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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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亡くなっているはずの人間

 アリナのお母さんは死んだと聞いている。なのに何で目の前に。俺は自分の手をつねって夢ではないかを確認する。夢ではないようだが、まだ現状が信じられない。


「どうしたんですか?」


「アリナからは亡くなったと聞いていたんですが」


「アリナにはそう伝わっていたようですね。私が病気になってから勇者家がどうしてもアリナを捨てようとしだしたので反対し続けていたら、こっちに飛ばされたんですよ。それでアリナにはそう伝えたのかもしれないですね」


 病気になった奥さんを遠くに飛ばすか?子供を捨てる事でさえおかしいというのに。どこかで一回勇者家の当主を殴る事にするか。


「ソウヤ君の事はアリナからよく聞いています。アリナとアーサーと仲良くなっていただきありがとうございます。こんな体でなければ、ちゃんとお礼をしたのですが、このチューブに繋げられた体ではベッドの上で暮らすしかないんですよね」


「体調大丈夫ですか?無理のなさらないように」


「聞いていた通りに優しいんですね。無理に体を動かさなければ大丈夫ですので、問題ないですよ」


「聞いていた通りにというのはアリナから送られてくる手紙を読んでという事ですか?」


 手紙を集めている人がこの人なら、全てのアリナの手紙がここにある可能性がある。


「そうです。昔から送ってくれるんですよ。まさか読まれるとは思っていないんでしょうけどね」


 細かい仕草がアリナに似ている気がするが、具体的にと聞かれても答えられない。ただ話口調とかが似ている気がする。


「あなたが家に来たという事を報告してくれた手紙からは手紙の内容が楽しそうで嬉しかった。娘が楽しそうに暮らしているのが伝わるだけで嬉しくなれるっていうのは親の特権なんでしょうね」


 アリナの母親がいい人で良かった。アリナの人格を作ったのは間違いなくこの人だ。


「アリナは手紙を送ってきてくれるからいいんですが、アーサーは送ってきてくれないんですよ」


「アーサーなら週一くらいで送ってきそう何ですが、どうしたんでしょうか?」


「そうですよね。だから、アーサーも私が死んだと聞かされているんじゃないでしょうか」


「それならアーサーは一通も送ってこなさそうですね」


 アーサーの事でも分かり合えるとは。子供と別れて結構経つはずだが、子供の事をよく覚えている。


「最近のアーサーはどうなんですか?」


「勇者として活動していると聞きますが、会っていないんで分からないです。最後にあったのは序列戦の時ですね」


「その時の事を詳しく教えてください」


「あの時はアーサーはVIP対応をしなくてはいけないから、お高い部屋にアーサーは泊まっていたんですよ。なのでアーサーの部屋に二人で集まって、ジュースを飲みました。アーサーはVIPの対応を凄く嫌そうにしながらも頑張っていましたよ」


 それを聞いてエルナさんは笑い始めた。


「アーサーらしいですね。ちゃんとお酒は飲まずにジュースな所とか、VIPの対応を嫌がりながらも頑張る所とか」


「本当にそうですよね」


「ええ。本当に。アリナとアーサーが元気そうで良かったです」


 これが普通の親だよな。子供の事を心配しているのが普通だよな。


「急に踏み込んだ話をして申し訳ないんですが、どうしてアリナは捨てられて、アーサーは勇者家に嫌われているんですか?」


「アリナが捨てられた理由は本人の口から聞いてください。本人が話していない事を私が話すわけにはいきません。アーサーが勇者家に嫌われているのは私が育てたから勇者家とは考え方が合わないのでしょう。申し訳ない事をしました……」


