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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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松竹梅

 迷宮のナメクジを討伐した次の日に俺は朝早くに起きてアリナを背負い、岩石砂漠を越えた。アリナが直ぐに起きなかった時は背負ってもいいと許可を取ってある。


「まさか、昨日の許可取りで砂漠を越えられるとは思っていなかったよ」


 もう目を覚まして俺と一緒に歩いているアリナにそう言われた。


「俺は昼に間に合うようにアムカバセに着きたかったんだ。許してくれ」


「ソウヤが悪いとは思ってないよ。でも私がちゃんと起きていたらソウヤに無駄な苦労をかけなくて済んだなって思っただけ」


「アリナ関連で俺が何かをする事を無駄だとは思わない。無駄な苦労何かじゃない」


「そう言ってくれると嬉しいんだけど、やっぱり自分としては自分が許せない。呑気に寝ている最中にソウヤに苦労をかけた事がね」


 アリナはこういう性格だから、もう何を言っても無駄であろう。今回昼までに着きたかったのには理由がある。さっさと目的の場所に行くとしよう。


 俺は地図を見ながらアリナをある場所に案内する。地図が無ければ迷子なのは変わりない。


「ここにアリナを連れてきたかったんだ」


「ここは何料理屋さんなの?」


「知らない」


「知らないのに何で連れてきたのかは後で分かりそうだね。そうだもなければソウヤが地図を持って私を案内するわけないよ」


 普段の俺ならアリナが行きたい所に行くから地図何て持つ必要は微塵もない。それに最初から地図を開かなければ現在地を見失うから人を案内する時くらいしか地図は持たない。


 俺は店内に入る。


「予約していたソウヤです」


「ソウヤ様ですね…こちらです」


 俺たちは店員に案内されて個室に入った。


「予約したのに何料理屋さんなのか知らないって逆に凄くない?」


 そう言いながらアリナはメニューを開く。そこで俺はメニューの近くにある一枚の紙をアリナに見せる。


「これが目当てだ。だから朝の事何て気にしなくていい」


「そういう事ね。ありがとう」


「気にするな」


 俺が見せた紙にはうな重の写真が乗っている。俺がこの店を予約した理由はうな重を売っているからだ。うな重さえ売っていれば日本料理屋でもイタリアンでもフレンチでも何でもよかった。だから気にしていなかったのだ。


「ソウヤはどれにするの?」


「俺はアリナがうな重以外で食べたいものがあれば、それにするが…」


 アリナはうな重に目線が釘付けで俺の話を聞いていなさそうだ。なら何で聞いたんだか」


「俺はアリナと同じもので」


「ソウヤは私より良いものを頼みなよ」


「アリナと同じものを頼むからアリナが良いものを頼めば俺も良いものを食べる事になるぞ」


 うな重の話だったらちゃんと聞いてくれるようだ。それはさておきこれでアリナが良いものを食べてくれる可能性が上がった。アリナは俺に良いものを食べて欲しいから自分も良いものを食べるしかないが、そうすると俺に多く金を払わせる事になるから絶対良いものを頼むとは限らない。


「私は梅を頼むからソウヤは松を頼んでよ。それで少し私に分けてくれたら嬉しい」


「アリナと同じ物を頼むからアリナが梅を頼めば俺も梅だ。金の事は気にしなくていい。一番食べたい物を頼めばいいんだ」


「そう言われても。間を取って竹でどう?」


「食べたい物にしてくれ」


 俺は幼少期からの癖で金は余り使わない。だから時々多めに金を使ったとしても何も問題ない。それをアリナは理解してくれているのだろうが、どうしてもそうはしたくないのか。


