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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-2章 序列戦
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師匠戦前

 竹刀を掴んだところで声をかけられる。


「これは期待できそうだ。だが、刀身を掴むのはお勧めしない」


「そういうのは当日にやらないでくださいよ」


「そうだな、すまなかった」


 こんなことをするのは師匠しかいないため俺を呼び出したのは師匠だ。


「何で呼んだんですか?まさかさっきので終わりじゃないですよね」


「当然だ、あれはついでだ。賭けをしようと思ってな」


 師匠がそんなことを言うなんて意外だな。


「内容は?」


「私が勝てばソウヤはアリナに自分の思いを伝えろ」


 自分が勝つつもりでいるから俺に告白をさせようとしてきているのか。


「お断りします」


「何故なんだ?良い機会だろうに」


「条件が気にくわないです」


 賭けで強制的に告白は気乗りしない、ましてや負けで告白など。いや、やっぱり良い機会かも。


「何が気にくわないんだ?思いを伝える以外なら変えるぞ」


「俺が勝ったら何があるんですか?」


「考えていなかった」


 戦い大好きな人はこれだから。賭けはリスクとリターンがなければ成立しない。もし師匠が自分が必ず勝つから負けた時のことを考えていなかったとかなら一泡吹かせたい。


「そうだな常識の範囲内なら言うことを聞こう」


 常識の範囲内?師匠に似合わない言葉ランキング上位の言葉だろうに何を言い出すんだか。


「やっぱり、俺が勝ったら思いを伝えるにしませんか?アリナの前で俺が強くなったことを証明できますし。その代わりに俺が負けたら常識の範囲内で言うことを聞きますよ」


「それでソウヤが全力で勝とうとするなら私は構わない」


「交渉成立ですね。手加減無しの全力で戦ってくださいね」


「ああ、当然だ。それじゃあこれで」


 そう言った師匠は控え室から出ていった。本当にマイペースな人だな。自分の用件が済んだら即刻立ち去るなんてマイペース過ぎる。


 でもそろそろ俺も準備しなければいけなかったから丁度いいか。俺も控え室から出て宿泊施設まで戻る。どうせ師匠だと思って棍を持たずに来たから、棍を取りに行ってついでに棍の手入れをしなければいけない。


「ただいま」


「ブレイダお姉ちゃんとあってきたの?試合についてのことを話し合ったのかな」


 あっている、何故分かる。


「そうだ。軽く話し合っただけで大した話はしていない。師匠に勝ちたい理由が増えただけだ」


「頑張ってね。私はそろそろ席の確保に行かなきゃいけないから」


「ああ、いってらっしゃい」


「いってきます」


 アリナが部屋を出ていった。


 俺は静かになった部屋に取り残され、棍を磨く。汚れが魔力の流れる部分に付着していると魔力の流れが阻害されるので、くまなく拭いていく。


 師匠との戦いということもあっていつもより入念に手入れをした。


 これから師匠と戦うと分かっているのだが、全く実感が湧かない。


 自分と師匠との差を感じてしまっているから、同じ土俵に立つことに違和感を抱いているからだということは何となく分かっている。分かったうえで師匠の勝ち方を考えたり、師匠に勝つと言っていたりしている。


 そして、今更逃げ出すわけにもいかないから困っている。


 このまま戦っても実感の無いまま師匠の速さに着いていけず一撃で決められて終わりだ。


 それでも戦うしかないかー、諦めよ。


 もう考えない、考えても仕方がない。アリナにどうやって告白するかだけを考えていよう。


 夜景が綺麗なところに行って告白が良いとは思うが、アリナが高いところを嫌がるか。でも何だかんだ着いてきてはくれるよな。場所の力を借りずに告白する方がいいのかもしれない。


 そうなると家か?家はいつもの場所すぎて特別感ゼロになりそうか?


