オークの脅威
「ウォォォォォオォォォオォォォォォォォォォォ」
起き上がったオークは咆哮を上げる。
その咆哮は鼓膜を破れんばかりの大きさで軽く眩暈を起こすのだが、眩暈を起こしている間にもオークは短い足に見合はず機敏な動きを見せ距離をとったアーサーに突進している。
アーサーは即座に盾を構えたが、オークの速度とデカイ体の質量に負けて後ろに吹き飛ばされた。
オークは追い討ちをかけるために動き出し始める。
アーサーは吹き飛ばされた体勢のまま盾を構えて追撃に備えている。
俺は急いで棍を持って間に入るために動くが、先にオークとアーサーの盾が衝突する。
オークがアーサーを押し潰そうと体重を掛けようとしているところに、砕滅棍に魔力を込めて一点集中の一撃《滅》ではなく広範囲攻撃の《砕》を発動して、オークの体を弾く。
《滅》は魔力を一点に込めて当てた場所を消し飛ばす術式だが、オークの皮膚には通らなかった。
魔力耐性が高い皮膚なんだろう。だが、《砕》は広範囲に魔力を使って物理攻撃に補正をかけるため、オークの体を弾けたわけだ。
オーク戦では《砕》を使うしかない。
《砕》が通用する事を確認できたが、できるのは弾くのみ。
致命傷に成りにくい技だからアーサーのサポートにまわるしかない。
「アーサー、サポートするからあいつを斬れるか?」
「難しいが、不可能ではない」
自信がない感じでは困るのだがな。アーサーに託すしかない自分の立場を考えると文句はいえない。
アーサーはとっくに態勢を立て直しており、オークもさっきの俺の弾きで敵視しているようだ。
すぐに攻撃はしてこなくなった。
「行くぞ」
俺の声と同時に二人で駆け出す。
今度はオークが俺たちを迎え撃つ形になった。オークが攻撃してこない今のうちに決めておきたい。
最初に俺が接近しオークの足を狙って棍を振るが、オークも俺めがけて殴りかかってくる。それに気づいた俺は振るのをやめ足に当てようとした方と逆の先端を腕にあてようとするが、オークの方が速い。
だがアリナが石を投げ、その石がオークの目に突き刺さる。
それによってよろけたオークの足も弾くことでオークを転ばせる。
「【炎よ、全てを焼き斬る剣となれ】《炎剣》」
アーサーが詠唱を唱え、魔法を使うと炎が剣の周りに集まって炎は剣の形となり、もとの剣より一回り大きくなった。
その炎の剣を転んだオークの首めがけて振り下ろす。
降り下ろされた剣は首を半分まで切ったところで炎が弱まった。
首が半分切られてもなお、オークは動きだそうとする。
完全に首を斬るしかないと考え、全力で《砕》を発動しながら棍をアーサーの剣に当てた。
するとアーサーの剣は一気に加速しオークの首を跳ね飛ばす。
「良かったー」
アーサーが安堵の声を洩らし気が抜ける。
「アリナの石タイミング完璧だったよ」
「いいタイミングを待っていたからね」
三人で勝利を祝っていたはずが急に脇腹に衝撃が走りアリナとアーサーが横に流れていく。
気づいた時には壁に衝突していた。
痛い痛い痛い痛い痛い
頭の壁に衝突したところを押さえると生暖かい液体があるように思え、脇腹は少し変形している気がする。
頭をぶつけた衝撃でぼんやりした頭で俺が立っていたところを見ると、頭がついているオークがアーサーと戦っている。別の個体が現れたように思えたが首に血の線ができており血が通った跡もある。
アーサー1人では前衛はきついはずだ。
助けに行くか?首を切断しても死ななかったんだぞ。俺が助けにいったところで変わらないのではないか?
