謝罪には謝罪で返す
コンコンコン
「アリナ、さっきは申し訳なかった。ごめん。自分の事ばかりでアリナの気持ちを全然考えられていなかった。少し考えればアリナが嫌な気持ちになる事ぐらい分かったのに…。すまなかった」
俺は精一杯謝罪をしてアリナの返事を待つ。
アリナの返事を待っているのだが、いつまで待っていてもアリナの返事は返ってこない。
アリナは寝ているのかもしれない。
俺は夜ご飯にラップをかけに行こうと立ち去ろうとした瞬間に部屋の向こうから声が聞こえてくる。
「ソウヤは悪くない。ソウヤに伝える気もなかったのに察してもらおうと思って、それで怒った私が完全に悪い。ごめんなさい」
俺はアリナの部屋にもたれ掛かって座り込む。
「俺たちが一緒に暮らしてもう三年になるというのにアリナの気持ちを察せられないわけがなかった。それなのに出来なかった俺が悪い」
「これで私が自分が悪いと言ったらソウヤは剥きになって自分が悪いと言い出すからお互いに悪かったって事にしようよ」
アリナは俺の事をよく理解している。
「そうだな。そうするか。そう言えば晩ご飯を作ったんだ。仲直りとして一緒に食べないか?」
「そうする!でも私がこんな事していたからソウヤに手間をかけさせちゃったね。もう少ししたら行くからちょっと待ってて」
「分かった」
俺は天井を見ながらアリナを待っていると急に背もたれを失って、俺は後ろに倒れこんだ。倒れこんだまま斜め上を見るとアリナが俺の顔を覗き込んでいて目が合う。
互いに現状が可笑しくなって笑いだした。
「大丈夫?」
「ああ。頭は打っていないからな」
「ならいいんだけど。急にドアを開けてごめんね」
「気にするな」
急に背もたれが無くなった時はかなりびっくりしたけど倒れた先にアリナがいたから結果的によかった。
「そういえばアリナのよくない事って何だ?俺が原因なら直す」
「ソウヤは悪くないよ。最近朝起きられていなくて、それでソウヤにかなり迷惑かけちゃっているのがよくない事だよ」
時間を守るアリナにとって寝坊はキツいのだろうし、それで俺に迷惑をかけるのもまたキツいのだろう。
「アリナが俺に何をしても俺は迷惑だとは思わないよ。俺はアリナと過ごす時間が好きだからね」
「ソウヤはよく恥ずかしげもなくそういう台詞が言えるよね」
「そういう感情は昔に無くしてしまったのかもしれない」
自分が何かを言う事に恥ずかしいと思う事がほとんどない気がする。俺がアリナに告白しないのは告白を失敗した時に気まずくなるのが嫌だからだ。
自分で自分のいい所を見つけられたらか、サードを辞められそうだったらアリナに告白する。どっちが先になるのかは自分の性格とかを考えれば悩むまでもなく後者であろうけど、自分のいい所を何とかして見つけたい。
見つけたいと思っているのは昔からだから見つける事は出来る気がしないけど、それでも環境が変われば見つかる何て事もあり得るかもしれない……しれないけど環境が大きく変わってもう三年。
それ以上考えていては一生告白出来なくなりそうなので思考を止めて、俺はアリナに手を伸ばす。アリナは俺の手を取って俺が立ち上がる補助をしてくれた。
「ありがとう。夜ご飯食べるか」
「ソウヤが作る料理を食べるの楽しみだな~。今日のメニューは何かな?」
「それは見てからのお楽しみという事で」
これは確実にアリナの気持ちを考えられていただろ。アリナは晩ご飯のメニューを知りたいけど知りたくないという感情で、何かな?って言ったはずだから教えないのが正解のはず。
「ソウヤはあまり私の気持ちを読もうとしなくていいよ。あの時は私が理不尽な事を言っただけだから」
「それでも俺はアリナと良好な関係を築き維持していくためにアリナの気持ちを考えた行動と発言をするよ」
