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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-1章 異世界での生活
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まず最初に戸籍をとろう

 全身が痛む。俺は痛い体を何とか起こして、しばらく座ってみたが体は痛いままだ。体の痛みは引いてくれないので痛みが引くのを待つのは諦めて、部屋を出る。俺は辺りを見渡して階段を見つけてから一階へ行く。


 一階に下りてきた理由は時間を確認するためだ。何もないあの部屋に時計があるわけもなく、時間を確認するためには一階にある時計で確認するしかない。


 一階の時計が指していた時刻は五時だった。


 朝早くに起きすぎたな。俺はリビングにあるソファーに座って、どうやって暇を潰そうか考える。まだ眠いが、人の家のソファーに寝転がるのは気が引ける。


 寝転がっている所をアリナに見られるのは問題ない。無い事は無いけどほぼ無い。だが、アリナ以外の家の人に見つかればかなり不味い。また通報されて捕まりかねない。会った時にきちんと挨拶できる状態にしておかなくてはいけない。


 そう思うがアリナ以外の住人に昨日会わなかったんだよな。夜勤で俺が起きている間に帰ってこなかったのかもしれない。そうなると片親の可能性が高い。片親だとしたら、かなり負担をかける事になってしまう。申し訳ないな。


 共働きの可能性はあるが両親揃って夜勤というのは少し考えにくいような気がする。もし、そうならばアリナはよほど両親から信頼されているのだろうな。


 それはともかく、この家の経済状況は俺を養えるくらいに良いのか?なら少しは安心できるがカツカツの状態だとしたら急いで働き口を探さなくてはいけない。


 カツカツじゃなくても働き口は探さなくてはいけない事には変わり無いか。アリナに迷惑はかけていられない。


 俺は家にいる人数を確認するために俺は玄関に行って靴の数を数える。玄関に置いてあるのは俺とアリナの靴のみ。


 申し訳ありませんが、調べさせていただきます。


 俺は玄関にある棚も調べる。中には冬用の靴と思われるものが二足あるだけだ。これはアリナは一人暮らしの可能性大。親の単身赴任だとしても子供を一人にして置いていくだろうか。アリナは子供と言える年齢からは脱しつつある気はするが、一人にはしないはず。


 俺が玄関で考え事をしていると階段で足音がした。俺は急いで玄関から離れて、リビングに入りリビングのドアをそっと閉める。自分の家の玄関の棚を漁られていていい気はしないだろう。これで通報でもされたら不味すぎる。


 俺はソファーに座って何事も無かったかのように天井を見つめる。アリナを待っているとリビングのドアが開いた。


「おはよう」


「おはよう、ソウヤ。朝ご飯を作ってくるからちょっと待ってて」


 アリナは一人暮らしなのか聞きたいが聞けない。可能性は低いが親が単身赴任をしていているなら問題なく話のネタにできるが、もし違った場合大変な事になる。


 例えば、親が亡くなったとか親に捨てられたとかだとアリナのトラウマを掘り返す事になりかねない。


 人の傷口に塩が付いた手を突っ込むような真似はできない。少しずつやんわりと聞いていって知っていくかアリナの行動から読み取っていくか。後者が望ましいが俺にそんな技術があるとは思えない。


 俺がアリナに何も言えないままでいると、アリナはキッチンに消えて、俺は全身の力を抜く。


 靴が少なすぎないかとやんわり聞こうかと思ったのだが、それだと靴の数を確認したのがバレる。


 よく考えると俺は少女が一人暮らししている家の中で気絶していたのか。そんなの即牢屋だろ。状況的にはアリナを狙って侵入したが、馬鹿やって気絶したように見える。俺があの警官と同じ立場にいたら間違いなく俺を牢屋に入れるだろう。だというのに同じ家に住まわせる何て事は絶対にできない。


 自分が如何にヤバイ状況にあったのか考えている間にアリナが料理をテーブルに並べ始めた。俺はソファーから椅子に移動してアリナを待つ。こういう時の作法が分からないため待つしかない。テーブルにはサラダとスクランブルエッグ、焼けたパンが並んでアリナも椅子に座った。