「私竹に決めた!」


「そうか」


 俺たちは店員を呼んだ。それから直ぐに店員が来てくれた。


「ご注文はお決まりしましたか?」


 俺はアリナに目配せをした。


「うな重の竹です」


「うな重の松で」


 アリナの目が丸くなっているが気にしない。


「分かりました。少々お待ちください」


 店員は去っていった。


「私の願いを叶えてくれてありがとう」


 この程度を願いと言われてもな。


「そんなんじゃない」


 それからしばらくして店員がドアをノックしてから入ってきた。


「うな重の松の方」


 俺はアリナの方を指差す。アリナは目を丸くしたまま固まっている。


「竹の方」


 俺は手を挙げる。店員はうな重を置き終わった後に注文の票を置いてから部屋を出ていった。


「どういう事?」


「うな重の松はアリナが食べて竹は俺が食べるという事だ。そのくらい分かっているだろ」


「分かっているから困ってる。私は竹にした」


「でも松を食べたいだろ」


「…うん」


 俺はアリナに頷き返した。数秒間見つめあってからアリナは諦めたように溜め息をついて箸を取って俺に渡した。


「「いただきます」」


 俺たちは揃ってお重の蓋を開ける。アリナの方が豪華に見える。どうしてもアリナに松を食べて欲しかったから松を頼んだが作戦が成功してよかった。これで俺が食べる事になっていたら、これこそ無意味だ。


 アリナはうな重を食べるなり幸せそうな顔をしている。聞く意味はなさそうだが、一応聞いておくか。


「美味しいか?」


「本当に美味しいよ」


 なら良かった。これで今日の俺の行動は全て無駄ではなかったと胸を張って言える。実際はもっと前からの行動だ。俺はナメクジの倒し方を考えながらアムカバセに美味しいうな重を提供している店が無いかを探して、昨日予約しておいた。


 俺はアリナの幸せそうな顔を見れただけで満足だ。


 俺もうな重を食べ始める。確かにこのうな重はかなりの美味しさだ。満足すぎる。


「初の大型任務を達成して辞めるのに一歩近づいたね」


「そうだな。アリナが辞めたくないって言ったら辞められるようになっても続けるよ」


「ソウヤが嫌なら直ぐに辞めて。私も一緒に辞めるから」


 俺に合わせてくれるという事か。


「サードを辞めたら何しようか。農業か畜産か。サラリーマンってのも手だよな」


「私はソウヤの選んだ事は応援するし、手伝うよ」


「アリナは優しいな。アリナも自分がやりたい事をやってもいいんだからな」


「私はソウヤの手伝いがしたいよ」


 そういう事を言ってくれると凄く嬉しい。俺がサードを辞めても一緒に居てくれるつもりでいるという事に俺の存在意義が詰まっている。


「一緒にゆっくり暮らすか。サードの収入を使って田舎の土地を買って家を建てて、野菜を育てるのがベストかな。そうしたらある程度は出費を抑えられるから少しのバイトだけで生活していけると思う。それで二人とも時間ができるから二人で遊ぼう」


「楽しそうだね。家はどんな感じにしようか」


「家はそんなに広い家じゃなくていい。二人で暮らしていけるだけの広ささえあれば十分だ。それで余った土地で野菜を作る感じかな。林檎が好きだから林檎の木を育てたい」


 もし俺たちが結婚して子供ができるような事があればそれでは狭いから二階建てがいいかもしれない。子供ができるなら俺は働いた方がいいだろう。夜泣きをよくするような時期はまだ仕事をするべきではないな。保育園とか幼稚園に預けられるような年齢になったら働く事にしよう。残業はせずに直ぐに帰ってきて子供と遊びたいな。


「うな重が冷めないうちに早く食べようよ」


 俺の妄想は打ち切られてうな重を食べ始める。美味しく食べるために冷めないうちに食べなくてはな。暖かいうちに食べた方が美味しいはずだ。


「アリナはどんな生活が理想的なんだ?」


「考えた事ないよ」


「そんな事ないだろ。一度は考えた事くらいあると思うが。まあいいや。無いなら今考えてくれ」


「理想って言われても。大切な人たちとずっと一緒にいられたらいいなって思うよ」


 抽象的。全く具体的じゃない。


 それはさておき大切な人に入っていると嬉しいな。

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