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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-1章 異世界での生活
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アリナの圧

 俺の顔が日の光に照らされて眩しさのあまり起きた。


 昨日、昨日ではなくて今日か。今日はカーテンを閉める事を忘れてすぐに寝てしまったからこうなった。昨日はかなり大変な日だったから仕方ない事としよう。


 俺は昨日の事を振り返りながら布団から這い出て立ち上がる。布団から出るのが一番大変だから、這い出るしかない。まだ眠気が残っている体を頑張って動かして、部屋から出ると全身に寒気が走った。


 何だこれは。俺を蛙とすると蛇に睨み付けられている状態にあるような感じ。表現するならこれは(プレッシャー)だな。部屋の前で少し待ってみても(プレッシャー)は消える事がないため少しずつ階段に近づいていくと(プレッシャー)も少しずつ強くなっている気がする。


 昨日の事で俺には忍耐が身に付いている。ここで半日くらいは待てる。


 そうなるとアリナが見に来てしまう可能性があるのか。それは申し訳ない。でも行きたくないな。


 俺は勇気を振り絞って一段目を踏む。意外と簡単に踏み出せた俺は勢いに任せて階段を下りきってリビングのドアに手をかける。


 駄目だ。これ以上は無理だ。


 (プレッシャー)が半端じゃない。開けるか開けないか。開けたくはないが開けない訳にはいかない。


 開けるしかないか。俺はゆっくりとドアノブを捻ってからドアを少しだけ開けて中を確認する。


 (プレッシャー)を発しているものは見当たらない。俺はドアの隙間に体を滑らせて中に入る。ここまで来ると(プレッシャー)が凄すぎる。逃げたいがこの(プレッシャー)の原因を突き止めなければ今後の生活が危うい。


 俺が慎重にリビングの中を歩き回っているとキッチンにアリナがいた。アリナを見た瞬間に(プレッシャー)が一気に増して死ぬかと思った。俺はアリナに気づかれないようにキッチンの近くから離れてソファーに座った。


 どうすればいいんだ。現状を打開する一手はないものか。俺がしばらく考えているとアリナがキッチンから出てきた。


「おはよう」


「お、おはよう」


 話しかけられた時に三途の川が見えた気がする。その割りには上手い事挨拶を返せたものだ。アリナに話しかけられただけで全身に物凄い圧迫感を感じた。さっきまでが蛇に睨まれていたなら、今回は蛇に締め付けられているようなものだ。