 なのだが、アリナは中々食べ始めない。どうしたのだろうか。このまま待っていたら料理が冷めてしまうのに。


「食べないの?」


「アリナが食べるのを待っていたんだけど」


「私もそうなんだけど」


 お互いに相手の事を待っていたようだ。たぶん作法的にはアリナが食べ始めるのを待つべきだ。だが、俺が食べなくてはアリナは食べてくれない。


 作法というのは相手を不快にさせないためにあるもの。今は先に食べるべきか。どうしよう。


「それじゃあ同時に食べ始めない?」


「そうするか」


 かなり状況に合ったいい方法を提示されたから飛び付かざるをえない。


 俺たちは軽く合図をして同時に食べ始めた。


「今日は何か予定あるのか?」


 かなりの言葉足らずだな。俺の予定を聞いたつもりがアリナを遊びに誘っているようだ。


「私は学校があるよ。ソウヤは…後で昨日の警官さんが来るからその人の指示を聞いて動いて」


「分かった、ありがとう」


 それからは余り会話が続かなくて静かに食事を取った。食事はかなりの美味しさで静かであったお陰で味に集中して食べられた。スクランブルエッグだからと思って甘く見ていた。ここまでスクランブルエッグは美味しくなるのかと目が飛び出そうだ。


 俺は味わいながらも早く次を食べたいという欲求に駆られて、結構早くに食べ終わった。もう少しアリナと話して親睦を深めたかったなと思っているから、次からはもう少し頑張ろう。


「ごちそうさま。美味しかった」


「ならよかったよ」


 俺は食器をシンクに置いて、よく手を洗ってからソファーに座った。近いうちに俺が皿洗いをしよう。料理に関してはここの料理の感じとかを見極めてから代わりに作らせてもらうのがいいだろう。この地域ならではの習わしみたいなので食べられない食材みたいのがあるといけないからな。


 今後どうすればいいのかというのを考えているとインターホンが鳴った。


「アリナ、インターホンが鳴ったぞ」


「ソウヤ出て」


「了解」


 俺は玄関に行って、念のためにドアロックをかけてからドアを開けた。


「お待たせしました」


「これから警察署に行くぞ」


「他にも何かやってしまいましたか?」


 俺の血の気が引いているのが感覚でよく分かる。


「何もしていない。今のお前は戸籍が無いも同然だから仮の戸籍を取りに行くんだ」


 そんな便利な制度があるんだな。嘘を吐けば簡単に戸籍が手に入る。だというのにこの仕組みがあるという事は機械(まほう)が結構信頼されているという事なのか。


「それじゃあ、行くぞ」


「アリナに声をかけてきますね」


「分かった」


 俺はドアを閉じて、キッチンに向かう。


「行ってくる」


「いってらっしゃい」


「いってきます」


 俺は玄関に戻ってドアロックを忘れずに外してからドアを開けた。


「お待たせしました」


「行くぞ」


「はい」


 それから俺はおっさんに連れられて警察署まで来た。それからおっさんに警察署内の一室に通され、中には警官が二人いたが、おっさんは入ってこなかった。


「そこの椅子に座ってください」


「はい」


 俺は警官が指を指した椅子に座る。


「それでは質問を始めますので嘘偽りなく答えてください」


「はい」


 名前や住所といった昨日と同じような事を聞かれて質問は終わった。


「これで終わりです。ご協力ありがとうございました」


 俺が警官たちに礼をしてから部屋を出るとおっさんが立っていた。


「待っていてくれたんですか?」


「ああ、お前は重要監視処分だからしばらくは、誰かが見張っていなきゃいけないんだよ。これからアリナが帰るまでは図書館にいてもらう」


「分かりました」


 おっさんが待っていた事にかなりの驚きを覚えたが仕方なく待っていたようだ。無駄に驚いた。


 俺はおっさんに連れられて、警察署を出て住宅街を歩き始めた。家はどれも同じような感じの家が続いていて、余り目移りしなかったが道の途中にある店にはかなり心引かれた。


 ここの食べ物とか文化とかを知るためにも見ていきたい気持ちはあったが、おっさんが気にせずに歩いていくため前を通る少しの時間しか見れなかった。


 これから図書館で学べると思えば問題ない気もするが、やはり実地調査は必須だろう。図書館には雑誌は置いていないだろうから現在の事を知る術は少ない。だから店を見ておきたかったが、おっさんに迷惑はかけられないと思って諦める。


