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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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己を見つめ直す

 うな重を食べてから俺たちは一緒に電車に乗って要塞都市の世界政府支部に行って、本部に戻ってきて数日が経っていた。


「ソウヤ、じゃあね」


 何事かと思って声のした方向を向くと大きなキャリーバッグを持ったアリナが立っていた。


「どこに行くんだ?」


「曲がり角にある部屋にお引っ越しするの」


 アリナは俺と顔を合わせてくれない。


「何で?俺は何かしたか?何か嫌な事があったなら直すから一緒にいてくれ」


 アリナは黙り込んでしまった。


 どうしたものか。俺としてはこれからもアリナと一緒に暮らしたい。引き留めたい所だが、アリナが決めた事を尊重したいしアリナは折れなさそうだ。どうしたものか。


「ソウヤは悪くないの。私の都合で少しソウヤと距離を置いて自分を見つめ直したいだけ」


「ここではできないのか?」


「うん」


 まだアリナは俺と顔を合わせてくれない。


「止めても聞かないだろう。元気でな」


「うん。サードのサポーターとしての仕事はしっかりやるけど、一緒には行けないから。ごめんね」


「アリナが決めた事を責めるつもりはない。気にするな」


「ありがとう」


 アリナは部屋を出ていった。


 どうしよう。どのくらいで戻ってくれるかな。一年?一ヶ月?一週間?一日?今?今はないか。戻ってきてもらうにはどうすれば。何かアリナに嫌われるような事をしたのかもしれない。俺がナメクジを倒せなかった事にがっかりされたのかもしれない。


 俺は部屋を飛び出して階段を上っていく。エレベーターを待っていられない。この建物無駄に長いからエレベータが来るのが遅い。俺は階段を目的の階まで上りきってすぐに走って部屋の扉を叩く。それから少しもしないうちにドアが開いた。


「来ると思っていた」


「俺の直せる駄目な所を教えてください」


「一旦落ち着いた方がいい。お茶を出すから中に入ってくれ」


「すいません」


 俺は師匠の部屋に入る。師匠はテキパキとした動作でお茶を出してくれた。すでにお茶ができていたようだ。


「アリナが部屋を出ていった原因はソウヤにはない。端的に言えばアリナが自分を見つめ直すためだ。ソウヤがどうしようともアリナが満足するまで帰ってくる事はない」


「何とかなりませんか?」


「ならない」


 そんなきっぱり言わなくても。


「直せる悪い所はどこですか?」


「諦めが悪いな。私はそういうのはよく分からない。私からするとソウヤは弱い。私が直すのに協力できるのはそれだけだ」


「直します」


「愛の力は偉大だな」


 師匠がぼそっとそう言った。今更衝動で動いた自分の行動が恥ずかしくなってきた。一番最初に浮かんだ事をよく考えもせずに十階分階段を上ってきてしまった。


「師匠はそういう相手いないんですか?」


「最近は剣に惚れてきてしまってな、自分でもヤバイと思っている」


「それはどうかと思いますよ」


 師匠は誰とも結婚しなさそうだ。剣さえあれば良い人だから結婚する必要がないのだろうな。


「修行しに行くか」


「行きましょう」


 俺たちは少し移動して訓練所まで来た。


 木刀を師匠に借りて木刀を持った師匠と対峙している。


「ソウヤに剣を教えて分かった事がある」


「何ですか?」


「私の教え方ではソウヤの剣の腕は上達しないという事だ」


 俺に配慮してそう言ってくれたのだろうが、意味は俺に剣の才能が無いという事だろう。剣の才能が俺には無いのは俺もよく分かっている。


「だから、ソウヤの魔力量を活かした戦い方を教える。その前に自分の実力を分かってもらおう」


 試合をするという事か。


「全力で来い!」


 俺は《式神降霊術》を発動して師匠に突っ込む。


「〈永劫〉」


 師匠は技名を言いながら剣を振った。すると剣が振られる直前に周りの景色の流れが急に遅くなる。


 師匠の剣を振る動作がよく見える。だが、俺の体は動かない。動かないというよりも体の動きが遅すぎると言った方が適切であろう。ここから何とか止まれたら師匠の剣の間合いに入らずに済む。


 俺は自分の体を止めようと魔力を操っていると周囲の景色が急に流れはじめて、気づいたら背中が壁に着いていた。


 まだ剣の間合いに入っていなかったはず。何で俺は吹き飛んだんだ?


