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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-1章 異世界での生活
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試験そして面接

 試験を受ける日になった。少しずつ教科書を読んだりしてテスト勉強に励んだが、まだ実感が湧かない。


 俺といえば方向音痴みたいな所があってアリナが地図を書いて俺に持たせてくれている。かなり丁寧に書かれた地図で、これがあれば俺でも迷わない。


 地図を確認しながら進んで迷う事なく学校についた俺は事務室に向かう。


 編入試験を受けて点数が良くても、印象が悪ければ落ちる事があるかもしれない。大切なのは挨拶だ。


 そう心掛けて先生用の玄関から中に入る。ドアを開けてすぐ左に窓口があったから俺は窓口から声をかけてみる。


「すいませ~ん」


 声をかけるとすぐに奥から三十代くらいの女性が出てきた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「え~っと、編入の書類を送ったソウヤです。編入試験を受けに来ました」


 名前を名乗ると女性は事務室の奥に消えて、ファイルを持って戻ってきた。


「ソウヤ君ですね。名前を探すので少々お待ちください」


「はい」


「ありました。試験会場は右に曲がって先の近くに左手側にある階段を上りまして二階に行き、階段を上った先の右手側の会議室という部屋です」


 説明がややこしい。真っ直ぐたどり着ける自信は無いが、二階という事と階段の近くだという事は分かった。走り回ればいつかは見つかるだろう。


「ありがとうございました」


 お礼を言って窓口から離れる。俺は持ってきた靴を脱いでスリッパに履き替える。靴は袋に入れた。


 ちなみにこのスリッパはアリナが買ってきてくれたものだ。


 俺は記憶を便りに階段を見つけて二階に上がったが、上がった先の右手側は廊下だ。あの人の説明が面倒くさくなったな。


 俺は取り合えず右手側に気を付けながら進んでいると右手側に道が現れた。分かれ道だ。全ての道を右に行けばいいという意味で説明を省いた可能性はあるが、そうでなかった場合は大変だ。


 俺は目を凝らして両方の道を見る。直進の道の右手側には札がついている部屋が数個あるが、会議室がありそうな雰囲気は無い。これは右だ。


 俺は右に曲がって進んでいると右手側に会議室という部屋を見つけた。ドアのところには『編入試験会場』と書いてある紙が張り付けてあった。


 俺は少し部屋のドアが開いていたため中を覗き込んでみたが、誰もいない。


「すいませ~ん」


 取り合えず声をかけながら入ってみるとやはり誰もいなかった。


 俺が紙をもう一度見ると試験監督到着前に準備を済ませる事と書いてあったため、俺は中にある椅子に座って試験の準備を始める。


 ここ数日はテスト勉強に励んでいた。端からはそう見えるだろうが実際は自分の興味のある場所しか教科書を読んできていない。そこが外れていたらかなり不味い。


 待っていると中に先生らしき人が入ってきてすぐにテストが渡された。


「始め」


 先生は時間を気にしながら合図を出してきて、俺はすぐにテストに取りかかった。


 それからの事は余り覚えていない。無我夢中で解いていて、気づいたら試験が終わっていた。


 国語、数学、理科は問題なくできた。中学生レベルの問題が結構あったし、教科書を読んでおけばできるような問題ばかりだった。


 だが、社会と魔法は全然分からなかった。社会は俺が読んでいない時代の範囲からばかりが出ていたり、社会情勢の問題はさっぱりだ。魔法は何となくこうだといいなという発想で解いたから自信がない。


 合格点数が三百点なら余裕で取れていると思うが、四百だとかなり不味い。


 試験に落ちていたら俺はフリーターか。今はバイトをしていないからニートだな。


 この国でも学歴フィルターみたいなのがあったら俺は一生フリーターでこつこつ金を稼ぐか頑張って就職して低賃金で働くか。


 就職してしまえば、そう簡単に首は切られないはずだから問題でも起こさない限り安心できる。


 だが、それではアリナに迷惑をかけるかもしれないから嫌だ。非常に今更だが試験に受からなければいけない。今年がダメなら来年には受からなければいけない。絶対に受からねば。


 帰り道で決意を固める。落ちている前提で決意を固めるのはどうかと思うが決意を固めるのは早い方がいいだろう。


 俺は家にすぐに帰って、アリナから預かっている鍵で中に入る。それから玄関に鞄を置いてから家を出て忘れずに玄関に鍵をかける。


 これから俺はバイトの面接に行かなければいけない。もし採用されたら今日から働くそうで仕事を覚えるので一日を使いそうだ。


 こんなに早く働く事になっている理由はアリナがそのバイト先で同じくバイトをしているためトントン拍子に話が進んだからだ。トントン拍子に進みすぎてバイトの内容すらよく分かっていない。