それなら俺は逃げて助けを呼びに行った方がいいのでは?だが、その間にアーサーたちが生きていられる保証はない。
俺だけが生き残るのは嫌だ。俺だけが生きるぐらいなら三人とも死ぬ。
アーサーたちを助けに行かなくては
そう思っていても、痛む体は言うことを聞かず何度立とうとしても座り込んでしまう。
今動けなかったらいつ動く。
近くに転がっていた棍を杖がわりにして、壁に手をつきながら何とか立ち上がる。
立ち上がった瞬間にすぐ横の壁に何かがぶつかり土ぼこりが舞った。
土ぼこりが晴れ、周りが見えるようになるとそこにはアーサーがいた。
「だ、大丈夫かい?ソウヤ」
聞きたいのは俺の方だ。
「厳しい…な、撤退するべきだ」
まだ体が痛み、機敏には動けない。
「【背負う道は厳しくとも代わりに】《代行》」
俺の体の痛みは嘘だったかのように消え去る。
「アリナを任せたよ、ソウヤ。僕は暫くは動けそうもない。だけど、動けるようになったらすぐにあいつを足止めにするから」
「逃げるべきはアーサーだ。逃げる時間は稼ぐから逃げる準備を」
回復魔法とは明らかに違う治癒力。
アーサー自身に掛けないということは制限があり、詠唱からしてアーサーにとって余り良いものではない。
急いで医者に見せた方がいいな。
「アリナ、アーサーを連れて逃げろ」
避けに徹していたアリナに呼びかける。
「ソウヤは?」
「時間を稼ぐ」
アリナとオークの間に入り戦いを引き継ぐ。
「任せた」
アリナは後ろに下がっていったようだ。
アリナから戦いを引き継げたが防御に徹する。時間稼ぎだからという理由もあるが、単純にオークの攻撃が早く反撃の隙がない。
防御しているとオークがこちらから視線をそらして俺の後方を見る。逃げるアリナとアーサーを見たのだろう。
俺は一気に後ろに下がり出口まで急ぐが、オークの方から巨大な火球が近づいてくる。
魔法!?
魔物まで使えるのかよ。これは死んだ、焼死だだけど、まだ死にたくない。
こんなに大変だとは思わなかった、どうせ無傷で帰れると思っていた。これなら最初から来なければ良かった。
死ぬ覚悟を決めようとしていたが相反する気持ちばかりが溢れてくる。
しかし、火球が俺に届くことはなかった。何で?と思ったが思い当たる節があった。
[吸収体]
ついでに現状を打破できないのか吸収体。
『所持主の要望により解放
スキル[魂]を獲得しますか?』
何もない空間にメッセージだけが浮かんでおり、網膜に貼り付いたかのようだ。
当然獲得するを選ぶ。現状を打破する可能性があるのはこれしかない。
『[魂]を獲得しました』
何かを獲得できたようだ。突然のことで逆に冷静になれた。
生きたいなら相手を殺すしかない弱肉強食の世界、迷宮はそういう所、そうだよなオーク。
オークは追撃しようと走り出していた。
何かあいつを殺せる力を俺にくれ[魂]。
[魂]に願うと視界がぶれ世界が一気に黒に染まった。
黒い世界で見えたのは光っている球体一つのみ。
俺はそれに手を伸ばすが届かない。
さらに手を伸ばそうとしたとき現実に引き戻された。
顔に強い衝撃が来て吹き飛ばされる。どうやら顔を殴られたようだ。
鼻血が垂れてきているが気にしてる余裕はない。
オークが迫ってきている。
オークの腹の辺り五ヵ所から出血しているようだ。その五ヵ所がさっきの世界で俺の指があった場所な気がする。大きさが俺の指の大きさと大体一緒だし、気づいたら俺の指にも血がついている。
そして最もそれを証明したのはオークの攻撃を回避してからだ。
俺がオークに傷を負わせる方法が今できた。問題は向こうの世界にいるときに俺の視界がゼロになることである。
だがスキルはある程度願いを聞いてくれる。
視界を五十パーセントだけあちらの世界にしてもう一度発動しろ。
再び黒に染まって行くが完全には染まらず暗くなったような状態で球体が見える。
もう一度俺は手を伸ばし掴もうとすると、俺の指の第一関節までだけがオークの体に入っているのが見えた。つまり、向こうの世界に行けているのは視界と指先のみ。
そのため同じ世界線上にある第一関節より手前はオークと重なることができない。指が重なっている状態で重なっている指が戻ってくる時に指が入るサイズまでオークの体が裂け、そこに俺の指が戻ってくる。




