手紙の行方
3-2章始まりです。
アリナがいなくなってから何ヵ月が経っただろうか。この前アリナの誕生日を迎えたから六ヶ月近くは経っているのだろうな。あれから任務が無い日は毎日師匠に鍛えられたが、成果を実感できていない。
師匠は任務を一日で終わらせてしまうため、俺に休みはなく、更に任務をするか特訓するかの二択しか存在していない。かなり体力的に厳しい生活ではあるが、何か集中しなければいけない事がある時間が多いため精神的には楽な方だ。ふとした時にアリナがいない事を思い出して辛くなる時間が少ないからな。
俺は毎日師匠の分のご飯を作って生活している。師匠の分を作っているのではなく、アリナの分を作っているのが食べてくれないため、いつも師匠が食べているだけだが。という事で今日も師匠が朝ご飯を食べに来たようだ。
「今日もお邪魔させてもらう」
「ええ。余りがあるので食べていってください」
「私の分は余りと表現されるのか。まあ、余りだろうと美味しいからありがたく頂く」
師匠は俺を気にかけてくれているようだ。アリナが側にいてくれない俺が変にならないようにしてくれているらしいが、この時だけはただ美味しい物を食べに来ているだけに見える。
朝ご飯を二人で食べ始めたが、師匠は矢鱈美味しそうに食べている。
「そういえば、しばらくの間外出するんで、ご飯は自分で何とかしてくださいね」
「そうなのか。どこに行くんだ」
「郵便局ですよ」
郵便局と言っても普通の郵便局とは少し違う。死んだ人宛に出された手紙をその郵便局に出すと、その死んだ人に届くと言われている郵便局だ。
こっちにいる知り合いは誰も死んでいないから俺が言っても出す相手はいないし、わざわざ直接行かなくても郵便で普通にここからでも出せる。なのに行く理由はアリナがそこに手紙を出しているからだ。
アリナが部屋を出ていってから暇な時間にアリナの部屋のドアを見張っていると、アリナは時々その郵便局に手紙を出している事が分かった。手紙の内容を出される前に読むと憚られるため読んではいないが、その郵便局に置いてある手紙は読んでもいいとの事で行く事にしたのだ。アリナが出ていった手がかりを知るために。
「それは残念だな。ソウヤの料理を食べられないなんて」
「少しは料理をしたらどうですか?」
「私が不器用なのを知っているだろ。料理は子供の頃に何度か作ってみたが悉く失敗した」
師匠は剣しか扱えない。剣を扱える事が不思議な程に不器用だ。何か一つの事に特化してしまうとこうなってしまうんだな、という感じがする。
「ならレストランで食べてください。最近品数が増えたらしいので」
「そうなのか。最近行っていないから知らなかった」
俺も行ってはいないのだが、この前レストランの人が宣伝しながら各階を回っていたから知っている。だというのに何故師匠は知らない。剣にしか興味がないとこうなってしまうんだな。
「師匠もアリナに会えないんですか?」
「会えないぞ。今は誰とも会っていないようだ。そのくらいソウヤなら知っているか」
誰とも会っていない事は知っている。それでも専属サポーターとしての仕事はしっかりとやってもらえているから助かっている。
「電話もですか?」
「流石に電話までは知らないが、恐らく電話もしていないだろう」
師匠は何か事情を知っていそうなのだが、聞いても答えてくれない。電話もしていない事が分かる時点で知っている確率がかなり高いのに頑なに教えてくれない。
「ソウヤが少しはまともな事が今回の事で分かった」
「まともじゃないと思っていたんですか?」
「その質問には答えないでおこう。ソウヤはアリナがいなくなってから努力をしだして帰ってきてもらおうと頑張っているが、アリナの部屋のドアを毎日見つめている。そこはまともじゃないと思うが、それ以上の事をしない辺り少しはまともなんだな」
アリナの部屋に突撃したりしないという事か。アリナが自分の部屋から出ていったのに俺がアリナの元に行くのはアリナがわざわざ出ていった意味を潰してしまうようでするつもりはない。そんな事を俺が考える事くらいアリナは分かっているはずだから、アリナはいつか自分から戻ってきてくれるはずだ。
「余りアリナの事ばかり考えすぎるなよ」
「気を付けます」
「ごちそうさまでした」
気づいたら師匠は食べ終わっていた。
「また今度な」
「ええ。また今度」
師匠が部屋から出ていったのを見送ってから自分の分の残りのご飯を急いで食べ終えて皿を急いで洗う。
洗い終えたらすぐに出掛ける支度をして部屋を出る。それから転移魔法陣のある部屋にまで行って転移した。
転移の感覚に少し慣れてきたがやっぱり気持ち悪い。それでもすぐに気持ち悪さは消えて周囲の景色が変わっている。
