世界政府本部
「アリナはソウヤに愛されているな」
「これで分かることですか?」
「起こさずにお姫様抱っこをして連れてくるのは普通では無いと思うが」
師匠に普通を語ってほしくない。
「普通だと思いますよ」
「そうかな?私はそう思ったのだが、私は恋愛に疎いからな」
「本当ですよ。ペンテシレイア家はどうするんですか?」
ペンテシレイア家には跡を継げる人が師匠しかいないから師匠に子供が出来なければ本家は終わりだ。
「そうだな、時期を見て養子でも迎え入れるよ」
「血筋は絶えますよ」
「問題ない。ペンテシレイア家は案外そういうことをして残った家だからな」
ならもうペンテシレイア家初代当主の血は本家にはないということか。
「ところで師匠、アリナを代わりに運んであげていただけませんか?」
「荷物が多くてな」
それなら仕方無いとは思うが、師匠には絶対に余裕がある。
「俺の荷物…荷物持ってきていなかった」
俺が船の方に振り返ると、雨坂さんがふたり分の荷物を持って立っていた。
「荷物は私が運びますのでご心配なく」
「ありがとうございます」
よかったよかった。荷物が返ってこなかったらかなり大変なことになっていたが雨坂さんのおかげで助かった。
「あの男、強いな」
師匠は戦いにしか興味はないようだが、俺には雨坂さんから魔力を感じないからそうは思わない。魔力頼りの俺とは違う師匠にしか分からない強さがあるのだろう。
「師匠はもう少し他のことを気にかけた方がいいと思いますけどね」
雨坂さんはかなりのイケメンだから強さよりもそっちに目がいくのが普通だと思う。
「他に気にかけた方がいいこと何て無いだろう?相手の力を見極めるのは生き残るために大事な事だ」
生物には自分が生き残るだけじゃなくて、子孫繁栄も大事な事なんだけどな。師匠は人間の限界までいって寿命が無くなるみたいなことが起こる可能性があるレベルの人だから関係ないかも。
「アリナはここに来るのを楽しみにしていたみたいだし、そろそろ起こさなきゃいけないですね」
「そうなのか?なら起こしてあげた方がいいな」
俺はアリナを軽く揺らしながら声をかける。するとアリナの瞼はゆっくりと持ち上がって、アリナと目が合う。
「着いたよ、アリナ」
「そうなの?私寝ちゃったんだ」
俺はゆっくりとアリナを下ろしてアリナが立つのを補助する。
「ありがとう、ソウヤ」
「気にするな」
俺は雨坂さんから荷物を受け取ってアリナと一緒に世界政府本部、頂点が見えないほどに高い塔に入っていった。
エントランスは何階か分か吹き抜けになっていて中央にはでっかいシャンデリア。
めちゃくちゃ豪華なエントランスに圧倒されていると案内人が前に出た。ファースト、セカンド、サードについていた三人を代表して雨坂さんが喋り始める。
「これから序列に任命される皆様には血液検査のために採血をさせていただきます。その後、ある場所に移動してもらいます。ご協力のほどよろしくお願いします」
そう説明されてから案内人は担当の序列のところに戻っていった。
「ソウヤ様はこちらに」
「雨坂さん、何で三人の代表をするような人がサードの自分の担当何ですか?」
「様々な事情が絡み合った結果です。ご了承ください」
「不思議に思っただけなので。アリナもついていっても構わないですか?」
アリナをここに放置するわけにはいかないからな。
「アリナ様がソウヤ様の専属サポーターになるのでしたらご一緒に採血を」
「なります!」
アリナは俺より早く返事をした。随分とやる気があるな。
「そうでしたらこちらに」
俺とアリナは一緒に案内されて一室に通される。
「ここで採血をします。それが終わり次第、別室に移動になります」
雨坂さんが二人分の採血を同時にやってくれるが、採血の時の腕が痺れるような感覚は馴れないんだよな。
