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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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齟齬は人を傷つける

 どうやらファフナーはナメクジの皮膚に傷をつける事すら出来なかったようだ。皮膚はブヨブヨで尖らせた腕が刺さらなかったとの事のようなので俺はファフナーにメッセージを送る。


 それから俺は魔力感知を消して忍び足で小道に入ってナメクジの後ろに回ろうと動き始める。ファフナーには触手を引き付けてもらえるように頼んで隠れて見ているアリナの横に出る。


「魔力はどのくらい充電できた?」


「一週間はもつくらい」


 俺はアリナから魔石を受けとってポケットに入れる。


 ナメクジに穴を開けてからアリナから魔石を受け取って魔石を穴に入れるつもりだったがナメクジの強さ的に受け取っていたら再生してしまうだろう。


 俺は忍び足でナメクジに近づいて棍を上に掲げて一気に振り下ろす。振り下ろすのと同時に大量の魔力を棍に込めて棍の形状をめちゃくちゃ棍を細い状態に変えたため棍は鋭くなった。


 その状態で振り下ろされた棍はナメクジの皮膚に刺さったためすぐに棍に魔力を込め直して棍の長さを元に戻す。すると大量の血が飛び散り、棍のサイズ分の穴ができた。


 後はここに魔石を入れるだけ。


 俺は魔石を取り出すと周囲の景色が急激に流れ始めて魔石を落としてしまった。


 俺の腹に当てられた触手に後ろに持っていかれているのを認識して急いで斜め後ろに行こうと魔力を放つ。俺は急いでいたため魔力操作が荒く後ろに投げ出されたが、触手からは抜け出せて壁に軽くぶつかった。


 壁にぶつかった俺は地面に落ちる事はなく宙に浮いている。アリナが俺を守るためにスキルを作っていたようだ。


 俺が急いでアリナの方を確認するとアリナは魔石をナメクジに放り込んでいた。


 よくやった!


 俺は触手の動きに気を付けながらアリナに近づいていくとアリナも気づいて俺の方に来てくれる。俺はファフナーの召喚を解除してアリナの横に立ってから急いでナメクジから離れる。