 告白は言うのが難しいと思っていたが、前準備の段階ですでに難しすぎる、どうしよう。


 考えが巡りすぎて秒針は驚くほどの速さで回り続け、コロシアムにいかなければいけない時間になった。


 もう勢いでいっか、その場の勢いに任せて告白してしまおう、それがいい。


 長時間悩んだとは思えないほどあっさりとあっさりな結論を出した。相対さえなければ時間をじっくりと使ってもっとちゃんとした結論を出せるのに。


 ここは俺の得意な言い訳を念じておこう。


 告白に大事なのは場所とかのムードとかじゃなくて思いと伝えることなんだ、だから断られてもいいんだ。


 さて長い長い現実逃避の時間は終わりにして現実を見よう。


 師匠相手に弱気になれば速攻負けだ。常に強気に絶対に勝つという意思を強く持って確実に勝ちに行く。


 俺は確かな意思と棍を持って部屋を出た。部屋を出た時には忘れずに鍵をかけて、コロシアムに向かう。


 外は強風が吹いていて、しかも向かい風だ。


 師匠の風だったら一歩進むごとに後ろに下がるだろうから大したことないな。


 軽くふざけながら想像を膨らませて歩いていきコロシアムの入り口についたのだが、人がいた。


「どうした?何かあったか?」


「ううん。これからブレイダお姉ちゃんと戦うのに心が折れていないか見にきただけだから」


 アリナの読みはちょっと前の俺に当てはまっているな。


「問題無い。俺は師匠に勝つ」


「頑張って。見てるから」


「ああ、見ていてくれ。それじゃあ行ってくる」


 そう行って控え室の入り口に立ったところで思い出した。


「鍵持っていてくれ」


 そう言って鍵を投げて、アリナがキャッチするのを確認して控え室に入っていく。


 控え室の壁に棍を立て掛けて置いて、俺は洗面所に向かった。洗面台の蛇口を捻り水を出して、その水を両手に溜めていく。


 両手から水が溢れ始めたので、手を急いで顔に持っていき水を顔に思いっきり当てる。


 水はひんやりしていて俺の顔の熱を奪っていくのが気持ちいい。そのまま洗面所から出て棍を取り、橋まで移動する。


 少し顔から水滴が落ちているが風が肌を撫でる感触が強い。この水も戦いが始まってしまえばすぐに乾いてしまうのだろうな。


 だがそれでもいい。


 師匠との戦いに熱を持って挑めると解釈すればいいことだ。


 物事の解釈など人の数あると言いたいところだが、人の解釈は変わるものだから人の数では収まりきらない程存在している。


 そう考えれば特殊な解釈など存在しない。


 それだけの数があれば必ずどれかの考えには似るはずだから特殊にはなりえない。これは全体で見ればだが、個々の集団で分けると環境が似ているせいか考えは似やすい。


 その中でなら特殊な考え方を持つ可能性は十分に存在している。


 これもまた解釈。要するに好きなように解釈をすればいいという話だ。


 俺がこれからしなきゃいけないことと真逆のことを考えているが、現実逃避も必要なことだと解釈しておこう。


 解釈の話はさておき俺は試合中に師匠の考えを正確に読みとかなければいけない。師匠の考えを読んで常に師匠に反撃をとれるようにしなければ勝てない相手。


 目を閉じてペンテシレイア流剣術の技の反撃方法をイメージトレーニングする。迷わないようにイメージを刷り込んでいく。


 技全てを終える頃には橋が下りていた。


 橋が下りる前に司会が喋っていたはずだが気づかなかったということは集中できていたんだな。


 俺は橋を渡りフィールドに入っていく。すでに中央には師匠が立っており、今までのどの相手よりも気迫があり足取りが重くなる。


 師匠は確かに全力を出してくれるようだ。俺に勝つための全力といったところか。手抜きをしている雰囲気は一切ない。


 俺は師匠と話すことがぎりぎり可能なところで立ち止まる。


「両者揃いました。それでは準決勝第一試合Ready Fight!」


 開始の合図はあれど動かない。


「師匠、全力を出してくれるようで嬉しいです」


「そういう勝負だからな。ソウヤも勝つつもりのようで嬉しいぞ」


 アリナも同じようなことを言っていたし今の俺はそういう顔なのだろうか?洗面所で確認してみたかったが、俺には無理な話だ。自分の顔を見るなどというのは。


「愛の力が俺を最後まで動かしてくれますから後は頑張るのみです」


「アリナと少し話せたようだな。それじゃあ勝負を始めようか」


 賽は投げられた。

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