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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-1章 異世界での生活
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人生の師

「話がまとまったところで、次は自分が試合をしてもいいですか?」


 オーウェン!?


 この道場の生徒の中で最強の男であり、家も名家。何より俺の師匠二号、実力を見てもらうには丁度いい機会か。


「ええ、お願いします」


 先程と流れは同じで竹刀を上段に構えているオーウェンは動かず、俺が少しずつ距離を詰めていく。


 敢えてさっきと同じことをやっているようだ。


 なら竹刀は振り下ろしてくるが、俺が受け流すところで変化をつけてくるはず。それならそれで受け流そうとしてきた時の対処法を見せてもらおうじゃないか。


 読み通り剣を振り下ろしてきたので受け流そうと剣を振るが、オーウェンの剣の軌道は変化して受け流しきれないどころか俺が体勢を崩しかける。崩しかけた体勢のままオーウェンの追い打ちを防ぎ、距離をとった。


 危ない。あのままの距離にいたら直ぐに負けていた。さっきのあいつとは圧倒的に熟練度が違う。


 技を覚えているのではなく理解して使い道も分かっている。


 俺に無い剣の才能。


 俺に才能があるとすれば、それは才能を得る才能であり、オーウェンは剣術の才能だ。それは一見同じのようで雲泥の差がある。俺の得られる才能のレベルが五ならオーウェンの先天は十。