血を三本分抜き終わったところで、雨坂さんは針を抜いて絆創膏みたいなのを刺していたところに貼ってくれる。
「これは再生を手助けする効力がありますので、五分程度付けておいてください」
便利だな、包帯なら効力を与えるのは難しくはないだろうが、絆創膏のような小さいものに与えるのは難しいだろう。それをすぐに用意できるあたり凄いな。
「これから移動になりますが、お二人の家はスカマスで合っていますか?」
「「はい」」
「そうですか。移動にあたって重要な機密事項がありますので、目隠し、耳栓、ノーズクリップ、それと魔力遮断用の布を身に付けていただきます」
厳重すぎる。俺は厳重すぎることに恐怖を覚えながらしっかりと目隠し、耳栓、ノーズクリップ、何か布を体に巻いた。布のせいか魔力が常に乱され続けていて魔力感知がつかえない。
何も分からない状況で手首に紐のようなものを付けられて、紐が引かれるので紐に合わせて動く。俺は繋がれている方の手を前に出して探りながら歩くと、繋げていない方の手に何かが触れた。
それは何か分からずに触れていると何なのかすぐに分かった。この温もりと魔力の感じはアリナの手だと分かったので、俺はアリナの手を握る。
俺は人間にとって大きな役割を果たす五感のうち味覚と触覚しか残っていない状態では何も分からず、心細かったようだ。そんな中唯一分かったアリナの手を握ってしまったのは普通のことだろう。
俺は紐が引かれなく立ち止まると、強く引かれて恐る恐る歩いたところで壁に当たった。壁?どっちに行けばいいのだろうか?疑問に思いながら待っていると懐かしい感覚が体にかかる。
これはエレベーター。
魔力を使えば作るのは不可能ではないだろうが、人の重量と安全な強度を持つ箱の両方の重量を持ち上げるにはかなりの魔力を使う。だから、感覚的にエレベーターだと分かるほどの速度で動くエレベーターはこっちで乗った事がない。
こっちでは、ゆっくりとしか上がらないエレベーターしか今まで存在を確認していなかった。だというのに、ちゃんとしたやつ用意出来てしまうんだな。
さっきから世界政府に感心してばかりだが、実際すごい。
懐かしきエレベーターの感覚も終わり、再び紐を引かれてしばらく歩くと紐で引かれなくなった。それどころか紐が離されたと思う。
俺はアリナの手をしっかりと握りながら待っていると、全身で濃い魔力を感じる。濃すぎないか?何かおおがかりな魔法の準備でもしているのだろうか。
俺は無意識にアリナの手を強く握って待っていると、体に負荷がかかったような感じと浮遊感という相反する感触を同時に感じる。
それは一、二秒で収まり再び紐を引かれて歩き出してちょっとすると耳栓が外された。
「目隠しもノーズクリップも布も外してください」
雨坂さんとは違う声にそう言われて恐る恐る目隠しを取るも、眩しくて中々回りの様子が分からない。
ようやく目が馴れたところで辺りを見渡しても本部のような豪華さが無いし、雨坂さんもいない。
「ここは世界政府スカマス支部でございます」
まさか、転移魔法!?存在していることすら知らなかった。
なら転移魔法が重要な機密事項?それは俺たちが使った時点でばれるから無い。それなら位置か使い方が重要な機密事項なのか。
知られてしまえば地方から簡単に本部に攻め込むことが可能になってしまう。恐らくそういうことだろうな。
俺はアリナの手を離して、出口に向かう。
「帰らせていただきます」
俺が無言で出口に近づいたことでアリナが帰ることを伝えてくれた。
「お気をつけてお帰りください」
アリナがいなかったらかなりヤバイやつだったがアリナに救われた。俺はスカマス支部を出たはいいものの帰り道は分からない。
「アリナ、家の場所が分からない」
「コミュ症だけじゃなくて方向音痴もあったんだった。こっちだよ」
俺はアリナに連れられて、歩いていき無事に家まで帰ってこれた。