ここは神聖国家にある世界政府支部だ。神聖国家は国民の九割以上がプロタシア教の信者で国王がプロタシア教の教皇だ。プロタシア教はこの国で一番信者が多い宗教だが、俺は詳しくは知らない。
教皇が国王とか変だ。信仰の自由何て無いに等しい状況だろうし、国政が宗教に左右されてしまう。それでも成り立っているのは凄い。
俺は街の中を歩いていく。街に満ちている魔力がとても濃い。これは人の魔力のようで俺には吸収できない。この魔力は知っている気がする。いや、気のせいだな。俺は結構魔力を覚えるのは得意な方だというのにこの量の魔力の持ち主を忘れるわけがない。気のせいだ。
俺は魔力を気にせず郵便局に向かって歩いていく。迷わないように地図を持ってきたから大丈夫だ。迷う事なく街の外れにある郵便局にたどり着いた。
俺は郵便局に入る。中には棚が大量に並んでいて見ると色々な所に手紙がある。こういう時はアリナの魔力を探せばすぐに見つかるはずだ。それから物の数分で郵便局全体を探ってみたが数枚しか出てこなかった。
結構出していたはずなんだがな。俺は周囲を見渡して壁に封されていない手紙は読んでいいという張り紙を見て、手紙の封を確認するが当然どれもきちんと閉じられている。俺は一つだけある葉書の文章を読む。
『最近ようやく落ち着いてきました』
この一文しか書いていなかった。確かにこれだけなら葉書で十分だ。
葉書と手紙の宛先を確認すると、全てエルナ・ジークフリートになっている。これはアリナのお母さんの名前なのかもしれない。
結局分かった事はアリナのお母さんの名前がエルナかもしれないという事だけ。実質何も分かっていない。これは仕方ないから勇気出すか。
「すいません。手紙って持ち帰ってもいいんですか?」
郵便局にいる従業員に話しかける。従業員に話しかけるまで数分かかってしまったが、無事に聞く事ができた。
「宛先の方の元に届くならいいですよ」
「ここに届く手紙は全てあそこの棚にあるんですか?」
「ええ。一応は。古くなって物は場所を変えて別の場所に保管していますが、捨てたりはしていませんよ」
ならアリナの手紙の多くがここにないのはおかしい。
「定期的に手紙を持って帰る人はいますか?」
「ええ。いますよ。明日も来ると思います」
聞いていない事まで話してくれた。聞いていない事まで話してくれたのは、かなり助かるが、それを言うのはどうかと思う。
これはもう明日まで張り込みだな。念のため今から張り込みをして明日会えればかなり良し。張り込みする場所は郵便局の中でいいか。外で張り込みしていたら通報されそう。
俺はアリナの手紙を店の見やすい所にまとめて置いて、手紙の監視を始めた。
従業員の言う通り、アリナの手紙を持っていく人は今日は現れず、張り込みは次の日に持ち越しとなった。急いでホテルの部屋を取りに行って、部屋で寝てから朝一で郵便局に行って張り込みを再開した。朝一過ぎて行った時にはまだ開いていなかったが、開いてすぐに中に入って張り込みを始めたのだ。
それからすぐにアリナの手紙を取ってから、近くにある棚を確認する女性が現れた。その女性は棚に無いのを確認してから、郵便局を出ていった。俺は急いで後を追って話しかける。
「すいません」
「何でしょうか?」
「その手紙はどこに持っていくんですか?その手紙は友人が書いたものでして」
「あなたの名前は何ですか?」
怪しいから当然名前を聞くよな。
「ソウヤです」
「ソウヤさんですね。着いてきてください。会わせたい方がいます」
何で俺の名前がソウヤだと着いていってもいいんだ?サードだと分かったからという理由はおかしい。名前と顔が同時に新聞に載ったはずだから名前を聞くまでもなく分かってもらえる気がする。そうなると着いていってもいい理由は俺がサードだからではない。アリナの知り合いである事が分かっているからかもしれないな。
理由は分からないままかなりの距離を歩いて街の外れの廃病院の前まで来た。壁のいたる所に罅が入っていて、苔が生えている所もある。
「こちらです」
こんな幽霊が出そうな場所に連れてこられてもな。それでも仕方なく中に入っていく女性に着いていき、俺も中に入る。それから二階にある病室の一室の前で女性が立ち止まってドアをノックする。
「只今戻りました。例の方が来ていますがお通ししてもよろしいですか?」
「入ってください」
女性はドアを開けて中に通してくれる様子なので中に入る。
病室の中には一人の女性がベッドに座っていた。黒髪黒目でどこかアリナに似ているような気がする。なんだかアーサーにも似ているかもしれない。だが、確証はない。
というのも体は痩せ細っていて、体の色々な所がチューブに繋げられている。そんな女性がゆっくりと口を開く。
「あなたがソウヤ君ですね」
見た目に反する柔らかい声だった。
「はい」
「私はエルナ・ジークフリート。アリナの母親にあたる人間です」




