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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-2章 序列戦
49/330

本選第一回戦 決着

 ガタガタガタ


「キャッ」


 窓の近くに座っていた年寄りのVIPの人が短く悲鳴を上げた。その悲鳴を聞いて回りの他のVIPの人たちが席を立って窓から離れていく。


「落ち着いてください。少し魔力が窓にぶつかっているだけです。何の問題もありません」


 そう僕――アーサー・ジークフリートは声をかけて落ち着かせようとする。VIPが入る前にこの部屋の強度は調べておいたから問題ない。


「本当に大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫です。この部屋の強度なら、この程度では傷一つ付きません。それにもしものことがあれば私がみなさんをお守りしますので」


 そう言うとVIPたちは席に戻っていく。この程度とは言ったけどここの窓が鳴るのには相当な量の魔力が必要だ。この部屋から一歩でも出れば魔力に体が圧迫されるだろう。


 何があったらこんな量の魔力を放出することになるんだ、ソウヤ。何か話していたようだが、声までは聞こえてこないから、僕には分からない。


 フィールドの上空に映し出されている映像ではソウヤと太っている人と戦っている、とは言えないほどにソウヤが一方的に攻撃していた。

―――――――――――――――

 俺――ソウヤは頑張って座った状態から逃げようとするデブの手を踏みつけた。


 踏みつける力は次第に強くなっていき、デブが呻き声を上げ始める。


「ああ゛あ゛ーーー、あがっ、助けて、許してください」


 許してくださいの声を聞いた俺は一瞬だけ踏みつける力を思いっきり強くしてから離した。デブの手は踏みつけたことで血管が圧迫されて血が出ている。


「許して欲しいならさっきの言葉を取り消すことだ」


「あの方を奪ったりしません、許してください」


「そっちじゃない」


 このツッコミで少し冷静になれた気がした。


「あの方は決して売女ではございません」


「次同じことを言ったらどうしようかな。まあ、今よりは酷い事にはなりそうだけど。棄権するか気絶するかだがどっちにする?」


「棄権させてください。審判、棄権します」


 デブの棄権は無事に受理された。


「ゼレック・ルマーダ選手の棄権により勝者ソウヤ選手」


 試合は終わったのだが、観客が若干引いているかも。魔力を放出してしまったしそのせいなのかな?俺は多少考えながら戻ったのだが、控え室の入り口の近くに少し怒った感じのアリナが立っている。