 それから結構な距離を歩いて、図書館らしき場所にたどり着いた。


「着いたぞ」


「色々とありがとうございました」


「仕事だからな。家主とは仲良くしろよ」


「はい」


 家主とは誰ですか?仮にアリナの父親が家主だとすると家主は四十代から五十代くらいといった所か。その場合は仲良くしろよではなく、失礼の無いようにしろよだよな。


 俺と仲良くできる年齢の人が家主という事になる。となるとアリナが家主。ならアリナの両親は今はいない。昨日はどうかと思ったがヒントを与えてくれた。おっさんには感謝だな。


 俺はおっさんが見えなくなってから図書館の中に入る。図書館の中はかなり広いが、数人の事務員がいるだけで人はほとんどいない。アリナが学校があると言っていたから今は平日の昼間。人がいないのは当然か。


 俺は取り合えずどんなジャンルの本があるのか見るために図書館をふらふらと歩いてみる。


 ジャンルは結構豊富にあるのを確認できたため、まわった時に気になった本から読んでいく事にした。童話や伝説、文学系の本を読んだり料理本を読んでこの地域の料理を知ったりと結構知識を手に入れられた。


 他に何を読もうか。やっぱり気になるのは魔法だな。魔法について書いてある本を見つけてくるか。


 探せばタイトルに魔法が入っている本は簡単に見つかって中身を見てみたが、魔法陣や詩、魔法効果について書いてある本ばかりで基本知識を得られない。


 そんな中、『魔法について』という分厚い本が本棚の高い位置にあるのを見つけた。如何にもな名前に飛びついて取りだそうとするが高くて難しい。


 それでも何とか本を滑らせて、本棚から取り出したが想像以上の重さで落としそうになった。俺は全身に力を込めて何とか足元の上で耐えきった。落としていたら骨折していたかもしれない。


 重い


 俺は慎重にバランスを整えながら持ち運べる状態にしようと俺が四苦八苦しているとアナウンスが鳴った。


『間もなく閉館の時間です。退館の準備を始めてください』


 無慈悲。この三文字に尽きる。


 俺はゆっくりと本を元の場所に戻して、すぐに図書館から出ていく。荷物を持ってきていなかったから楽でいい。


 どうやって帰ろうか。どうすれば帰られるのだろうか。道忘れた。


 最初の方向は覚えている。一個目の曲がり角も覚えている。二個目の曲がり角から自信が無い。道を間違えて進む方が迷子だ。誰か近くにいないものか。


 俺は周囲を見渡してみる。人の気配が無い。重要観察処分とはいえ俺に人員を割けないから公共施設に残されたのだろう。俺を助けてくれる人がいない。


 俺は”重要”観察処分だから実は常に警察に見張られているとかありえるかな。人の気配を感じられないのはその人たちは監視のプロで俺に気づかれないように上手い事隠れている可能性は存在するだろ。


 ないか。


 誰かが見つけてくれるまで待つしかないか。諦めよう。明日までには誰かが通ってくれれば警察署に案内してもらって、警官のおっさんにアリナを呼んでもらうか家に案内してもらおう。


 それがいい。


 俺は図書館の塀によりかかって長い夜が終わるのを待っていると丁度日付を越えた頃くらいに道の奥から光の玉が近づいてきた。


 こんな時間に人が来ても警官のおっさんは警察署にいないだろ。警察署まで案内してもらったら、次は警察署の前で待機か。


 光の玉は真っ直ぐ俺に近づいてきて次第に光源に近い人の姿が見えてきた。警官のおっさんと同じ服装。警察だな。


「大丈夫ですか?」


「はい」


「これから家まで送り届けますからね」


「はい」


 こんな畏まった人に話しかけられると上手く話せない。俺は家に帰るまでの道中で警官に話しかけられる事が数度あったが、はい、のみで返した。


 店に気を取られて俺が方向音痴なのを忘れていた。方向音痴な理由の一つとして俺が極端に風景を記憶するのが苦手というのが挙げられるだろう。他の理由は思いつかない。


 警官に家まで送り届けてもらい家に帰るとアリナが晩ご飯を用意してくれていて、晩ご飯をかなりの速度で完食した。結構お腹が空いていたのだ。


 晩ご飯が食べ終わってからは風呂に入ってアリナが用意してくれた服を着て、部屋に入ると布団が引いてあった。アリナが気づいて用意してくれたようだ。


 俺は布団のありがたさを痛感しながら眠りについた。

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