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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-2章 序列戦
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個人的な事件

 俺は何も見ていないし、急いで閉めたから気づいた人は誰もいないのだと心の中でいい続ける。決して開けたら全身艶やかな肌を持ったアリナがドアに手をかけて立っていたわけではない。


 アリナに気づかれていませんように。


 ドキドキしながらアリナを待っていると、ようやくアリナが脱衣所から出てきた。髪はまだ濡れているし、解かしてもいない。


 わざわざ早く出てきたな。


 俺はソファーから立ち上がって脱衣所まで行き、タオルとブラシを持ってくる。


「アリナ、ソファーに座って」


「はーい」


 ソファーに座ったアリナの髪を丁寧にタオルで拭いて水滴を取った後にブラシをかける。


「どうだった?」


「何が?」


「見たでしょ?私の裸」


 聞かなかったことにしよう。答えずに無言で髪を解かす。


「女性の裸を見て、感想がないのはどうかと思うなー」


 言い方がわざとらしいし、感想を求められることなのか分からない。俺は無かったことにしたいのにアリナがそれを許してくれない。


「とてもいい体型だったと思います」


「本当?私って胸が小さいから」


「とてもバランスの整った素晴らしい体型だと思います」


 できる精一杯の褒め言葉だ。どこかを具体的に誉めるわけにはいかないので全体を褒めるしか選択肢がない。


「バランスの整った素晴らしい体型かー。ありがとね、褒めてくれて」


 お世辞言ったと思われているのか?


「本心」


「本当に?それなら嬉しいな」


「だから本心」


 中々信じてはくれない。本心なんだけどな。


 話しをしている間に髪を解かし終えてアリナの髪飾りを付けようと四苦八苦していると、

「私が付けようか?」

 とアリナは言ってくるが、俺がこれをしているのは罪滅ぼしとしてやっているから任せるわけにはいかない。


「頑張るから待っていてくれ」


「なら教えるよ」


「助かる」


 髪飾りの付け方をレクチャーしてくれているのだが、難しい。だが、何度か失敗しながら何とか付けることができた。


「何とか付いた」


「うん、ありがとっ。それじゃあ、晩ご飯食べに行こうよ」


「そうだな。お腹空いた」


 俺たちが部屋から出てみると、廊下には大量の人がいた。


「ちょっと人が多すぎるな。《召喚:ファフナー》」


 アリナの護衛としてファフナーを召喚して、前にファフナー、後ろに俺、真ん中にアリナという布陣で夕食会場に向かう。この布陣はまるで重要な人を警備しているようだが、実際には真ん中は平民だ。


 この布陣のまま夕食会場まで来たのだが客として乗っていないファフナーは入れないようなので、ファフナーには体を変化してもらい人形になった。この人形をアリナが持つことでファフナーはアリナを自動的に守る結界と化す。


 強さは本来の形には劣るが、それでも十分強固な結界を展開できる。


 ファフナーはアリナが危険な状態になれば人形状態でアリナを守り、それで力不足なら本来の形で戦うようにファフナーに教え込んだ。もしファフナーがダメージを受けるようなことがあれば俺はそれに気づくことができるので、俺が加勢しにいくというアリナを守る仕組みの要がファフナーだ。


 我ながらすごい式神を作ったものだ。


「ファフナーを変化させてまで守ってもらう必要は無いと思うけど」


 文句を言いながらもちゃんとファフナー人形をポケットに入れている。アリナはこういうところがちゃんとしている人だよな。相手の考えを読んで行動してくれるから、俺が心配すれば心配させないような行動をしてくれる。