「どうしたんだ?アリナ」


 周囲の魔力の重さでアリナが怒っていることなど簡単にわかるのでさらに怒らせないようにしなければいけない。


「どうしたのじゃないよ。魔力を放出して観客席の方に圧かけるし、相手の選手にやりすぎていたと思うけど」


 観客席には会話の声など届くわけがないので、何故あんなことになったのかの理由はアリナは分かっていないようだ。


「ああなったのは半分あいつのせいなんだ。あいつのせいで魔力制御が乱された」


「本当?」


「本当だ」


 俺が返事をするより先に後ろに現れた人が返事をした。その人は俺の横を通り過ぎてアリナの横に立つ。


 感知能力を極めて恐ろしいほどの地獄耳を持っている師匠だ。


「彼はソウヤを挑発して怒らせようとしたら怒らせ過ぎて返り討ちにあったというわけだ」


「感情をコントロール出来ないほどのことを言ったの?」


「ああ、知り合いの悪口を言われたんだよ」


 師匠が代わりに全て答えてくれるようだ。


「誰の?」


「そこはソウヤに聞けばいいさ。ソウヤがその人の悪口を聞くと魔力の制御が出来なくなってしまう程の相手なんだから」


 そのタイミングで魔球のパスをしないで欲しい。


「誰なの?」


「さあ、誰だったろうか。怒りすぎて覚えていない」


「怒った理由を覚えていないのは可笑しい」


 ごもっともな返しですね。どう流そうかな。


「ほら、相手に最後に訂正してもらったからもう水に流した。怒りすぎて水の勢いが凄かった感じかな」


 我ながらひどい例えだな。


「ふーん、そう」


 このアリナの返事は話したくないなら無理に聞くべきではないということに納得した返事だ。決して俺の例えが分かったふーんではない。


 ここで一気に話を終わらせよう。


「師匠、次の試合は師匠とですね。どうやったら俺は師匠に勝てますか?」


「相手に聞くとはかなり大胆だな。ソウヤが全力を尽くしても負ける気は無い」


 これは全力を尽くすのみということかな。確かに師匠なら搦め手は全て瞬時に理解できて、絡めてをした俺の隙になる可能性の方が大きいから俺の全力を尽くした方がいいのは分かっている。


 だけど俺の全力は短期決戦過ぎるから先に師匠を崩してからじゃなきゃ無理そうなんだが、全力でなきゃ師匠を崩せそうにない。


 これは詰んでいる。


「まあ、頑張ります」


「ああ、そうしてくれ。楽しみにしている」


 この後の試合は別に見なくていい。


 勝つのはタナトス、エンゲ、師匠になるはずだし、どうせ全員一撃で決めて終わりだ。見ても参考にならない。


 オーウェンの試合を見ようか迷いはしたが、負ける試合を見られたくはないだろう。


「それじゃあ、戻ろうかアリナ。今日は師匠に勝つ方法を考えなきゃいけない」


「昨日より考えるのが難しい議題だね。アーサーも呼んだ方がいいんじゃない?三人寄れば文殊の知恵だよ」


「アーサーはVIPの対応で疲れているだろうから止めておこう」


 狐の相手をして、その後に金棒を持った鬼の倒し方を考えるなど大変過ぎる。それに、アーサーはああ言った場は得意じゃないから、狐の相手だけでも体力を使い果たしているから呼んでも考えることが出来ずに眠りに着くのが目に見えている。


 アーサーは呼ばずにアリナと夜になるまで議論し続けたが結局正面突破が一番という結論に落ち着いた。

―――――――――――――――

 コンコン


 ドアをノックする音で目が覚めた。こんな朝早くに誰が来たのだろうか、今までは誰も来たことが無かったのに。


 俺は玄関に行きドアを少し開いて、その隙間から顔を出す。


 誰もいない。


 ピンポンダッシュならぬノックダッシュなのか、だがそんなことをするやつがこの島にいるわけがないか。


 俺はもう一度周囲を見渡すと地面に便箋が落ちていた。俺は部屋から出て、便箋を拾ってから部屋に戻る。


 便箋に封はされていないので、中に入っている紙を取り出して内容を確認する。封がしてあったら読むつもりはなかった。


『試合開始一時間前控え室で待つ』


 これは俺宛なのか。そうじゃなければわざわざドアをノックして部屋の前にこれを置いていくわけがない。字の感じと文章で誰が書いたのかは分かるのだが、こんな回りくどいことをする人だっただろうか。


 行って確かめるのが一番早い。


 しかしまだ試合開始二時間前のため、まだ一時間待たなければいけない。今すぐとかにして欲しかったな。


 空いた時間は着替えて散歩でもしに行こう。


 俺はアリナを起こさないように忍び足で歩きながら、リビングのバッグから着替えとバッグの横の鎖帷子を音を立てないようにしてとる。


 洗面所の扉はドアノブを回すときに一番音が鳴るので開けてから閉めるまで捻ったままにして洗面所に入った。出る時のことを考えれば開けたままの方が確実にいいのだが、うっかり閉めてしまった。


 後はもうトイレに入って着替えてさっきと逆の行動を取るだけでいい。最後に静かに玄関のドアをそっと開けて閉めて外出完了。


 俺は宿泊施設から出て、海沿いの道を散歩する。海風が肌を軽く撫でる気持ちのいい風が流れている。


 散歩に出て良かったな。だが散歩出来る時間はそう長くはない。アリナが起きるころには戻らなくては. 待っているのは冷めた朝御飯だ。


 それだけは防がなければいけないのは自明の理のため、俺は時間を確認してから来た道を引き返す。


 そろそろアリナも起きたころだろうか。

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