 ナメクジが見えなくなった所まで離れた所でアリナに話しかける。


「助かった」


「私だって役に立てるんだから」


 アリナがいなければ触手に貫かれて死んでいただろうし、アリナが魔石を入れてくれなければあの危険をもう一度冒さなくてはいけなかった。


「今回の任務のMVPはアリナだな」


「そこまでじゃないよ」


「そこまでだ。アリナがいなかったら確実に俺は死んでいた。今度何かお礼をしよう」


「それじゃあ、うな重で」


 アリナは本当にうな重が好きだな。


「アリナにお詫びする分もあるがいつ食べるんだ?」


「任務が終わったら一回に纏めて食べようね。一緒にだよ」


「ああ、分かっている。俺も一緒に食べたいからな」


 これは俺に死ぬなと言ってくれているという事だよな。アリナは俺に死んでほしくないという事、つまり俺の事は好意的に思ってくれているという事。


 嫌われていなくてよかった。


「うな重を早く食べるために早く任務を終わらせるか。魔石の関係もあって一週間以内に終わらせなければいけないけど」


「最大一週間だから魔力の節約をすればもっと持つよ。だから無理しないで」


「無理はしないが早めに終わらせたい。今回の任務の期間的に早く終わらせられれば自由時間が増える」


 任務期間中は任務が終わっていても新しい任務は来ないようなのでその分アリナと遊べるわけだ。


「本当に感謝している。だが、あんな無茶はもうするな。一歩間違えれば死んでいたかもしれない」


「死んでいたかもしれないのはソウヤでしょ。私の事を心配する必要はないから」


 好きだからアリナの身は案じてしまうんだよ。


 俺たちは雑談をしながら家に帰ってソファーに座ってすぐにぐったりとなる。


 俺は向かいに座ったアリナも同じようにぐったりしているのを見ていると、アリナと目があって二人でニヤリとしてしまう。


「アリナもお疲れか?」


「お疲れだよ。魔石を入れる時の緊張感すごかったんだからね」


「アリナが危険な目に会うくらいならもう一度挑戦するか機会を待てば良かった。だからもう危険な事はするなよ」


 アリナの姿を確認出来る前は冷や冷やした。


 俺にスキルを使ってくれたおかげでナメクジにバレたんじゃないかとか色々な事が頭を巡ったりして焦った。


「危険な事って。ソウヤの方が危険な事をしているのに何で私はダメなの?私はソウヤの役に立ちたい」


「それは俺の方が命の価値が低いからだよ。俺のような奴が死んでも別に問題ないだろ。それに比べてアリナみたいに心優しい人間を失うわけにはいかない」


 俺は俺が話始めた時から俯いてしまったアリナの様子を見ていると違和感を感じる。


「アリナ、泣いているのか?」


「泣いてない。私、ソウヤに嫌われているとは思っていなかった」


 え!?どういうこと?


「嫌いなわけがないだろ」


「じゃあなんで分からないの?友だちが貶されるのを嫌に思わないの?」


「あれは冗談…」


「そんな嘘が通るほど浅い仲じゃない。ソウヤは本気でそう思って口にしてた。それを聞いている悲しさを分からないのは私の事が嫌いだからだよね」


 違う…そうじゃない…


「アリナ、ごめん。アリナの事は好意的に思っている。嫌いなわけがない。俺にとってアリナは恩人だからアリナのためになら俺は命を使えるという話を」


「ごめん。少し取り乱した。最近よくない事が多いから」


 そう言ってアリナはリビングから出て階段を上っていってしまった。


 今思えばアリナが俺が言ったような事を言ったら悲しく思うだろうけどアリナに危険な事をしないで欲しかったから言っただけなんだ。


 アリナが去り際に言っていたよくない事が多いというのも気になる。


 俺はソファーに横になって考えを巡らせる。


 何て言えばアリナは危険な事を止めてくれただろうか?たぶんどうやってもアリナは曲がらないから無理だった。


 俺は普段からアリナの気持ちを考えられていなかったんじゃないか?他にも何かアリナの気持ちを考えない発言や行動がアリナのよくない事だったんじゃないか?そうだとしたら俺は何て馬鹿なんだ。


 アリナの事を好きだと思っていながらアリナの気持ちを考えられなくて自分の事しか考えられない何て。俺は馬鹿過ぎる。


 アリナのために命を使えるという話をしておきながらアリナの気持ちを考える事が出来ていなかった。ああ、本当に俺の命の価値が低すぎる。


 弱くて、好きな人に危険な事をさせて、好きな人の気持ちを考える事が出来なくて、好きな人を傷つけた。


 俺に出来た事は何だ?良いことは何も出来ずにアリナを傷つけただけじゃないか。


 俺はしばらくの間ソファーの上で考えを巡らせているとそろそろ夜ご飯を作らなくてはいけない時間になった。


 アリナが下りてくる気配はないので俺が作ろうと立ち上がった時に両手に何かが流れる感覚があった。


 俺が両手を見ると手は赤く染まっている。


 よく見ると傷があったのでその形から爪が刺さっていたのだろう。その証拠に俺の爪は血で赤く染まっていた。


 俺は血をティッシュで拭って周囲を確認してみるとソファーにもついていたのでそれを拭って傷口を押さえる。救急箱から絆創膏を取り出して傷口に貼るのだが傷の数が多くて貼るのが大変だ。


 爪を切っておけばこんなに刺さる事は無かっただろう。


 俺は絆創膏を貼り終え次第晩ご飯を作った。


 緊張する。


 俺は晩ご飯を完成させたから冷めないうちにアリナを呼ばなくてはいけないのだが気まずい。どうやって話しかければいいだろうか。


 まずは謝ろう。


 それから一緒に晩ご飯を食べてくれるように頼み込めば一緒には食べてくれるからご飯を食べている最中に何度か謝ってアリナにとってよくない事が起きないように約束する。


 許されるためじゃなくて、反省した事を示すために謝るんだ。


 そこを間違えてはいけない。

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