしめる。俺の高速移動はアリナのおかげだから、アリナのスキルの効果範囲を出てしまえば戦力ダウン。


「ナメクジを追うぞ」


 俺はアリナの手を掴んで走り始める。今回の戦いでかなりの量の魔力を消費してしまったが、それはナメクジも同じだろう。だからこその逃げ。今追い討ちをかければ討伐できるはずだ。


 しばらく走っているとアリナを引く力を大きくしなければいけなくなってきた。アリナは疲れ果てているようだ。


「大丈夫か?アリナ」


「私の事は置いていって。魔力がもうほとんど無くて邪魔になるだけだから」


 アリナを抱えていけばナメクジを追う事は可能だ。だが、ナメクジが向かっているのは更に下層。魔力がないアリナを守りながら戦うのは危険が大きい。だからといって、ここに置いていくのも危険だし俺は帰れなくなる。


 それでも今しかチャンスはないかもしれない。


 ナメクジは首を斬った後でも触手を使って俺を殺そうとしてきたのに、途中から体の再生よりも脳の再生に魔力を回して逃げを選択した。という事はナメクジはかなり追い詰められている。今追いつければ確実に討伐できる。


「今日は諦めるか。また明日討伐しよう」


「そんなのダメだよ。私の事は置いて追いかけてよ。今しかチャンスはないかもしれないんだから速く!」


「俺にとって大型任務を成し遂げる事よりも、アリナの命の方が大事なんだ。ここでアリナが生きてくれる事で次の機会が生まれるしな」


 もし万が一追い付いたとしてもナメクジを殺せなくてアリナが死んだとしよう。俺に次の機会は存在しない。アリナの力によって使える高速移動なしでナメクジの触手は避け続けられないし、帰り道が分からない。


 それにアリナが死んだ時は俺は自殺するだろう。アリナは俺の心の支えだから、支えが無くなってしまえば俺の心は粉々になる。その状態で生きる方法は只一つ。感情を一切動かさずに死んだように生きるのみ。そうなればナメクジを討伐するどころではない。


 ここで追わなければチャンスが無くなってしまうかもしれない。そうだとしても追う事でアリナが死んでしまえば無くなるのは俺の未来だ。その二つを天秤にかければどっちが重いかはすぐに分かる。


「私のせいで…」


 アリナがそんな事を呟きだしてしまった。そこで俺はアリナの手を取ってアリナの目を見る。


「アリナのせいじゃない。アリナのおかげでここまで来れた。二人一緒ならきっとナメクジ討伐だろうと成し遂げられる。今回はそのための経験だ。次は絶対にナメクジを逃がさない。だから…元気出してくれ」


「ふふっ。ソウヤはいつもそうだね」


 何が?何がそうなの?


「ソウヤは無意識だから言っても分からないと思うよ」


 俺は無意識で何かをしていたのか?無意識なら考えても分かるわけがないか。でも、アリナが元気を出してくれてよかった。


 アリナが俺の手を握り返す。


「それじゃあ、帰ろっか!」


「手を握ったままか?」


「嫌?」


「全く」


 いつぞやかに言われたカップルで迷宮に来たみたいな感じになっているが、俺としては嬉しい。ついでに言えば、魔力のないアリナをいつでも守れる状態だからかなり助かる。


 普段だったら守る必要何て欠片もない強さをアリナは持ち合わせているが、魔力のないアリナはそうではない。魔力のないアリナはか弱い少女…少女?


