アリナの趣味
枝豆は二人で話ながら食べていたら気づいたら無くなっていた。
「枝豆美味しいね。今度作ろうかな」
「ビールのつまみにいいようだ。他の酒が合うのかは分からない」
「おつまみね…任務が終わった時は何飲む?」
ビール、日本酒、ワイン、ハイボールぐらいしか酒は知らないな。バーに行けばカクテルも飲めるのか?カクテルって何だ?酒の種類の名前?分からない。
「度が低いのはビール。だが俺はワインを飲んでみたい」
「赤、白どっち?」
「赤」
「分かったよ。任務が終わったら買っておくね」
アリナが買ってきてくれるのか。
「それじゃあ明日に備えてもう寝ようよ」
「そうするか」
俺は机に広げていた新聞紙を捨てて電気を消すためにスイッチの前に立つ。
「もう消しても?」
「ちょっと待って」
アリナが寝室に続くドア付近まで来たところで電気を消す。もうぶつかる物は無いから、電気を消してアリナに危険が及ぶことはないだろう。
廊下に出て真っ直ぐ寝室に向かっているアリナに着いていき電気が付いていない寝室に入った。俺はベッドに寝転がってアリナも寝転がったのをベッドの揺れで確認してから布団を二人に掛ける。
「それじゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
俺はすぐに眠りについた。
ーーーーー
危なっ
俺はベッドに落ちそうになった所で起きた。
俺こんなに寝相が悪かったっけ?周囲を確認するとどうやらアリナが寝ていた方の端で落ちそうになっている。
アリナが居ない。
俺の脳がやっと覚めてきた事でちゃんと現状を理解してきた。アリナはベッドの隣にある机の電気をつけて椅子に座り、何かをしている。
「何しているんだ?」
「起こしちゃった?ごめんね」
アリナがこっちを向いた事で何をしているかは見えた。何かを書いているようだ。
「ちょっと見せて」
「絶対に見ないで」
絶対と言われたら見るわけにはいかないな。
「分かったよ。文章を書いていた歴は俺の方が長いと思うから何かあったら聞いてね。それと早めに寝た方がいいよ」
「うん。一区切りがついたらすぐに寝るから。おやすみ」
「おやすみ」
アリナが文章を書いていたとは知らなかったな。
文章を書くのは楽しいからいい趣味だと思うが、読みたかった。文章にはその人の考え方が出るからアリナの事をもっと知るチャンスだったんだけど絶対とまで言われたら引き下がるしかない。
俺は最初に自分が寝転がっていた場所まで体を戻して眠ろうとするが、何分経っても寝られない。
「寝られない。アリナは後どのくらいかかりそうだ?」
「後少しだよ」
「それなら少し話をしないか?」
「私が今やっている事の手が止まらない程度なら」
邪魔にならない程度は俺に調整できる事ではないと思うから気にせず話をするか。
「何でアリナは専属サポーターになってくれたんだ?アリナにとってのメリットって給料が高いぐらいしかないだろ」
「ソウヤがコミュニケーション苦手だから」
「それは俺だけが得をしているからアリナにとってのメリットを聞かせてほしい」
アリナがなってくれたのは嬉しいが、メリットが無い状態で働いているなら辞めた方がいいと思う。それがアリナのためだ。
「何でだろうね。う~ん、たぶん後悔しないためじゃないかな。人はいつ何で死んじゃうか分からないからいつ死んでも後悔の無いように私は生きているつもりだよ。一番後悔しない方法が専属サポーターになる事だったからかな。だから私は今死んでも後悔しないよ」
後悔しないという事がアリナにとって一番大きい事なのかな?二人とも死に際に後悔する事はないようだ。アリナは後悔しないようにしているが、俺はそもそも後悔するつもりがない。
過去は経験以上の意味をなさない。だから過去は経験として記憶の片隅にでも置いておけばいいのであって、後悔するものではないというのが俺の考え方だ。
実際にそういう場にあった時に後悔せずにいられるかどうかは分からないがな。
「専属サポーターになるのが一番後悔しない方法か。アリナにとって大事なのは後悔しない生き方をする事のようだな」
「まあ、そうなるね。ソウヤにとっての生きる事に大事なのは何?」
「俺は楽しく生きる事かな。いつ死んでも楽しかったからいっかと思えるようにしたいと昔から思っていた」
楽しく生きていればそれでいい。
「今死んでも思える?」
「思えるかな。アリナと一緒に過ごせて毎日楽しいし。これからも一緒に居てくれ」
そう言うとアリナは突然電気を消した。
「ソウヤのそういう所本当にダメだと思う」
俺はダメなのか?何が?
