アリナとの模擬戦
「模擬戦って言った?アリナと?」
「うん」
え!?何で?どうしてそうなった。てっきり冗談で言っているのかと思って聞き返したから驚きすぎて頭が働かない。
「何で?」
「色々と理由はあるけど、ソウヤには関係ない話だよ」
気になるが、追求してほしくないという事だろう。
「それがアリナのためになるならやろうか模擬戦」
「全力で戦うから勝ちに来てね」
「サードがサポーターに負けるのはかなりの大問題だから勝たせてもらう」
序列戦というかなり巨大な大会を開いてまでして決まったサードが強さに関係なく誰でもなれるサポーターに負けるのはやばい。
アリナが訓練場のちょっと奥まで行って、ストレッチをしている。アリナはかなり本気のようだ。
「ルールは?」
「寸止めされたらか、背中かお腹が地面についたら負けね」
転んだら終わりだな。
「それじゃあ、始めようよ」
俺はアリナのその声を合図にちょっと魔力を体に込めてアリナとの距離を詰めて殴りかかる。俺はアリナの顔の前で寸止めをするつもりだったのだが今俺は宙に浮いている。
スキルと護身術を組み合わせて俺を投げたのか。
俺は空中で体に魔力を込めて体が倒れないように、体が空中で反転した状態で自分自信を止める。そうなると地面にそのまま落ちて片手だけで着地して、逆立ちをした状態になり、そこから立ち上がる。
「負けるかと思った」
「私もちょっとびっくりした」
俺はもう一度アリナに殴りかかり、アリナの動きをよく見る。アリナは俺の手首を掴んだ瞬間にスキルを発動して、片手で俺を投げている。
俺はアリナの手首を掴んで、投げられた勢いを利用して一回転して着地しようと思ったが着地に失敗する。
俺は片手を地面について背中を地面につけずに済んだが、俺の着地のタイミングでアリナはスキルを使って俺は地面に引き寄せられる。
俺は背中が着くよりも先に足を付けて何とか立ち上がる。
「アリナってこんなに強かったんだな」
「対人用の技しかないから魔物には通用しないよ」
それは確かに欠点だ。だが、対人用でも俺はまだしっかりとアリナの手首を掴んでいる。
「ここからアリナは勝つ方法があるのか?」
護身術は相手の力を利用する技が多いから、この間合いでは利用しにくいだろう。手を振りほどこうとすれば勝負を終わらせにいけばいい。
「まだ分からないよ」
はったりか何か秘策があるのか。
俺はアリナに向かって一歩を踏み出したところで、足が滑った。
「あっ」
「え!?」
うっかり声を洩らした俺と、俺の行動にびっくりするアリナ。
状況を分析している間にも俺の体はどんどん地面に近づいていくが、どうすればいい。片手で体を支えるのは不可能ではないが、その後に追撃されて耐える自信はない。
こうなったら突っ込もう。
俺は体に魔力を込めて、アリナの方に突進する。アリナに避けられたらもう負ける玉砕覚悟の一撃。
結果は見事に驚いているアリナに当たり、アリナを押し倒した。
「アリナ、背中ついたな」
「一瞬勝ったかと思ったのに」
「俺は序列戦を勝ち残ってサードになったんだ。アリナに負けていられない。危なかった」
つい本音が漏れてしまって、顔を見合わせて二人で笑い合う。
俺はアリナの手を放して、アリナの横に転がる。
「危なかったんじゃん。余裕みたいな感じで言ったのに」
「建前だけで終わらせるつもりだったんだがな」
二人で顔を見合わせて吹き出し、二人の声が広い訓練場を満たしていく。
「アリナは俺に勝ったらどうしようとしたんだ?」
「私が勝つ時まで言わないよ」
「そうか、一生アリナに勝たせるつもりはないから聞きたかったんが、気にしないでおく。俺が勝ったから俺の話を少し、もしかしたらちょっと長くなるかもしれないけど聞いてくれるか?」
「いいよ。何でも話して」
俺は呼吸を整えて、ゆっくりと話し始める。
「俺は昔から人の感情が少しだけ分かったんだ。特に俺と会話している時に相手が俺に向けている感情がだいたい分かる。相手が今どんな感情で話しているのか、普段俺にどんな感情を向けているのかがな。それで昔、ちょっとした問題が起きたんだ。それから俺は人と自分から距離を取るようにしている。今思えば、俺は魔力を感じていたんだと思うんだけど、今は周囲の魔力で打ち消されて余り分からない」
