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異端者の吸収  作者: 寫人故事
2-1章 異世界での生活
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出会い

 突然白い床が現れる。


 俺はそのまま落ちるものだと思って反射的に床に向かって手を伸ばしたが手は一向に付かない。むしろどんどん離れて行き俺の頭に強い衝撃が走った。

 ――――――――

 重たい瞼を開けてみれば灰色の天井がある。


 天井だけではない、一面が灰色なのだ。しかし灰色じゃない一ヵ所には檻があり、中には四十代ぐらいのおっさんがいる。


 どういう状況だ?おっさんはシワ一つない綺麗なワイシャツの上にブレザーを着て整った身だしなみをしているのに牢屋の中にいるという不思議な状況だ。


「目を覚ましたか」


「は、はい」


 俺はびっくりしながら何とか答えた。


 言語は日本語ではないのは確かだが、聞き取れるし返答もできる。俺は天才になったのだろうか?そんなわけないか。


「意識もはっきりしているようだな。では質問を始めよう」


 質問?何か聞かれるようなことでもあるだろうか?


「何故君はあの場所にいたのかね?」


 質問の意味をよく理解できない。あの場所といわれても俺は自宅にいたしな。自宅と答えればいいのか?だが、そんな事を聞くはずがないよな。


 あの場所がどこなのか確認するのかが先か。


「あの場所とはどこですか?」


「何を言っているんだ。まだ意識がはっきりしていないのか?それなら質問を変えよう。名前、年齢、住所を話せ」


 今度は個人情報か、名前は黒木蒼也…いや、ようやく働いてきた頭で状況を整理すると、牢屋に入っているのは俺だ。


 こいつらが誘拐犯とかだと個人情報が漏れるのはまずいのか?知らない言語だし海外の人間を相手にしているとしよう。誘拐犯だろうと別に俺には特に意味のない話だろう。


 俺はもう一度辺りをよく見渡す。そうしてみれば、牢屋に入っているのは俺の方ではないか。


「どうした?こちらも思い出せないのか?」


「いえ、名前はソウヤ、年齢は十五歳。札幌に住んでいます」


「サッポロ?聞かない地名だな」


 質問をしてきている人は手元にある紙に書きながら疑問を投げ掛けてくる。


 札幌は昔オリンピックをやったし割と有名だと思っていたがそうでも無いみたいだな。もしかしたら説明したら思い出すかもしれないからしてみよう、地元が知られていないのはショックだからな。


「日本の北海道の地名です」


「聞いたことがないな」


 日本まで知らないとはここは余程の僻地なのか?


「ここはどこですか?」


「ここはスカマス第ゼロ段だ。嘘を吐いていないのは魔法で分かっている。やはり記憶に異常があるか」


 魔法?このおっさんは厨二病全開なのか?スカマス第ゼロ段も分からないし。相手の年齢を考えると少し危ない人かもしれない。


「スカマスは世界五大大国の内の一つだ」


 余計分からなくなった。世界五大大国が一切分からない。五大大国と言われるような所と国交を結んでいないわけが無いとは思うのだがな。


 もう諦めて現状の理解に努めてここから脱出しなければ。


「何で自分は牢屋の中にいるんですか?」


「お前がある少女の家に不法侵入をしたとして現行犯逮捕されたんだ」


 現行犯は駄目だ、もう無理だ。それよりこのおっさん警察だったのか。


「少女には謝っておいてください」


「その少女はお前と同じ年だ。自分で謝りに行け。捕まえたはいいが記憶もないしどうしようか」


 どうしようも何もおっさんは警察官であって裁判官ではないだろう。


「警官が処遇を決められるんですか?」


「そうなんだよ。この国に裁判所は一ヵ所しかなくてな、そうなると細かい犯罪を裁くのはめんどくさくなって警官に任されたんだ」


 上の怠慢で押し付けられるとは大変だな。それよりも問題なのは警察が人を裁く力を持っているという事だ。これでは警察は軽犯罪なら冤罪だろうと裁く事ができるようになってしまう。嫌いな奴に嫌がらせし放題だ。