「朝ご飯食べようよ」


「はい」


 俺は席についた。アリナが目の前にいて怖い。


 ご飯を食べている時の記憶はない。気づいたら俺は皿洗いをしていた。俺は急いで皿洗いを済ませてソファーに座る。今はアリナと離れていたい。


「今日は学校休みなの。ソウヤとお話したいからそこにいてね」


「分かりました」


 これは断れる雰囲気ではない。


 昨日の事について話をするという事か。俺が方向音痴過ぎたという事の一点張りでいこう。嘘は言っていない。


 それからアリナはゆっくりと食事を済ませて皿洗いをしてから再び席についた。


「前に座って」


「はい」


 俺はアリナと対面になる位置にある椅子に座った。間にあるのはテーブルのみで(プレッシャー)が近い。直ぐにでも離れたい。


「何の話をするか分かっていますか?」


 何で敬語何ですか?とても怖いです。


「昨日の事であっていますか?」


「そうです。まずは事実確認をしましょう」


 どこから話せばいいか。最初からの方がいいかもしれない。


「警官に連れられて警察署に行き、仮戸籍を取る手続きをしました」


「その警察官はウィリアムさんです」


 そうなんだ。知らなかった。


「それからは図書館に連れてこられて、閉館時間まで図書館にいました。それで図書館を出てみると帰り道が分からなかったんです」


「そうですか。周りの人に道は聞けなかったんですか?」


「はい。人通りがとても少なく聞けませんでした。ここで動いた方が迷子になると思ったので、通りすがりの人に道を聞いて警察署に戻るつもりでいたんです」


「方向音痴は致命的だけどソウヤが悪いと言える状況ではない事が分かったよ。次からは気を付けてね」


 (プレッシャー)が消え去った。何という解放感。凄まじい。


 もう一度感じたいと思ってしまうほどの解放感がそのためにあの(プレッシャー)を受けるなら二度と感じたくない。それほどまでに(プレッシャー)は凄かった。


 今日は静かに過ごそう。アリナを刺激しないように。


 今日だけの我慢だと自分に言い聞かせてこの一日を穏便に過ごしきった。


 それから一日が経った。アリナの(プレッシャー)が消えているかビクビクしていたら朝早くに起きすぎた。


 カーテンの外を見てみればまだ星が見える。夜明け前。俺は一階に下りて、時間を確認するとまだ三時だ。夜明けまで後二、三時間ある。


 この家にはゲームもパソコンも無い。時間を潰す物が無いからソファーで寝ようと思っても、寝ている所をアリナに見つかって怒られたりしたら嫌だしな。


 昨日のは俺のためを思ってくれて怒っているように感じたからソファーで寝ているくらいで怒られるとは思わないが、念のためだ。


 俺はソファーに座って考えを巡らせる。


 ここの言語は俺の聞いた事も見た事もない言語が使われている。それに魔法と呼ばれる機械があって日本が知られていない。そして聞いた事が無い五大大国なるものがある。


 なのだが、結構文化が栄えていて発展途上国とかではなく先進国に分類されるのだろう。先進国で名前が一切知られていない国何てあるか?ましてや五大大国に数えられるような国だぞ。


 何が何なのか分からない。俺の夢にしては感覚がリアルで設定が突飛だ。夢だから設定が突飛なのはありえるか。ならばここは地球という設定ではない。だが、魔法は実際には存在していないというリアリティもある。俺が実際に経験していない事は夢に反映できないのかもしれない。


 そうなるとアリナも夢なのか。いい友人を手に入れられそうだと思ったのに夢から覚めたらもういない。何だか悲しくなってきた。折角友だちができそうだったのに…

―――――――

「起きた?おはよう」


 いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。俺は重たい瞼を持ち上げて声をかけてきた人物を見る。


「アリナ!?アリナだ。アリナ、おはよう」


「どうしたの?私の家何だから私は当然いるよ」


「そうだな。当然か」


「何が何だか分からないけど、取り合えず朝ご飯作ったから一緒に食べようよ」


 そういえば昨日の(プレッシャー)は一切感じない。昨日の事が嘘だったかのように優しい雰囲気が漂っている。


「ありがとう。一緒に食べよう」


 俺たちは対面に座って同時に食べ始めた。あの時から二人同時に食べ始める事が定着し始めている。


 同時に食べ始めるという暗黙の了解とでも言うべき事によって俺たちに上下関係が存在しない事が示されているようなもの。だというのにアリナだけに料理をしてもらっているのは申し訳ない。


 今度俺が代わりに作ろう。何がいいかな。こっちの料理を余り分かっていないからたぶん和食系がいいだろう。これまでのアリナの料理も洋食系だったし。だから俺は日本食でいこう。味噌汁は取り合えず決定として他のものは後で考えよう。アリナの好き嫌いが分かってからにするか。