 俺は家の前で地図を広げる。これもアリナが書いてくれた地図でバイト先の場所までが書かれた地図だ。


 アリナがいなかったらこの場所で俺は生きていけない。アリナの地図を確認しながら進めば目の前には飲食店みたいない建物が建っていた。


 店名は『Beautiful-Kitchen』となっている。清掃に拘っているのかもしれない。食事に清潔さは重要だからな。


 店名を確認した所で裏口から入る。バックヤードはあまり片付いていないがキレイなのだ。店がキレイなのではない。店員の顔が整っていてキレイなのだ。


 店員が美男美女で店員がキレイな店なのかもしれない。


 こんな所でやっていける自信が無い。アリナは十分働けるだろうが、俺は無理だ。アリナ曰く俺なら面接は余裕で受かるようだが、受かる気がしない。受かっても裏方に専念して人前にこの人たちと出たくない。


 俺が周りを見て驚いているとエプロンを来たアリナがバックヤードに入ってきた。


「時間より早くに来てて偉い!」


「当然だろ。面接があるんだから」


「そうだね。着いてきて。店長が待っているから」


 もう店長が待っているから。


「俺、働けるかな?」


「ソウヤなら大丈夫。ほら着いたよ。大丈夫だとは思うけど頑張ってきて」


 そう言ってアリナは扉をノックして声をかける。


「店長、ソウヤ君を連れてきましたよ」


 アリナが声をかけると部屋の中から野太い声が返ってきた。


 アリナがドアを開けてくれたから中に入ると、そこにはあまりキレイではないおっさんがいた。


「こんにちは。ソウヤです」


 取り合えず挨拶をすると店長はすぐに俺の方を指で指してきた。


「採用」


 ん?採用って挨拶の言葉だったっけ?どういう意味なんだったか分からなくなった。俺は採用とはいくつかの問答をした後で悩んだ末に言い渡されるものだと思っていた。


「それは雇ってもらえるという意味であっていますか?」


「勿論そうさ」


 そう言って店長はサムズアップする。それを見た俺は部屋の中に入ってきていたアリナを見る。


「この店の採用基準はバックヤードを見て分かったと思うけど顔なの」


 ここはクラブか何かなのか?普通の飲食店では無さそうだ。普通の飲食店だと採用の基準が顔のみはダメだと思う。


 俺はもう一度店長の方を向く。


「という事で今日からよろしく」


 という事での部分が俺には理解できない。という事での部分はそもそも存在したか?開いた口が塞がらないとはこういう事なんだな。


「この店で働くには俺がスカウトをするかバイトの人たちが推薦してくるかして面接を受けるしか方法はない。アリナと会えたのは運が良かったな。尤もアリナが推薦してきたのは今回で初めてだがな」


 履歴書をこの店に送っても面接はしてもらえないという事か。よくそれで人員が揃うものだ。結構な人気店でバイトの人たちと何とかコネクションを持てた人たちが推薦されるのか仕事が少ないから回せるのか。


「それじゃあ、行くよ」


 俺はアリナに引かれて部屋を出る。俺はまだ理解が追い付いていない。


「そんなに驚く事ないでしょ。受かるって事前に言っておいたんだし。そもそもソウヤ、イケメンだからね」


「ん?」


 そんな事はないはずだ。


「モテた事ないの?」


「ああ。嫌われた事しかない」


「ごめん」


 昔だったら嫌な事を思い出して落ち込んだかもしれないがもう気にいていない。


「気にするな。今は気にしていない」


「うん」


 アリナの返事の声のトーンは低い。何だか申し訳なくなってくる。


「本当に気にしなくていいんんだからな」


 再度フォローを入れる。それでもアリナが発している重い空気は変わらない。


 こういう時は話題転換だ。


「仕事の内容を教えてくれ」


「わ、分かったよ」


 気まずい。話題転換が通じなかった。もう無理そうだし諦めよう。こういうのは時間が解決してくれるはず。頼む、解決してくれ。


 同じ家に済んでいてこの空気感は非常に不味い。


 仕事の主な業務は接客でアリナと一緒に行動していたのだが、接客は日本のアルバイトで何度かやった経験があるから問題ない。


 そのバイトを止めるか接客を無しにしてくださいと店長に頼むかの二択で迷っていたらここに来たわけだが。


 その時の経験が生きたのと周りが初日だからと俺が仕事を覚える事を重視してくれたおかげで、結構余力を残しながらアルバイトを終えると、いつ学校の合格が決まるのだろうかという事で頭がいっぱいだった。


 将来を考えるとその日の夜はなかなか寝付けなかった。

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