アリナの魂に刻まれる出会い
俺たちは通報してすぐに公衆電話を離れて店探しを再開した。
「地元ならではの料理は料理を限定している店とかチェーン店じゃない限り大抵あるんじゃないか?」
フランス料理屋にはないだろうが普通の食堂とかにはたぶんあると思う。
「それもそうだね。なら近くのお店に入ってみよう」
そう言って本当に一番近い店にアリナが入っていったので、俺も一緒に入る。
アリナのお眼鏡に叶う料理はあるかな?俺は席に座ってすぐにメニュー表をアリナに渡す。
「私が知らない料理ないかな?」
アリナがメニュー表をじっくり見ている。
「あった。うな重だって。私はこれにする。ソウヤは?」
「俺もうな重にする。アリナはうな重食べた事ないんだな」
「ソウヤはあるの?美味しい?」
俺も子供の頃に数回食べたぐらいだからそんなに聞かれても答えられない。
「美味しかった記憶があるし、結構色んなところで話題にあがる感じだったから美味しいと思う」
「そうなんだ。楽しみ」
俺も久しぶりに食べるから結構楽しみだ。
「ねえねえ、ところでうなってなあに?」
「うなっていうのは細長い魚の鰻の事だよ。体の表面はヌメヌメしているそうだ」
「えっ、気持ち悪くないの?」
蛞蝓とかを想像させてしまったのだろうか?アリナが蛞蝓系は苦手なのだろうか?
「気持ち悪くない。結構可愛い感じの見た目をしていると思うけど。それに食べる時には魚の開きみたいな見た目で出てくるから原型は分からない」
「それなら良かった。注文して出てきたのが気持ち悪い見た目していたら食べるのが大変だよ」
食べられないとは言わないんだな。
「むうすぐ夜だからこれは晩ご飯も兼ねているんだよな?」
「うん。そうだけどどうしたの?」
「食べる時間が早いから夜に小腹が空くと思って、帰りに何か食材でも買っていこうかなと」
「いいね。一緒に作ろうよ」
二人で作ったらちゃんとした食事の量を作ってしまいそうだけど、それならそれでもいいか。
「一緒に作ろうか。なに作るか考えておかなければな」
「そうだね。すぐに作れて簡単に食べられるものを作らなきゃいけないからね」
そう話しているとうな重が運ばれてきた。日本で見たそのまんまのうな重。
鰻の蒲焼きにはタレと塩があるそうだけど、うな重には塩は無いのだろうか?俺はタレしか食べた事がないけど、どこかに塩もあるのかな?
「これがうな重。これは美味しいね。匂いでもう美味しいもん」
アリナはすでにうな重を気に入っているようだ。
アリナが食べるのを見るのも中々いいかもしれないと思って俺は箸を持たずにアリナを眺めていた。アリナはうな重を口に入れる直前に俺が食べずに見ている事に気づいたようだが、それまで気づかないとはかなりうな重に集中している。
「ソウヤも食べなよ」
「俺はアリナの一口目のリアクションを見てからでいいよ」
「それじゃあお先にいただきます」
アリナは今度こそうな重を口の中に入れてもぐもぐしている。
「んー!おいひい」
アリナは口を閉じたまま喋ったけどたぶん美味しいと言ったのだろうな。
「それはよかった。俺も食べよう」
俺はかなり久しぶりにうな重を口に運んだ。記憶にあったうな重よりも美味しく、アリナが唸るのも納得の美味しさだ。
「美味し過ぎるよ。何で今まで教えてくれなかったの?」
「俺もこっちに来てからは初めてその名前を聞いたから仕方ないだろ」
「それなら仕方ないね。それと前から気になっていたんだけど、こっちってどこまでの範囲を示しているの?私の家に来る前の記憶はどこまであるの?」
結構こっちの世界全体を指してこっちと言っていたからさすがに違和感を持たれたか。
「こっちに関しては信じてもらえないかもしれないから言わない。記憶は全部ある。何でアリナの家に急に現れたのかは分からないけど」
「私がソウヤの話を信じなかった事ある?」
「たぶん無い。記憶にある限りではない。それでも念のために言わない。変なところから来たわけじゃない。俺の生まれた場所出身の人は割りと多いみたいだし」