「アリナ」


「何?」


「今度俺が料理するよ」


「できるの!?」


 そんなに驚く事じゃないだろう。高校生くらいの年齢なら料理ができる人は少なくはないはず。


「できるぞ。いつもとは違うジャンルの料理を作れる」


「なら今度お願い。今は食材に余裕が無いから」


 普通は使う分しか買わないよな。


「買いに行こう」


 俺が直接買いに行かなければ献立を考えるのは難しい。俺が望む食材が置いてあるか分からないからな。


「今は無理」


 当然食材の保存できる時間とか経済的な事情によって変わってくるよな。自分の金で買う訳でもないというのに気持ちが逸り過ぎてしまった。


「でも、もうすぐ行けるようになるから」


「何かあるのか?」


「仮戸籍を取れるまでは監視しやすいように、なるべく外に出さないようにしなければいけないから仮戸籍を取れたら行こうよ」


 仮戸籍を取ったら監視が緩くなるのか。処分を言い渡されてから二日目ですらゆるゆるだったがな。


「仮戸籍は今日か明日にでも取れるであっているか?」


「あっているよ。そしたら自由に外出できるようになるけど、迷子にはならないでね」


「そのために地図をくれ。無かったら外出するのはアリナが一緒の時だけにする」


「地図、用意しておくよ。それとバイトしてね」


 一人暮らしだと普段ですら金がキツいだろうに俺が転がり込んだのだからますます大変に決まっている。しっかり働かなくては。


「バイトと言わず就職するよ」


「ソウヤには学校に行ってもらうよ。仮戸籍で学歴が無いんだから当然通わなきゃいけないからね」


 今の俺は学歴が無いのか。だとしたら就職は難しい。日本では大卒ですら出た大学によって入れる企業が変わってくるというのに俺は学歴が無い。


 そんな子がいたら児童相談所がすっ飛んでくるだろうな。もう来る年齢でもないか。


「すまない。部屋を貸してくれるだけではなく、学校に行かせようとまでしてくれる何て。ありがとう」


「気にしないで。ソウヤを住まわせる事でお金貰っているから私も助かっているんだよ。バイトをして欲しいのはソウヤが自立するためでお金に困っているわけじゃないし。重要観察処分が終わったらお金を貰えなくなっちゃうからその時は自立してね」


「分かった。それまでの間よろしく頼む」


「よろしくね」


 貰える金はそんなに多いのか。俺の生活だけではなくて学校に通わせられるくらいの金は貰えるという事だ。俺がここにいてアリナが得をしているなら良かった。


 アリナがいくら貰えるのかは分からないがしっかりとバイトをして家に金を納めなくてはいけないな。金があって悪い事は少ない。アリナには金を持っていてもらおう。


 それからは特に何かが起こる事は無かった。強いて言えば昼ご飯を作るのを手伝った事とソファーでゴロゴロしていたらアリナに教科書を渡されたくらいだ。


 ほとんど何事も無く日が沈み空では月が輝いている。


 ピンポーン


 インターホンが鳴った。こんな時間に誰が訪ねてきたのだろうか。


「アリナ、インターホンが鳴ったぞ」


 取り合えず二階にいるアリナに声をかけておいた。


「はーい。今行く」


 アリナはすぐに二階から下りてきて玄関に向かっていった。この家にあるインターフォンの使い方がまだ分かっていないから俺は出れない。


 俺はソファーに座り直して休む。アリナが来たらどういう用件だったか聞こう。


「ソウヤー、ソウヤにお客さん」


 俺!?


 俺を訪ねてくるような人何て一人しかいないか。俺はソファーから立ち上がって玄関に行く。


 俺が靴を履いて外に出るとアリナと警官のウィリアムさんがいた。


「来たか。仮戸籍を取れた事を伝えに来た。これには正式な書面とか色々入っている」


 そう言って封筒を渡してくれたので受け取る。まさかわざわざ渡しに来てくれるとは思っていなかった。


「ありがとうございます」


「仕事だからな。感謝される事じゃない」


 仕事でもわざわざ行くのは面倒くさいだろう。意外に優しい。


「俺は帰るぞ」


「ありがとうございました」


 俺はウィリアムさんにもう一度礼を言う。ウィリアムさんは振り返る事なく帰っていったがそれでも見えなくなるまで玄関先に立ち続ける。


「よかったね。明日一緒に買い物に行かない?」


「俺は金を持っていない」


 誘いは嬉しいが金がない。


「私が払うから大丈夫」


「申し訳ないな」


 払ってもらった分はバイトして返さなければいけない。アリナに貸しはできるが、これで料理ができる。


「それと、学校の編入の手続きをしておくよ」


「編入できるのか?学歴は無いが」


「試験だけでできるらしいよ。その代わりかなりの難易度らしいから勉強頑張って。範囲は編入試験を受けられるのが決まってから発表だと思うから」


 それだと試験勉強できる時間が短いから早いうちに満遍なく勉強しておく必要がある。


「頑張る。だが、今日は早いうちに寝る事にする」


 俺はすぐに寝る準備を始めて結構早い時間に起きた。

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