初めての魔法
だが、まだ夢の可能性が無きにしもあらず。取り合えずここが地球では無いという事が確定しただけだ。もしかしたらまだ夢かもしれない。
夢ではない方がいい。友だちができたし、周りの人たちとも上手く接する事ができる気がする。これが夢じゃない方が嬉しい。
地球でするか考えて断念した引っ越しをできた形になる。アリナの家に転がり込めたという点は引っ越しとは全然違うが、大きなプラスだな。
何はともあれ、魔法を使える機会何て夢でも現実でも来ない可能性が非常に高い。撃つしかない。
みんなが人形を的にしているから近くに行って詠唱する。
「【出でよ】《炎》」
出ない。火の粉一つ出ない。《炎》は炎魔法の中でも基礎の基礎。RPGで一番最初に覚えるような感じの魔法だというのに使えない。
《炎》を使えないという事は魔法を使えない可能性が高い。そうなってしまう理由の一つとして《炎》が基礎の基礎であるという事が大きく関連している。
人がそれぞれ持っている魔力には属性があって、その属性に適した魔法が使いやすくなっている。だが、《炎》レベルの基礎魔法はどの属性の魔力であろうと使えるようになっているのだそうだ。
すでにかなりの絶望を感じているが、まだ諦めてはいけない。発音とか何かできない原因があるはずだ。魔法は周囲の魔力量にもよるみたいだから数回試して移動しよう。
俺は周囲を見て、俺の周りの人が成功していないのを見て安堵する。これは周囲の魔力量に問題がありそうだ。周りの人は移動して成功させているから俺も移動すれば成功するはずだ。
「【出でよ】《炎》」
最後に出ないのを確認して魔法を撃てている場所に移動する。だが、俺が行く頃にはすでに撃てなくなっている。
ここも無理か。次に行こう。
これを数回繰り返したが、どこへ行こうと使えなかった。一周したというのに使えないとは。
もはや俺が悪いとしか思えないレベルだ。異変に気づいた先生が寄ってきた。
「大丈夫かい?」
「あっ、全然撃てなくて」
大丈夫じゃないと思ったから来たんだろ。それなら、何かあったかい?みたいない聞き方をしてほしい。大丈夫じゃないとは言いにくい。
「見ていなさい。【出でよ】《炎》」
出てこない、やはり火の粉一つすら出てこない。
「あれ?《炎》、《炎》、《炎》」
一度も出てこない。ちょっと、発動したのを見たからといって使えるわけではないだろと思ってしまった。
ちなみに術式を理解できた人は詠唱を短縮して発動できるようになるらしい。
「あれ?可笑しいな」
そう言って先生は上着の内ポケットから小型の機会を取り出して使いだした。
「空間魔力がゼロだ。これは…。ソウヤ君だったか、ちょっと保健室に行ってスキル検査をしてきなさい」
「あっ、あのっ、保健室って、どこですか?」
「あ~、ソフィアさーん、ちょっとソウヤ君を保健室に連れていってあげてくれないかな」
先生が声をかけるとソフィアさんはすぐに近くまで来た。何故ソフィアさんなのかという疑問はあるが、連れていってくれるなら誰でもいいか。
「怪我ですか?」
「違うんだ。ソウヤ君のスキル検査をしたくてね」
「分かりました。ソウヤ君、着いてきて」
頷き、ソフィアさんの後ろにしっかりと着いていって、保健室まで案内してもった。
それで今、スキル検査なるものを受けている。検査と言っても機械とかは全然使わずに、手のひらサイズの石を握りしめているだけの事だ。
十分くらい握りしめていると石が微かに光だして空中に文字が写し出された。俺の方から見ると文字が左右逆で上手く読めない。
「精密検査が必要です」
「へ!?」
生まれて初めてあんなにすっとんきょうな声が出た。
「学校での簡易検査では分からなかったので、病院での精密検査をおすすめします」
なんだ。強制ってわけではなくて、おすすめされているだけなのか。何か異常でもあるのかと思った。それなら最初に必要とか言わないで欲しい。
「家に帰ったら相談してみます」
「はい、紹介状を用意をしておきますので後で取りに来てください」
「分かりました」
その後は普通に授業を受け、紹介状を貰って帰った。
保健室に行った事で教室に戻った時にクラスの人たちが心配してくれたのは少し嬉しかった。こっちでは上手く人と接する事ができているのを実感できたから。
その後の授業は良いものとは言い難い物ではあったが、俺はここが異世界か異世界ではないのかという事ばかり考えていたから、そんなに嫌という感じはない。
ここが夢であると考える方が違和感のある事だらけで、異世界であると考えた方が辻褄があう事だらけでもあった。結論としてはここは異世界だ。
結論を出せた事でスッキリした俺は午後を軽々と乗り越えてみせた。それができた一番大きな理由はアリナが作ってくれた弁当が絶品だったからだな。本当にアリナに拾ってもらえてよかったと思って泣きそうになったくらいの美味しさだった。
授業を終えた俺は意気揚々と保健室に行くと、保健室の先生に紹介状を渡してもらった。その時になるべく受けるようにと釘を刺されたが、金のかかる事はアリナに依存してしまうのが現状だから俺にはどうしようもできない。適当に返事して紹介状を受け取った。
帰っている途中でアリナに会えるといいなと思って帰っていたがそんなに都合のいいことはなく、誰とも会わずに家についてしまった。今日はバイトが無いし帰る時間が一緒だと思ったんだけどな。監視をするために一緒にいないといけないはず何だけど。
アリナが部活でもやっているなら帰るのは遅くなる事もありえるか。そう思って家に帰ったのだが、すでにアリナはいた。夜ご飯の用意をしているようで台所に立っている。
「お帰り」
「ただいま」
「学校どうだった?」
「まあ、ぼちぼちだな」
軽く会話をして本題に入る。
「今日保健室に行って検査したら、精密検査した方がいいって言われてた」
そう言った瞬間にアリナは物凄い速度でこっちを向いた。
「大丈夫なの!?」
「ああ。ただのスキル検査だから」
ただのとか言ったがスキル検査の詳細を俺は知らない。あまりにも心配しているかのような行動と言い方だったから、ついそう言ってしまった。
つい言ってしまった発言ではあるが、アリナの顔が安堵に変わってくれたから、意味があった。
「問題なくてよかったぁ。でも一応受けた方がいいね」
そうなのか。俺はスキルの存在さえよく知らないから、スキル検査が必要な事なのか一切分かっていない。
「だが、金がかかるんだろ?」
テレビショッピングみたいな事を言ってしまった。
「それくらい払えるんだから」
少しむくれてしまったが、文句を言われた本人からしても可愛く見えてしまう。何か普段とは違う行動を取ると美少女が際立つ。
昔は現実の人間を可愛い何て思った事が無かったんだがな。俺も変わったなと思いはしたが、よく考えれば可愛いのはアリナだけだ。アリナが特殊なだけか。
「俺はこの家の家計事情を知らないんでな。もし病院に行くなら紹介状を貰ってきているから活用してくれ」
「それなら今すぐ行こうよ」
「今すぐ!?」
「今すぐ」
「分かった。すぐ準備するから、ちょっと待っていてくれ」
そう声をかけてすぐに二階の自室に行って、準備をする、鞄を置いて、紹介状を取り出すのみの準備を終えてから一階に戻る。
「それじゃあ、行こうか。アリナ」
取り合えず紹介状をアリナに預ける。俺が紹介状を見てもどこの病院か分からないからな。
紹介状を受け取ったアリナは病院の名前を確認して動き出した。家を出て少し歩いたくらいの所に病院があった。結構大きな病院だ。