「そんな事で崩れるような関係じゃないけど、何事も積み重なると大きくなっちゃうからね。私もソウヤの気持ちを考えて生活するよ」
アリナは俺の気持ちを考えるだけで収まらずに、俺の心を読む事が可能だから問題ないと思うけどアリナが俺と良好な関係の維持に協力してくれるのは嬉しい。アリナは俺と一緒にいてもいいと考えてくれているという事と同意義のはずだから嬉しすぎる。
俺たちは一階に下りて席に着く。俺は廊下を歩いている時とか天国まで行けるんじゃないかってぐらい体が軽く感じられた。
好きな人に嫌われていないというだけで嬉しすぎる。
「「いただきます」」
この流れで自分の作った料理を食べるという現状に納得はいかないが自分で作ってしまったのだから仕方ない。
「アリナは俺の事をどう思っているんだ?」
つい浮かれて質問してしまった。
残酷な答えが存在している可能性がある質問を気軽に聞いたさっきまでの自分が許せない。言う瞬間に戻って俺にアッパーをしに行きたい。
それで舌を噛んで死んでも自業自得、アリナの返答次第ではそこで死んだ方がよかった何て事もあり得る。
「ソウヤの事はね…好意的に思っているよ」
好意的!?好意的の範囲はどこからどこまで何だ?知り合いとしてなのか、友だちとしてなのか、はたまた恋愛対象に入るのかどうか気になる。
気になるけどもう浮かれていない俺には聞く事の出来ない質問だ。
「ソウヤはどうなの?」
俺も好意的に思っていると答えるべきか…いや、アリナの好意的の範囲が分からない以上気軽に使えない。ソウヤよ、よく考えろ。
好きな人に好きだと思われるのは嬉しいが友だちに思われると気まずいのだと本を読めばだいたい分かる。つまり相手に持たれている感情が自分と同程度なのが一番嬉しいのではないだろうか。
「俺も同じく好意的に思っている」
相手が喋った時だけ定義が変わるわけがないのでこれが一番の正解のはず。
「ありがとっ。嬉しいよ」
アリナが満面の笑みで俺に感謝を述べてくれる姿がかなり俺の心を揺さぶる。
「俺もさっきのアリナの言葉嬉しかったよ」
「それでソウヤの好意的の範囲はどこまでだったのかな?」
それ聞くんだ。
「アリナの好意的と同じ範囲だ。確認のためにアリナの好意的の範囲を聞いておこうかな」
「それは答えるまでもないんじゃないかな」
「念のためだ」
「さっきソウヤは好意的を私の範囲で使ったって事は確認しなくても分かってるって事じゃないの?だったら確認する必要はないよね」
上手い事かわされてしまった。
これ以上の追撃をすれば墓穴を掘りかねないからアリナの本心を聞くのは諦める。
「明日からの予定はどうするの?」
明日からは特に考えていないからこの少しの間に立てなければいけない。
「明日からはな…一週間以内にあのでかいナメクジを倒さなければいけないから一日一日を大事にしてナメクジを確実に倒す」
「具体的な作戦は?」
「作戦?あると思うか?」
「また一緒に考えようね」
俺が言いたい事を分かってくれるから会話が少なくて済むというか少なくて悲しいというか。
「今日分かった事を整理するとナメクジはでかくて背中に触手が結構な数生えていて、触手は伸び縮みする。触手にまともに当たれば死ぬだろう。皮膚はぶよぶよで俺の棍とファフナーでも傷を付けるのは難しい。発信器を付けるのに使った攻撃はよほどの隙が無ければ無理だから無いと考えてもいい」
「困ったね。傷が付けられる方法を探すしかないんじゃない?」
「それをしている間に死にそうだから迂闊に試せないよな」
傷を付けられる方法を探すのに脳のリソースを割きながら、大量の触手を避ける事は俺には難しすぎる。アリナとの〈混爆〉で攻撃するつもりだったが避けながらだと無理だしな。
「一個だけナメクジに傷を付けられそうな方法はあるんだよ」
「明日はそれの試しから始めて討伐かな」