 それができない制度があるのか、よっぽど信頼されているのか。


「記憶喪失なのが魔法で確認できたため重要観察処分にしよう」


「魔法って何ですか?」


 そう聞くと警官は近くから機械を取り出して見せてくれた。


「この中に魔石が入っていて嘘かどうかを分かることが出来るんだ」


 機械ですよ、それは。ちょっと期待した俺が馬鹿だった、口には出さないけど。


 必死に言いたい事を飲み込んでいると警官は牢屋の鍵を開けてドアも開けてくれた。


「もうすぐ署を閉めるんだ。早く出てくれ」


 出てくれと言われてもこの辺の土地勘は無いですし生きていけない。


 俺は少しの間警官の顔を見つめてしまった。


「これからの事は問題ないから早く出てくれ」


 そう急かされれば出なければいけないか。俺は渋々牢屋から出て歩きだした警官についていく。


「入り口に部屋を貸してくれる人がいるからその人についていけ」


 そういう役割の人がいるのかな?雨風が凌げる場所があるのはいいな。


 入り口まで案内されると入り口の近くに、長い綺麗な黒髪を持った人が立っている。俺たちの足音に気づいたのか入り口に立っている人は振り向いた。


 美しい黒い眼、整った顔立ち。美しい女性だった。


 あんなにも美人な人がこの世に存在しているんだな。


「あの人がお前に部屋を貸してくれる人だ」


 年齢は俺と同じぐらいか?そんな人の部屋を借りる?あり得ない、あり得ない。俺は一軒家の部屋を借りると勘違いしてしまっていたようだ。


 こういう時の部屋を借りるはアパートとかマンションの部屋だよな。びっくりした。あの人は俺と同じ年くらいなのにアパートかマンションのオーナーというのは凄いな。


 何はともあれこれから接する機会が結構ある相手だろう。人と接するのに大事なのは挨拶だよな。


 俺は少女の前まで行く。


「これからお願いします」


 そう言って頭を下げる。


「はい。よろしくお願いします」


 少女も頭を下げて挨拶を交わした後に少女は警官の方に寄っていった。


「あの、ちょっといいですか?」


 少女がそう警官に言って、二人は俺を置いて少し離れた場所まで移動する。


 態々離れたのについていく程、俺はコミュ症じゃないのでそのまま待機して十分ぐらい経過したころに二人は戻ってきた。


 その後は二人にこれから部屋を貸してくれることについて説明されて、一軒家の部屋の一つを借りるということでまとまったようだ。


 今度は俺が警官に近づく。


「すいません。あの少女はどういった方ですか?」


 自分の疑問を晴らす最大の一手。


「自分で聞いてくれ」


 それはないですよ、本気なわけないですよね。流石に名前とかの最低限の情報がなければやっていけない。だが、少し待っても警官の口は開かないことから俺は察してしまった。


「もう警察署の大半は閉めるんだ。常駐用の場所しか開かないからとっと帰ってくれ」


 そんなことを言われても俺はどうすればいいんだ。少女についていけばいいのか?そうなると少女の動き待ちになる。


「それじゃあ、行こっか」


「あ、はい」


 少女が話しかけてくれて、俺は慌てて返事をした。少女は声をかけた後に歩き始めて、俺はついていく。


 少女は道中で俺の事を気にかけてくれてなのか時々視線を送ってくるが、俺は少女への質問を浮かべながら話しかけるタイミングを探っている。すると少女はちゃんと俺の方を向いて口を開いた。


「私はアリナ。年齢は十五歳。よろしくね」


「ソウヤです。年齢は、十五歳です。よろしくお願いします」


 しっかり丁寧に挨拶したつもり。


「私、タメ口で話すからソウヤもタメ口でお願い」


「はい。じゃなくて分かった」


 流れのままお互いにタメ口で話すことになった。それ以降は会話は無く静かな時間が過ぎていたが、アリナがある家の前で立ち止まる。


「ここが私の家だよ」


 そう言って通り沿いにある白い外壁のお洒落な家を指を指した。


 アリナはすぐに敷地内に入っていって、家のドアの鍵を開けて入っていく。俺もアリナについていって家に入ったのだが、玄関にある物の量は必要最低限の物しか置いていない。


 ちょっと驚きながらも靴は綺麗に揃えて置いて、リビングに入っていく。リビングにはソファーとテーブルぐらいしか物が無いところから察するにアリナかアリナの家族はミニマリストだな。


 郷に入っては郷に従えと言うし、物を増やしてはいけないか。俺も物を増やしていくタイプでは無いし、問題はなさそう。


「俺はどの部屋を借りるんだ?」


「それはね、二階にある部屋の一つだよ」


 そう言ってアリナは俺を二階に案内して一つの部屋に通された。部屋の広さは普通なのだが、物が何一つも無く異様な光景に見える。


「ここがソウヤの部屋。ソウヤはこの辺で倒れていたよ」


 そう言って部屋の真ん中ぐらいを指差すが驚愕だ。


「なら俺が不法侵入した家はアリナの家なのか?」


「うん、そうだよ」


「本当に申し訳なかった。自分でも何でここにいたのか分からないが、きっと不快な思いをさせただろう。申し訳ない」


 俺は頭を下げながら誠心誠意謝る。


「気にしないで、わざとじゃないとは思っていたから。頭上げて」


 俺は頭を上げてアリナの顔を見たが、余りにも優しい顔をしていて神か仏なのかと思った。


「それじゃあ、この部屋の紹介終わり。次はどこにしようかな」


 部屋を軽く紹介された後すぐに二階の別の部屋のドアの前に移動してきた。


「ここは私の部屋だから入らないでね」


「了解。絶対入らない」


「その方がいいと思う」


 俺はすでに不法侵入をしているのでこれ以上罪を重ねては絶対にいけない。


 その後は一階に戻って部屋の間取りを説明されて日が沈んだ。


 それから、アリナに手料理を振る舞ってもらったのだが、アリナの出してくれた料理は絶品で、この料理を毎日食べられることに深く感動しながら、お風呂に入って、今は部屋にいる。


 夜になったから寝るためにこの部屋に来たのだが、何も無いので寝る道具もない。金は持っていないし、そもそも持っていても買いにいくことも土地勘の無い俺には無理だしな、どうしよう。


 少し悩んだ俺は諦めて床に寝転んだ。


 次の日には体が痛むかもしれないが、今は寝ることの方が大事だし体が痛むことは考えないようにしよう。俺はすぐに眠りについて夜を床で寝て過ごした。

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