「アーサーはあなたに育てられて良かったと思っていると思いますよ。勇者として人々を救えるようになる事を誇りに思っていましたから」


 人を救うというのはエルナさんの育てのお陰だろう。勇者家の教えだと自分たちの名誉のためとかになりそうだ。


「そうですか。なら良かったです。本当に」


 アリナが母親を好きになるのがよく分かる良い母親だな。アリナとアーサーの母親がこの人で良かった。両親ともあの父親のような性格をしていたら地獄だったろう。


「とても失礼な質問をしようと思っているのですが、させてください。何で結婚したんですか?」


 アリナとアーサーを生んでくれた事は感謝している。だが、あいつと結婚しなければこの人がもっと幸せに暮らせたんじゃないだろうか。


「家が決めた結婚です。でも私は後悔していませんよ。だってアリナとアーサーっていう可愛い子供に恵まれましたから。他の兄弟と全然関われていない事が心残りですが」


 目頭が熱くなってしまった。何とか抑えて、平然としているかのように取り繕う。エルナさんは人として素晴らしいな。


「そうですか。アリナとアーサーに会いたいって思う事は無いんですか?今は連れてくる事はできませんが、いつか連れてきますよ」


「会いたいですが、死んだ人間が今更会えませんよ。アーサーとは会う必要は無いでしょうし、アリナは今が大事な時期なので会う訳にはいけません。あなたがアリナと結婚するってなったら一緒に来てください」


 前までは少しの希望が見えていたが、今はもう何も見えない。アリナと結婚何て今の俺にとっては夢物語だ。


「そういえば今は別居しているんでしたね」


 別居という言い方が適切なのかどうか気になる所ではある。


「アリナはあなたが嫌いになった訳ではありませんので安心してください。手紙にはあなたに会いたいって書いてありますし。ただ、今は事情があって誰かに会うわけにはいかないのを分かってあげてください」


 この人はアリナと同じように人を包み込むような何かがある。自然とこの人の言葉は信じられる。気づいたら、俺の頬に涙が伝っていた。


「随分思い詰めていらっしゃったんですね。大丈夫ですよ。アリナは必ず戻ってきますから安心して待っていてください。アリナが帰ってきたら暖かく迎え入れてあげてください。お願いします」


 泣きそう。もう泣いているんだったな。頬を伝った涙以外は流していないから忘れていた。


「任せてください」


「質問を一つしてもいいですか?」


「何ですか?」


「アリナの事はどれくらい好きですか?」


 どれくらいか。表現が難しいな。


「誰よりも愛しています」


「私よりもですか?」


「当然です」


「当然ですか。そうですか。アリナはこんなにも思ってくれる人がいて幸せですね」


 俺がいる事でアリナの幸せに繋がっているなら良かった。


「羨ましいですね。恋をして、好きな人と結婚できる可能性があって。私は子供の頃から結婚相手が決まっていて恋をする事はできませんでしたから」


「誰にだって悩みはありますよね。スカマスの平民の人の多くは貴族は苦労知らずの嫌な奴だと思っていますが、悩み事が違うだけですよね」


「ええ。ですが、スカマスは制度によって市民の税金が高かったりで嫌われるのは納得できますよ」


 王族の税金は免除。貴族も少しあって、平民が普通にあると聞くが実際は平民が少し多いのだろうな。そういう理由もあって平民は王族と貴族を嫌っている。


「そういえばソウヤ君はいつ帰るんですか?」


「今日中には」


 元々二日だけ外出許可を取っていた。アリナの手紙を誰か持ち去られている何て思っていなかったからな。運よく今日現れた訳だが今日現れなかった時は本部に戻ってまた許可を取るつもりではあった。


「そうですか」


「また会いに来ますよ」


「こんな死にかけのおばさんの相手をしても良いことないですよ」


「アリナやアーサーの子供の頃の話を聞きたいので」


 今と変わらないのか母との死別を乗り越えて大きな変化があったのか。とても気になる。


「私は暇ですからいつでも来てください」


「こういう話をしている中で何ですが今日が終わるまでまだまだ時間がありますから、エルナさんの体に問題が無い間、話をしていたいですね」


「変わった方ですね」


「よく言われます」


 それから俺たちは結局日が暮れるまで語り合った。アリナやアーサーの幼少期。何故か俺は自分の幼少期を語ったりしていて、時間を忘れて話し込んでしまった。


「もう日が沈んでしまいますね」


「ええ。そろそろ帰らせていただきます」


 そう言うと、エルナさんはベッドの布団をどかして正座に座った。


「アリナとアーサーの事をこれからもよろしくお願いします」


 そういって土下座をし出した。チューブが目一杯伸びていたりして、病体に障りそうだ。


「横になってください。そんな事、こちらが頼みたいくらいですよ」


「ありがとうございます」


「またいつか会いましょう」


 俺は退室した。アリナのお母さんがいい人でよかった。そう心から安心できる。

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