「今の技は何ですか?どの属性にも所属していなさそうでしたけど」


 火水風雷土どれにも属していなさそうな名前だった。


「私が作った技だからな。属性を作るのだとしたら時だな」


 師匠はもうそこまで進んでいるのか。遠すぎる。


 鼻の中から何かが流れ出した。俺は慌てて鼻を触ると手が赤く染まった。鼻血が出てきたようだが、壁に衝突した時は師匠が守ってくれたから衝撃はほとんど無かったはず。


「ソウヤは魔力に敏感な体質だったのか。それはすまなかった。〈永劫〉を放った時の魔力を無意識に使ってしまったようだな」


 〈永劫〉を放つために師匠が広げた魔力を俺が使ったために、血液の流れを速めてしまって鼻血が出たという事か。さっきのスローモーションもその影響だろうな。


「これが師匠の本気ですか?」


「本気だったならば最初に大技を使ったりしない」


「師匠強すぎませんか?」


「日々の鍛錬の成果だ」


 師匠は才能の上に胡座をかかなかったという事だろうな。俺にはとてもできない。才能が無いにも関わらず胡座をかくというのに。


「これからソウヤも日々鍛錬する事になる。いつか強くなれる」


「これからお願いします」


「ああ。ソウヤに教えるのは一つの魔力を使った技だ。これは覚えるのに一年くらいかかるだろうが、ソウヤならもっとだろう」


 その通り。俺の実力を分かってくれているからありがたい。


「どのような技ですか?」


「魔力を固める技だ。これは魔力の消費が激しいがソウヤなら問題ない。攻守両方に使えるからソウヤの戦力アップを期待できる」


「魔力防御とは違うんですか?」


「魔力防御の応用と言えば応用ではあるが、結構違う。魔力防御は何かを覆って使うが、この技は空中に出せる。自由に攻撃と防御に使える」


 それは便利。直ぐに使えるようになりたいが、一年以上か。


「集中して魔力を練るんだ」


「はい!」


 俺は目を瞑って魔力を練る。球体を作る感じに魔力を練ろうとする。


「痛っ!」


 急に頭を木刀で叩かれた。


「集中しろ。何をされても魔力を練れるようになるのが第一歩だ」


 木刀で叩かれても大丈夫なほど集中するのは危険な気もするが何かあっても師匠が守ってくれるか。


 俺はまた集中して魔力を練る。魔力の流れを均一にして魔力を乱さずに練ろうとするがまた叩かれた。気が散る。気にしないようにしながら魔力を練っていく。


「かなり魔力が乱れているぞ」


「こんなの無理ですよ」


「アリナのために強くなるんじゃないのか?」


 そんな事は分かっているが、技術を身に付けるまで時間がかかりすぎる。そんなにアリナと離れて暮らすなんて想像がつかない。


「この技術を身に付けるのに数年はかかるんですよね。アリナが帰ってきてくれるまでそんなにかけたくないです」


「ソウヤがいくら強くなってもアリナは帰ってこないぞ」


 俺は師匠を凝視する。


「ソウヤが弱い事が理由じゃないからな。だが、アリナを絶対に守れるように強くなるために教えているんだ。それにこの技術は魔力操作の基礎だ。これくらいできておいた方がいい」