こっちに来て調べたが、感情は魂に何らかの影響があって、魔力にいつもの感情とその一時の感情も乗るようだ。ただ普段でている魔力は魔法を扱えるほどの魔力量ではないらしく、こっちの世界の空気に含まれる量よりは少ない。
感情が分かると言っても雰囲気だけだから、具体的にどんな感情か聞かれても答えられないのだがな。
「それで俺は人と目線を絶対に合わせないことにした。そうすれば感情が分かっても何に向けている感情なのかは分からなくて済む。勿論、そんな一切目を合わせない奴と友だちになろうと思う人がいるわけがなくて、俺は独りになっていた。そんな中でアリナの家に来てしまったんだ」
普段はこんなに一気に話さないから大変だ。息を吸うタイミングが分からない。
「目を合わせようともしない俺にアリナは優しく接してくれていた。その時から俺はアリナから優しい感情を感じていて、俺はそれを信じている。アリナを信じてアリナと目を合わせることが出来た時は嬉しかった。それをきっかけに人と接する機会が増えたと思う。だからアリナには感謝しているんだ」
アリナは頷きながら聞いてくれている。
「話が長くなったけど、ここからが本題。最近のアリナは時々悲しそうだ。何かあったら頼ってくれていいんだからな」
かなり前振りが長くなったけど、言いたいことは言えた。
「今は悲しそう?」
「今は嬉しそう」
「思った以上に分かるんだね。そう、悲しそう何だ」
今は複雑で読み取れない。アリナの感情は強いのか空気の魔力に打ち消されにくく、俺は感じる事ができる。俺がアリナを感じる事に特化しているのかもしれないが。
「ごめんね、心配かけて。私は大丈夫だから気にしないで」
絶対に大丈夫じゃない。
「折角だから、私の感情を読み取ってみてよ」
俺はアリナと目を合わせる。
「分からないな。この感情は何度か感じたことがあるんだけど、分からない。教えてくれると助かる」
「内緒」
内緒なのか。感情が正か負かは分かるんだけど、それ以外は経験則だ。明らかに分かる怒っている人が発していたから、この感情は怒りだなという感じで覚えていった。
「いつかその感情を理解してみせる」
「その時が来たらいいね。ところでソウヤの肌は敏感なのかな?私も魔力で感情を理解出来る事は時々あるけどソウヤみたいに細かいところまでは理解できないよ」
「そうなのだろうか。俺にはよく分からない」
アリナはぼんやりと感情を読めても、その感情が何かと聞かれれば答えられないようだ。
アリナは俺ほどに出来なくても問題ないだろうが、俺は人の些細な行動や発言で人の感情に気づくことが出来ないから、なかったら困る能力である。
本で読んで人の感情の変化に合わせた行動の変化は理解しているつもりなんだが、実際に人の行動を見ると全然分からない。だから感情を読めて助かっている事が多い。
それでも良いことばかりではなくて、負の感情を感じすぎてしまう日とかは、影響を受けて死にたくなる。人の怒りとか憎しみを大量に向けられている気がしてしまって辛いのだ。
「ソウヤは人の感情を無下には出来ないから、多く感じちゃうのかもしれないね」
「そんなことは無いと思うが」
「そんなことあるよ。私も感じることは出来るけど無視しているもん。人の感情を特に気にしていないから」
アリナは気にしている方だと思うが。
「ソウヤの話を聞けてよかったよ。ソウヤの昔の頃が少しでも知れて嬉しい」
「昔にいい思いでが少なくて、聞かせる話は少ないんだ」
「今日みたいに話したくなったらいつでも話していいよ。幾らでも聞くから」
アリナは優しい。人の感情を気にしなくてもいいほどに、アリナの事を嫌う人は少ない。アリナはやっぱり凄い。
俺は人に怯えながら生きているのに。
「そろそろ部屋に戻る?」
「そうするか」
俺はすぐに立ってアリナに手を差し出す。
「ありがとう」
アリナが俺の手を取って立ち上がった。
俺はアリナの感情を完全には読めていない。分かっていないことが結構あるけど、それでもアリナが優しく俺に接してくれている事だけで十分だ。