 一つのことで学びとれる量が違い過ぎる。


 正直剣一本では一生懸かっても勝てる気がしない。


 弱気になっている。


 弱気になっていれば負ける光景しか浮かばない。勝つには勝つ光景を浮かべて、それに向かって行動する必要がある。


 俺は今度は距離を一気に詰めて突きをする。


 こんなことをすればいなされて負けだが、いなされる時にいなされないように耐えるのみ。


 いなされないように耐えた後はそのまま攻撃。


 出来る限り変則的にして読まれないようにする。そうすると俺の剣に合わせようとしたオーウェンの剣は空ぶる。


 ここだ。


「勝負あり、勝者オーウェン」


 負けた。


 空ぶった用に見えたオーウェンの剣は、ただの剣を振るための予備動作。その予備動作を俺の剣にギリギリ当たらない位置に合わせてきたのだ。


 悔しい。


 勝てそうに見えて勝機が無かった。


 俺はこの日は誰よりも練習に励み最後まで残っていた。


「ソウヤ、今日はもう止めにした方がいい。アリナが怒る」


 それもそうか。


 俺は竹刀をしまい帰る準備をする。


「悔しいのは分かるが、君は魔力操作の方が向いているだろ。だから今の内は自分の持っている武器の強いところと弱点を覚えるべきだ」


「そうですか、それもそうですね。ところでペンテシレイアさん、前から聞きたかったのですが何で才能の無い自分を誘ったのですか?」


 前々から疑問に思っていた。


 ペンテシレイアさんなら初日に、もしかしたら会った時にはすでに俺の才能の無さを見抜けていたはず。


「それはアリナに頼まれたのもあるが、戦い方は魔力を使うことだけでは無いのを分かって欲しかった」


「それは分かってますよ」


「いや、君は魔力を纏えば何とかなると思っている節がある。だがそれだと相手も魔力を同レベルで纏われると勝ちを決めるのは技術だ」


 確かに魔力を纏えば何とかなるとは思っていた。


「それは今の君なら分かるだろう。君がいくら魔力を纏っていても魔力を使わない私に指一本触れられないように」


 実際、師匠と一回全力で戦ったことがあるのだが一切勝ち目が無かった。


「これは戦い以外でも必要な考え方だ。一つのものだけで勝ちを目指すのではなく色々なものを組み合わせるべきだ」


 なるほど、確かにそうだ。


「ソウヤ、強くなれ。身も心も。強くなってアリナを守れよ」


「ええ、アリナが誰かと結婚するまでは」


「中々面白いことを言うな」


 師匠が笑い出した。俺は何か面白いことを言ったのだろうか。


「その調子だとアリナは一生結婚できそうにないな」


「えっ、なら誰かと付き合ったらにしますよ」


「アリナは大変だな。ところでソウヤはアリナのことをどう思っているんだ?」


 急に何を聞くんだ、この人は。


「どういう意味で聞いているんですか?」


「それは決まっているだろ、恋愛的な意味だ」


 何でそんな急に。


「真面目に答えた方がいいんですか?それならアリナに言わないで欲しいのですが」


「分かったから真面目に答えてくれ」


「分かりました。俺は…アリナのことが好きです。最初は美人だなってぐらいにしか思っていませんでしたけど、最近になってやっと気づきました」


 一気に喋りすぎた。一旦落ち着こう。


「それで?」


 俺が落ち着こうとするのを師匠は許してくれないようだ。


「アリナの優しさに包まれて、アリナと一緒に生きていくことの幸せに気づきました。それは俺がアリナを好きだってことですよね?」


「間違いなくそれは恋だ。たぶん…」


 やはりそうか、他の人からの確認もとれてよかった。


「アリナには好きな人がいるみたいなんです。だから、俺はアリナの恋を応援したいんですけど、好きな人が分からないんです」


「相手のために自分の記憶を埋めて見えなくするのは止めた方がいい。埋めたままその気持ちは、一生残ってしまうかもしれない。そうなってしまえばもうその気持ちは見つからないこともある。だから気持ちがはっきりしている内に告白して、その気持ちを実らせるか折っておいた方がいい」


 それもそうなのかもしれない。


「でも今は無理ですよ。同じ家に住んでいるときに気まずくなりたくないですから。告白するとしたら学校を卒業した後ですよ」


「それでもいいから自分の気持ちを持って他人の応援なんかするな」


 玄関で話し込んでいたのでもう帰ろうと思い引き戸を開ける。


「はい、師匠。もう帰りますね、そろそろアリナが怒りそうなので」


「そうだな、また今度だ。それと私は序列(ナンバーズ)戦に出るよ」


「え⁉」


 聞き返そうと思ったら引き戸を閉じられた。


 とんでもない相手が現れたな。


 俺は序列(ナンバーズ)戦で師匠を超える。


 明確な超えるべき壁が現れたのはモチベーション的にいい。


 色々と今日はいい日だったな。モチベーションを持てただけではない。確かにこの日、ブレイダ・ペンテシレイアを剣の師匠だけではなく人生の師匠なのだと思った。


「ただいま」


 玄関のドアを開けてリビングにいるであろうアリナに向かって言う。


 そうすると、リビングからアリナが来て、

「遅いからご飯冷めちゃったよ」

 少し怒ったような感じで言う。


「ちょっと師匠と話し込んでね」


「ペンテシレイアさんじゃなくて師匠って言った!何かあったの?」


 師匠がペンテシレイアさんを指しているのが分かるんだな。


「ちょっと人生について色々教わってな。それよりご飯食べよう」


 アリナと話しながらリビングに来たのだが、ダイニングにあるテーブルに見えるのは二人分の食事。


「アリナはまだ食べていないのか?」


「そうだよ。ソウヤと一緒に食べようと思って」


「ありがとう、アリナ」


 俺は今何に対して礼を言ったのだろうか?待っていてくれたことになのは間違いない。だが、アリナの返した理由をそのまま受けとれば俺のためにやったことではない。


 俺がアリナと一緒に食事出来ることに対してか。


 俺も何気ない日常に幸せを感じるようになったんだな。


「なら一緒に食べようか」


「うん。私が晩ご飯温めている間にシャワー浴びてきなよ」


 そうするべきか。


 着替えを自室から取ってきてシャワーを浴びる。


 今日の戦い、師匠の言葉が頭に残っている。


 今よりもっと強くなってアリナに告白しなければいけない。そのために今の内にアリナの恋愛事情を探っておこう。


 軽くシャワーを浴びて体の水滴を拭った。


「アリナ、出たぞ」


 洗面所からも出てアリナに声をかける。


「こっちも丁度温まったよ」


 台所に行き料理を運ぶのを手伝い、食卓に料理が並んだところで二人で食べ始めた。


 頃合いを見てアリナに探りを入れる。


「アリナは好きな人いるよな?」


「…うん。何で分かったの?」


 自分で前に言ったことに気づいていないのか?


「前に自分で好きな人との日常がいいみたいなこと言ってただろ。それを言えるのは好きな人がいる人だけかなって思ってな」


「真面目に考えないでよ、恥ずかしい」


 アリナに好きな人がいるのは確定だな。


「そうなんだ、アリナ」


「何が⁉」


 アリナに好きな人がいようと俺には関係のない話だ。


 アリナの好きな人が誰であろうと告白して俺の気持ちを折るし、アリナの性格的に俺を少しでも気になってくれれば勝機はある。アリナが俺のことを気になれば、誠実なアリナは本当にその人が好きなのか考え直すはずだ。


 そこで俺はアリナに好きになってもらえばいい。


「ごちそうさま」


 皿を流しに運んで洗う。


「今日は私が当番なんだけど」


 そうだった。


 アリナに好きな人がいたことに動揺している。


「そうだったな」


「夕飯作る人と一緒なんだから間違えようがなくない?」


「間違えた」


 間違えようがないと言われたのに間違えたと答えるとは俺は言い訳すら言えていない。

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