ここ数年で転移者と転生者の数が少なくはないという事が分かった。だけどその大半が記憶の一部を失っていたり、転移だと体の一部に欠損が見られるらしい。
五体満足で転移に成功できてよかった。しかもアリナの家に転移できたなんて最高だ。
「別に隠し事をソウヤがしていても気にしないよ。隠し事何て誰にでもあるもん」
「アリナにも?」
「勿論。私の場合は大きな話したくない事が一つあって、それに関わる事は全部隠さなきゃいけないから大変だよ」
俺も隠している事が何個かあるから聞いてはいけないよな。
「そうか。プライベートな事も必要だよな」
「そうそう。大切だよ。それにしても、うな重美味しい」
結構真面目な話をしていたのに急にうな重の話になってな。
「うなぎっていう魚はここでしか獲れないのかな?家でも作りたいんだけど」
「見たことないしこっちでしか獲れないと思うが、これは炭火で焼いている旨さもあると思うから作るのは厳しいと思うよ」
「炭火か~。もしかしたら厨房にあるかもよ。何なら部屋に設置してもらえばいいし」
炭火って煙はどのくらいでるのだろうか?量によっては換気設備がない俺たちの部屋が大変な事になりかねない。
「厨房に炭火が無かったら諦めてくれ。それと思い出したけど、うな重のタレは継ぎ足しでやっている所が多いみたいだからこの味の再現は出来ないな」
「って事はお店ごとでも結構味が変わるね。うな重は奥が深い」
アリナは本当にうな重を気に入ったみたいだな。
「鰻の鮮度を保つためには海側、それも外海側の海の方でしか食べられないだろうな」
この大陸は中央下に鍵穴みたいな形をした陸地ではない部分がある。鍵穴型の海が大陸の内側にあるため鍵穴型の海を内海、外側の海を外海と呼んでいるが、世界政府本部は内海にあるため本部でうな重を作るのは難しいだろう。
「てん…何とかして本部に持っていきたいね」
口外してはいけないのに転移魔法と言いかけて止めたようだ。だが確かに転移魔法なら鮮度を保ったまま本部に持ってくる事は可能だけど、鰻が転移魔法に耐えられるか分からない。
ちゃんと加工しなければ転移魔法の高濃度の魔力に身が耐えられない食材は結構あるが、鰻を持ってこれるといいな。
「うな重を何とかして全世界に広めれば色々な研究者がどこでも食べられるようにするための道具を作ってくれるんじゃない?」
「名前を広める事はできても実際に食べてもらうには長距離の移動が必要になってくる人もいるから厳しいな。こういうのは利益を生むかが大事なんだからな」
多くの人が食べて地元でも食べられるようにしてほしいという意見が多くなれば、鰻を持ってこれる道具を作った時に売れるから利益になるだろうが、食べてもらうというのは難しい。
「うう、ソウヤも頑張って考えてよ」
「俺にはうな重を高頻度で食べるものという考え方がないからな。あんまり協力する気が起きない。美味しくはあるんだけど」
うな重は高級料理の印象が強いからどうしても高頻度で食べるというイメージは湧かない。
「ソウヤの力を借りられないなら無理だ。そういうのを考えるの得意じゃないもん」
「アリナも十分発想力があると思うよ」
「私は思い付いたことを言っているだけだけど、ソウヤは思い付いた意見が現実的かどうかの審査をしてから言っているでしょ。思い付く量が一緒に見えるけど実際は数倍違うの」
「時にはぶっとんだ意見も大事だと思う」
俺には思い付かないような意見をアリナは結構出してくれる。だからそれを元に新しい意見を作り出す事が可能になっているからアリナがいなければ俺も微妙な感じではある。
「私の意見はぶっとんでいるって思ってたんだ」
そう受け取られても仕方ない言い方をしたし、実際ちょっと思ってはいる。
「俺はアリナの意見結構好きだ。俺はもう食べ終わったから、この話は終わりにしておこうか」
「私もさっき食べ終わったけどやっぱりぶっとんでいると思っている事は否定しないんだね」
「それじゃあ、会計してくるから先行ってて」