 アリナは今は十八歳。ぎり少女か?少女だな。少女だ。アリナはまだ少女。


 か弱き少女に導かれながら帰り道を進んでいく。途中で他の探索者から奇怪な物を見る目で見られたりなどという事はあったが俺は幸せな時間を過ごしている。


「ソウヤさんとアリナさんじゃないですか!やっぱり二人はお付き合いしているんですか?」


 リリがいた。俺としては奇跡的にあったという感覚だが、奇跡が起きたというよりはリリがずっとこの辺りで魔物を狩っていたから会ったという事だろう。


「違うぞ。アリナの魔力が尽きたから、守るために手を繋いでいるんだ。それに最近のアリナは疲れぎみだしな」


 最近めちゃくちゃ熟睡しているから疲れているのだろう。


「そうですか。丁度私も探索を終えるところでしたので、ご一緒してもいいですか?」


「ああ。構わないがアリナの体調を気にかけてくれると助かる」


 俺では気づかない変化に気づけるかもしれないから頼んでおこう。


「分かりました。アリナさん大丈夫か?」


「大丈夫、大丈夫。魔力がないだけだから」


「大丈夫そうですね。ですが戦闘は無理そうなのでいざという時は私が守ります」


 頼もしいな。リリの役職は魔法使いだったか。遠距離魔法が使えるなら俺よりもリーチがあるから守る役割を果たせるな。


 近距離ならたぶん俺の方が強いから近くまで来ればリリが動くよりも先に倒せるだろう。アリナと手を繋いでいる分移動距離が短いけどたぶん俺の方が先に動けるはず。


 ところでリリはパーティーを組んでいないのか?さすがに組むには早すぎるか。壊滅したのは最近だからな。この前の事がリリの心に悪影響を及ぼしていなければいいのだが。


 人の死体が残らないだけまだマシなのか?残る方と残らない方では見た目的には残らない方がよさげだろうが、知り合いが殺されたというショックは変わらないだろうな。ルルがリリの心の状態を確認してカウンセリングをしてくれていれば問題ないだろう。


 こういう時に家族とかの親しい人の支えというのは絶対に必要になる。ルル、頑張れ。


 俺がリリに急に「この前の事があったが大丈夫か?」なんて聞いたら迷惑極まりない。人のトラウマを掘り起こしかねないし、俺に話すのは嫌だろう。ついでにアリナに殴られかねない。そして帰ったら「何であんな事言ったの」と説教される。


 そんな事は嫌だし普通に俺がそれを聞くのが嫌だ。それを聞いて後で相手がどう思ったのかがふと浮かんできた時に自分を嫌いになる。殺したくなる。


 そしたらアリナは俺の異変に気づいてアリナは俺を励まそうとする。アリナと一緒にいられるのは嬉しいがアリナの手を煩わせるのは嫌だ。


 自分を嫌いになる大きなきっかけを作ってはいけない。作ってしまえば後は負の連鎖だ。この連鎖は確実にアリナに迷惑をかける。


 俺が思考に耽っているとアリナが俺の手を強く握る。


「あまり深く考えないの。ここは迷宮だよ」


「ああ、すまない。あまりにも魔物が出ないものだから」


「本当に出ませんよね。帰る人にとっては嬉しいですけど、これから狩ろうという時に困るレベルです」


 困るレベルなのか。場合によっては俺は迷惑か。


「そうか。だが俺が通った道は休憩場所として使えると思って大目に見てほしいな」


「確かに休憩には使えますね。もしかしたらソウヤさんが通っていない場所での魔物の遭遇率が上がっているかもしれませんし」


 遭遇率が上がるのはやっぱり人によっては迷惑。それで得をする人もいるからプラマイゼロという事で。


 俺たちは難なく迷宮を進み出口まで来た。


「それでは私はここで」


「ああ。またな」


「また会おうね」


 俺たちは手を振ってリリと別れる。


 まだ微妙にオレンジ色に染まりきれていない空の下、俺はアリナの手を離した。もう脅威は存在しない。


「晩ご飯何にする?」


「今冷蔵庫に何が入っているんだ?」


「忘れた」


 それじゃあ何を言っても作れるか分からないじゃないか。この質問には意味がない。


「冷蔵庫にあるもので作れるもの」


 結局答えはこれしかない。


「任せて!」


「ああ、任せる」

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