 アリナの守りを固めて夕食会場に来たのだが、自由席のようだ。


「師匠がいれば貴族の作法とかがわかるのだが」


「そうだね。もう来てると思うし探そっか」


 アリナは師匠のことをよく分かっているな。確かに師匠なら夕食会場に一番に来そうだ。いつも戦いに重要なのは食事だとか言っているし。


「二人で歩いているなんて相変わらず仲がいいな。私は向こうのテーブルだ」


 探されているのを分かって声をかけてくれるのは嬉しいのだが、毎回会話がちゃかしから始まるのは何とかしてほしい。


 丸いテーブルに椅子が四つ置いてある席の一ヶ所の椅子の前に食べかけの食事が置いてある。ここが師匠の席という事なのだろう。


「料理はウェイターが勝手にもってきてくれるから待っているだけでいい。アレルギーに配慮してある食事のようだが、心配なら聞いた方がいい」


「俺はアレルギーないので」


「なら大丈夫か」


 アリナにアレルギーがないことは知っているのか。この二人は俺の想像以上に仲がいい。


「ダブルベッドの部屋しか空いてなかったんですか?」


「そうではないが、一番安かったのでな」


 一番文句を言えない理由を返された。嘘の可能性もあるが、嘘ですよねと突っ込むこともできないような理由だ。乗せてもらっている以上何も言い返せない完璧な理由。


 何とかしてベッド二つの部屋に変えてもらえないかなと思って聞いたのだが無理だった。正直に言えばアリナと一緒の部屋で寝られるのは嬉しいのだが、脱衣所の一件で個人的に気まずい。


 あれはアリナは気にしていないと思うが、やらかした本人からすれば気まずいのだ。


「何かあったのか?」


 聞かないでくださいよ。


「ソウヤが私の裸を見たの」


「見るつもりは無かったんです」


 精一杯の弁明をする。


「そういうことが。だからソウヤは気まずくなって部屋を変えてもらおうとしたが、私の完璧な理由で撃沈と。だがアリナが気にしていないなら変更はありえないな」


 自分で完璧な理由だと分かっているということは事前に理由を考えていた可能性があるな。そもそも師匠はこういう時にお金を渋る人じゃないし、仲のいいアリナに最安値の部屋を提供するとは考えにくい。


 そして最後のアリナが気にしていないなら部屋を変えないというのは、気にしていたら変えるととれる。気にしていたら別の部屋をとると思うからそれをできるだけの金は確実に所持している。


 完璧な理由は嘘だな。だからといって文句をいえる立場でもない。


 話しをしているとスープが俺とアリナの前に置かれた。


 これは前菜ということか。もしそうなら今回の夕食はコース料理ということになる。


 コース料理なんて俺は食べたことがない。


 さすが貴族が乗る船の食事だ。


 この後に出てくる食事は色々な盛り付けがされていて見た目のインパクトが大きく、美味しかった。


「食べ終わったことだし私は部屋に戻ろう」


 そう言って師匠は席から離れていった。


「俺たちも部屋に戻ろう」


「そうだね」


 二人で部屋に戻ってきた。


「《召喚解除》」


 ファフナーの召喚を解除する。もうファフナーに護衛させる必要は無いし、ファフナーを召喚していると常に魔力を消費してしまう。


 風呂場の方を見て、俺も風呂入らなければなという事を思い出した。持ってきたバッグから服を取り出す。


「お風呂?私は覗かないからゆっくり入ってきてね」


「俺は覗いたんじゃなくて見てしまったんだ」


 覗こうとしていたわけじゃないんだ。


「分かっているからゆっくり入ってきてね」


 分かって言っていることは俺も分かっている。だからといって反論しないのは違うだろ。


 本当に困ったものだ。


 言われた通りにゆっくりと風呂に浸かってきた。


 風呂から出たところでテーブルにいるアリナが俺に話しかけてきた。


「トランプしようよ」


 トランプは当然この世界には無かったものなので俺が作ったものだ。と言いたいところだが、この世界にトランプという概念は存在している。だが、市販はされていない。


 やりたければ、各自で作ればいいみたいな風潮があるせいで、買えないのだ。だから、師匠に説明してちゃんとしたやつを作ってもらった。師匠は上手いこと売って、その利益の一部を俺にくれる。


 自分で作るものというイメージのせいで大した金にはならないが、そのお金でアリナにケーキを買って帰ったりする。


「まずは大富豪しようよ」


 俺持ち込みのルールなら俺はほぼ負けることはない。トランプの遊びの知れ渡り方には大きな地域差があって、俺たちの住んでいる地域には大富豪はないため、俺持ち込みとなっている。


 大富豪を十戦近く勝負したところでアリナが終わりを告げる。


「また負けた。今日は勝てないから寝る」


 アリナはそんなことを言っているが今日も勝てないのだがな。


「あれ?一緒に寝ないの?広いベッドなんだし二人で寝ようよ」


 俺が寝室に行かなかったからかそんなことを言ってくる。


「俺はソファーで寝るから大丈夫だ」


「一緒に寝よう」


 そう言いながら俺の腕を引っ張っている。半ば強制的に俺も一緒に寝ることになった。

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