船での移動
何かがごそごそと動いている音で起きた。
「アリナ、何やっているんだ?」
アリナの顔がものすごく近い距離にいるから聞いた。
「起こしちゃった?ごめんね。一緒に寝るのが最後だから、思い出を噛み締めていたところ」
「そうか。邪魔したな」
俺はベッドから出て、リビングのソファーに座る。
「別に邪魔じゃないけど、今日は早めに着替えなきゃ遅れちゃうよ」
「船に乗らなければいけないのか。アリナは船酔いとか大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
人数的に船は小型船だろうから船酔いしやすいはずだが、それなら問題ないな。
「それじゃ、俺は着替えてくる」
「洗面所で?それなら私は寝室で着替えるかな」
「分かった。着替え終わったら部屋から出てくるとかドアを開けるとかしてくれ」
「分かったよ」
俺は着替えを持って洗面所で着替える。鎖帷子を着ないでいいってのは楽でいいな。
俺はすぐに着替えを済ませてリビングに戻ってくるが、アリナはまだ終わっていないようだ。俺はソファーに寝転がりながら待っていると、髪留めをしていないアリナが寝室から出てくる。
「髪留め使わないのか?」
「ソウヤに留めてもらおうと思って」
最近アリナに教えてもらったから当然留め方は覚えている。俺はソファーから下りてソファーの後ろに回り、アリナにソファーに座るように促した。
俺はアリナの髪を少し纏めてから髪留めを手際よく留める。
「アリナはいつもこの髪留めだよな」
「これしか持っていないからね」
他の髪留めより気に入っているのかと思っていたけどそういうわけじゃないのか。
「この髪留めの留め方をよく一回で覚えられたね」
あの時からイメージトレーニングを重ねてきたからな。イメージトレーニングの前にメモをしっかりと取ったし。
「自分の記憶力の特性というものを理解しているからな。ところでそろそろ港に行かないか?」
「そうだね。もうすぐで出発した方がいい時間だね」
それぞれのバッグを持って部屋を出る。
「バッグ、持とう」
「そう?お願い」
俺はアリナからバッグを受け取るが、昔の俺ならバッグを二つ持つなど筋力的に難しかっただろうに俺も力がついたものだ。
「代わりに私にチェックアウトとかは任せて」
「助かる」
アリナのバッグを持つより人と接することの方が難しい。アリナは自分の言った通りに率先して人との会話を請け負ってくれる。
「スカーフ返してくるね」
「頼む」
ホテルから出て、受付の近くを通った時に気づいて言ってくれた。アリナは俺のスカーフを持って受付に行って何か話している。返すだけでそんなに話す必要があるかな?ちょっと疑問に思いながら待っているとアリナはスカーフを持って戻ってきた。
「船で渡せってさ」
「そういうことか」
序列は本人確認のためなのか船での回収みたいだな。俺たちが港まで移動してくると、漁業船をかなり大きくしたような船が三隻停まっている。
「ソウヤ様ですね?」
船にかかっている橋の近くに立っている人に話しかけられた。
「はい」
「スカーフをお預かりします」
アリナがスカーフを渡すとその人は魔法具でスカーフを読み取る。
「本人確認が出来ました。そちらの方は?」
アリナの方を指して言っているようだ。
「連れです」
「左様でしたらご一緒に乗られますか?」
「はい」
アリナが俺の代わりに返事をしてくれて俺たちは船に通された。船内は前方に椅子が数席、後方には部屋がある。船は外見から分かるようにかなりの広さで、二人でいるのは慣れないレベルだ。
「広過ぎる」
「流石にこれは広過ぎるね」
アリナでも広すぎると感じるなら王族用以上に広いのか。
俺は前方にある椅子に座って出航を待つ。アリナは俺の隣の席に座った。
「いつ出航するんだ?」
「分かんない」
「もう間もなくでございます」
船にさっきの案内人が乗っている。俺はびっくりして体がびくっとなってしまった。
「驚かせして申し訳ございません。案内人を勤めさせていただく、ダン・アメサカです」
アメサカは雨坂か?先祖が日本人なのか?
「ダンさんの家は雨坂なんですか?」
「そうです。家系図によると十代前までは確実にアメサカです」
その時に転移してきた雨坂さんとこっちの世界の人が結婚したのかな?日本人の転移者が昔いたんだな。
何か心強い。
「出発の時間になりました」
雨坂さんがそう言ってすぐに船は動き出したが、外の景色の流れる速度が速い。
「どこに向かっているんですか?」
「世界政府の本部です。決戦島の南に本部のある島がありますので、そこに向かっております」
「速すぎませんか?」
「問題ありません。この船の最高時速はもっと速いですし、この速度でなければ昼前には着けませんので」
そんなに遠いのか。
「朝食を後方の部屋で用意しておりますので、召し上がってください」
「連れの分もありますか?」
「ご用意いたしましたのでご一緒にどうぞ」
「ありがとうございます。アリナ、行こうか」
俺はアリナを誘って後方の部屋に入る。部屋は何とも豪華だが、アーサーのあの部屋を見たから驚きは少ない。
部屋の真ん中にテーブルがあって、その上に豪華な料理が大量にあった。
「コース料理じゃなくてよかった」
「アメサカさんとは話せてるじゃん」
「あの人は話し易い」
コース料理は毎回人が運んでくるみたいだし、堅苦しいのは馴れていない。雨坂さんが運んでくるなら、問題ないが雨坂さん一人で全てやるのは大変だろう。
俺は奥の席の椅子を引いて、アリナを座らせて俺は手前の席に座った。
「いただきます」
「いただきます」
一口食べてみるとかなり美味い。これが金のかかった美味さか。いくら美味くても量は大量にあって食べきるのは大変である。
「多い、美味いが多い」
「私はもう限界が近い」
アリナの少食ではこの量は厳しいだろうけど、こんなに残されると俺も厳しい。
「俺が頑張って食べる」
俺は宣言通り全部食べきったがきつい。俺は前方にある椅子でぐったりしていた。
「料理は全部食べなくてもいいのですよ」
雨坂さんがそう言ってくれるがそれでも食べるべきだと思う。
「平民なので礼儀がよく分からないんですよ」
「問題はありません。シェフも喜んでいると思います」
それなら良かった。
俺はしばらく動けないまま椅子でじっとして過ごしていると雨坂さんが口を開いた。
「もう少しで着きます」
「早いですね」
「時速三百キロメートル弱で移動していますから」
これ船だよな、新幹線じゃないよな?でも最高時速はもっとあるって言っていたな。
「速すぎませんか?」
「この船は世界最高峰の技術の船ですから」
流石、世界政府。
俺はこの速度を見ておこうと思って、窓の外を眺めていたらだんだんゆっくりになっている気がする。
「もう着くな」
「そうだね。本部のある島に入れる人は限られているから楽しみだよ」
そうなのか、俺は本部が島にあることすら知らなかったぞ。
船はかなり速度を落としてゆっくりと止まった。
「着きました」
そう言って雨坂さんはドアを開ける。
「どうぞお降りになってください」
「ありがとうございます。アリナ、行くぞ」
アリナはうとうとしていたようなので声をかけたが返事がない。
「起きろ、アリナ」
アリナに声をかけても起きない。
「起きませんか?」
「そうですね。自分が運ぶんで問題ないです」
俺はアリナをお姫様抱っこをして、船から下りる。
入り口が広めでよかった。
辺りを見てみると船が三隻停まっているので、師匠が近くにいるのだろう。師匠にアリナを預けてもいいかもしれない。師匠なら心配することは何もないからな。