「師匠、アリナは帰ってきてくれると思いますか?」


「いづれな。ソウヤがアリナの事を大事に思っているようにアリナもソウヤの事を大事に思っている。それでも離れなければいけない理由があると思って頑張れ」


 あると断言はしてくれないのか。師匠も詳しい理由は聞かされていないのかも知れない。


 師匠のお陰で自分のするべき事が少しずつ見えてきた気がする。師匠に感謝しなければいけないな。


「修行をつけてください」


「任せてくれ。ソウヤは大事な弟子で友だちだからな」

―――――――――――――

 昨日の師匠との特訓で師匠に殴られまくったお陰でというか、そのせいで頭が痛む。俺は頭を抑えながらベッドから体を起こす。今日は俺が料理当番だったな。早めに作っておくか。俺は部屋から出てリビングの冷蔵庫を開ける。


 ある程度作るものは決めてあるから迷わなくていい。変な食材を使った方が後で困る事になる。俺は食材を取り出して、数分で料理を完成させた。朝は気力がないから直ぐに作れるものにしている。


「アリナ、朝ご飯できたぞ」


 俺はアリナの部屋のドアをノックしながらアリナに呼びかける。


 ガチャ


 開いたのはアリナの部屋のドアではない。玄関のドアが開いたのだ。俺はアリナに声をかけるのを止めて、玄関に行く。玄関には師匠が立っていた。


「何故ここに?」


「ソウヤが心配だからな。上がってもいいか?」


「勿論です」


 師匠は靴を脱いで中に入っていく。師匠はリビングに入った所で俺の方を見てきた。


「何故、朝食が二食あるんだ?」


「決まっているじゃないですか。アリナと俺の分ですよ」


「アリナはいない。昨日出ていった」


 そうだった。アリナは昨日俺を置いて部屋を出ていったんだ。アリナはいないのか。


「アリナの分は私が食べてもいいか?」


「いいですよ。どうせ食べてくれる人はいないので」


「それじゃあ、食べるか」


 俺たちは席について朝ご飯を食べ始めた。そういえば師匠と一緒に食事をするのは初めてだな。何を話そうか。


「美味いな」


「そうですか?ありがとうございます。師匠は料理をするんですか?」


「全くしない。だが、包丁を使うのは得意だぞ」


 どうせ包丁に魔力を纏わせて切るのだろうな。そうしなければ食材を押さえずに切れるとは思えない。だが、包丁の扱いは俺より上手そうではある。


「なら普段はどうしているんですか?」


「本部には食堂があるだろ。そこに通っている」


「あそこって結構高くないですか?」


 一回行ってみたが相場よりもちょっと高いくらいの値段だったはずだ。運んでくる費用がかかるのかもしれない。それに運んでくる食材に制限があるのか普通のレストランよりもメニュー数が少なかった。だからアリナと自分たちで作った方がよくないかという話をしたものだ。


「あれくらいが普通じゃないのか?私はあまり気にする事はないぞ」


 きょとんとしたように言っている。貴族だから金銭感覚が合わないのか剣の事ばかりで世間知らずなのか。どっちの理由もあり得る。後者の方が可能性が高い気がする。師匠らしいのはどっちかと聞かれたら迷わずに後者だ。正直、師匠に貴族というイメージは存在しない。


「あそこ庶民からしたら高いですよ。自分で作ったら半額以下で済みます」


「料理ができないのは結構な痛手だな。だが、料理を学ぶよちも剣に触れていたい」


 一生触れていればいいかと。ここまで好きが行っていると手に負えない。


「ペンテシレイア流剣術でできない技とかあるんですか?」


「ない!」


「なら何をするんですか?」


「技を磨いたり新しい技を作ったりだな。剣術を極めて、ペンテシレイア流剣術を世界一にする事を目指している」


 意外だな。剣術を極めるだけなのかと思っていたが、そんな目標があったなんて。素晴らしい目標だと思うがペンテシレイア流剣術で世界一の技を作った所でどうせ使えるのは師匠しかいないのだから、世界一でいられるのは師匠が生きている間だけだろう。


「頑張ってください」


「ああ、頑張るよ」

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