「どこが?」
「ナチュラルに言っているのが一番ダメ」
「俺何かダメな事を言ったのか?分からないから教えてくれ」
「これでも気づかないなら教えても意味ないと思う。私はもう寝るから。おやすみ」
「おやすみ」
俺のどこがそんなにダメなんだ?ダメな所はたくさんあるんだけどそれを受け止めてくれるアリナにまでダメと言われる所はどこだ?
アリナにまで嫌われたら俺はもう死ぬしかない。アーサーと師匠は忙しいだろうからアリナに嫌われた俺を慰める事の出来る人はいない。そしたら死にたいという衝動に駆られて死ぬと思う。
アリナには嫌われたくない。
アーサーと師匠に嫌われるのも嫌だけどそれ以上にアリナに嫌われるのだけは嫌だ。
気がついたら俺の目の横を涙が伝っていった。アリナに嫌われる事を考えているだけで泣けてきたようだが、これなら頑張れば役者になれるかもしれない。
当然役者は簡単な職業じゃないから泣けるだけでは足りないだろうが、隣で一緒に泣くぐらいの事なら出来るだろう。
アリナなら俺の感情を自由自在に操る事ができてしまうな。
頭の中を空っぽにしてそろそろ寝なくては。
明日は大迷宮に向けて出発して岩石砂漠を越えなくてはいけないから寝不足では大変だ。
俺はしばらく目を瞑り続けてようやく眠りにつく。
ーーーー
「わざとなの!?」
アリナが驚いた感じで聞いてきた。
「なにが?」
俺は寝ぼけながら聞き返す。
「ちゃんと起きて現状を確認して」
「もう少し寝ていたいからもう少し後ではダメ?」
「ダメ。すぐに起きて」
俺の脳は少しずつ起きてきた周囲の状況の認知を始めた。俺はアリナの寝ている枕の上に頭を置いていて、目の前にアリナがいる。
「何でアリナがここに?」
「まだ寝ぼけてる。ここは私が寝ていた枕。私が聞きたい事をソウヤが言わないで」
俺はアリナの枕に移動したつもりはないから俺の寝相が悪すぎるというのが大きな原因ではないだろうか。
「わざとじゃない。寝相が悪いだけ。昨日の夜もこっち側に移動してて落ちそうになった」
「わざとじゃないのね。それにしても寝相悪すぎない?前はこんなんじゃなかったよね」
「俺も何でか分からない」
俺は起き上がって着替えを取りに行く。
「それじゃあ俺は着替えてくるから」
「私はここで着替えるから」
「分かった」
俺は着替えを取ってから脱衣所に行って着替えを済ませる。
今日というか今回持ってきた服は動きやすさ重視の服がほとんどだから見た目とかはあまり気にしていない。それでも多少は組み合わせは考えて選んだが決してお洒落ではないだろう。
アリナの前では出来る限りいい格好したいんだけどこればかりは仕方ない。
自分の姿を確認してからバッグの中身を見て、足りないものは無い事を確認する。
さてこれで準備万端だ。
準備を整えた俺は部屋の片付けをしながらアリナが来るのを待つ。帰ってくる時にここに寄るとは限らないから綺麗にしておかなくては次に来た人が困るだろう。
俺たちが来た時ぐらいまでは部屋を綺麗にしようと思ってしていたリビングの掃除が終わった時ぐらいにアリナが来た。
「掃除しているの?私も手伝うよ。まだ出発までには時間あるしね」




