表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
104/331

不満を吐き出す

 俺たちは家に戻ってきた。家に戻ってからすぐにアリナが雨坂さんにナメクジの魔石を持っていって、任務達成の判子が押された紙を持って帰ってきた。


「任務達成!」


「ああ。そうだな」


「ちょっと元気ない?」


 アリナが俺に元気ないように見えるなら元気はないのだろう。原因に心当たりがないわけではない。


「自分で自分はもう少しできる奴だと思っていた。実際はナメクジに全然歯が立たなくて、警戒されていなかったであろう最初だけ戦えただけだった。それにタナトスに横取りされたのが気にくわない。勝てなかったのは分かっているんだがな」


 アリナはソファーに座ってアリナの太ももをポンポンと叩いている。


「そうだね。寝転がって好きなだけ話して」


 俺はアリナに甘えて寝転がってアリナの太ももに頭を乗せる。


「折角あそこまで追いかけたのに倒す事ないだろ。俺が勝てそうに無かったら倒してくれてもよかったし、なんなら追いかけるよりも先に倒してほしかった」


 アリナは俺の頭を撫でてくれている。


「だが、アリナが一切傷を負う事なく任務達成できてよかった」


 俺は仰向きになってアリナの顔を見る。アリナは少しはにかんでいた。


「怪我は覚悟して迷宮に入っているよ。そんな事を心配してくれなくてもいいのに」


「心配するさ。大事な友だちなんだから」


「いつも心配し過ぎなんだよね」


 アリナの口元はかなり緩んでいるように見える。


「し過ぎてはいない。アリナは優しいから人のために行動できる。それで命をかけられるのが危なっかしいからな。心配でしょうがない」


「私はアーサーとは違うよ。見ず知らずの人のために命はかけられない」


「そうか。それなら少しは安心できるのだが、実際はどうだかな」


 火事現場に人が取り残されているとなれば真っ先に火の中に飛び込むような性格をしている。だというのに見ず知らずの人のために命はかけられないとは、どの口が言うんだか。


「私の言う事が信じられないの?」


 少しむくれてしまった。


「そういうわけではないが、選択を迫られた時に人が何をするか何て自分で分かるものじゃない」


「そういう時に本性が出るって話?誰にだって怖い事はあるし、誰だって怖いものからは逃げ出したい。逃げ出さずに助けに行く物語のキャラクターがおかしいんだよ」


「本当に本性が出るのかは俺は知らない。それに俺は本性を知る必要なんて無いと思う。誰だって人と接する時は何かを演じる。なのに本性を知ったら今まで演じてきた努力が水の泡だ」


 相手に好かれたいとか良いように思われたいとか理由は様々だろうが、演じているはずだ。思った事を全て口に出す奴はいないだろう。必ずと言ってもいいほどに自分の全ては出さずに自分の理想の姿になろうと演じているはずだ。それを悪い事だとは思わない。


「ソウヤも私と接する時は演技してるの?」


「当たり前だ。全力で演技しようとしているが、結構本音が漏れている」


 アリナの前では良い格好をしたいからな。それでもアリナといる空間が心地よくて本音が出てしまう。


「アリナも演じているだろ?」


「演じたい。でも、やっぱり本音が漏れる」


 そう言ってアリナは笑った。やっぱりかと思って俺も笑う。演じている事と本音が漏れている事の自白が一層可笑しくてしょうがない。言いながら本音が漏れている。二人でしばらく笑いあってから二人で落ち着く。


「アリナ、ありがとう」


 俺は体を起こす。話したい事は最初に言い終えたのにアリナに甘えて長い間膝枕してもらってしまった。俺はアリナの隣に座り直す。


「任務に協力してくれてありがとう。ここをいつ出ようか」


「私はソウヤの専属サポーターだからね。出発は明日の朝じゃないかな。後で雨坂さんに伝えておくよ」


「明日の朝出発と伝えてくれ」


「分かったよ」


 帰る日を決めたもののどうやって帰ろうか。また岩石砂漠を越えるか遠回りしていくか。一人で考えてもしょうがない。


「どこを通ろうか」


「前と同じでいいと思う。投げ飛ばされた以外は楽しかったからね」


 結構根に持っているのか。うな重さえ食べてもらえば根を絶ってくれるだろう。絶ってくれなければ困る。俺が全力でアリナを投げた話を持ち出されれば俺は黙るしかなくなるから、そんな事あったねと笑ってくれるようになってほしい。


「前と同じ道を通るとしよう。そして、晩ご飯は俺が作るとする」


「私が作る」


 あれ?決定事項の通達が行われたぞ。俺が作るって先に宣言したというのに恰も決定事項かのように言ってきた。いつの間にか尻に轢かれている。それだけはあってはいけない。俺たちは対等でいなくては。


「俺も作るよ」


「私が作る」


 満面の笑みでそう返された。これはもう俺に勝ち目はない。俺はアリナが立ち上がったのに合わせて立ち上がる。


「私が作るんだよ」


「分かっている。邪魔しかしない」


「邪魔って言っても近くで話しかけてくるだけでしょ。ここのキッチン狭くないからそのくらい邪魔じゃないよ」


 俺の邪魔を意に介さない宣言をされるとわ。何としても邪魔になって俺に手伝ってと言わせてやろう。そこまですると無視されそうだから止めよう。


「今日はどんな料理を作るんですか?」


「料理番組みたいになってるじゃん。今日の料理は何だっけ?」


 アリナは冷蔵庫の中を確認している。今食材を見て思い出しているのだろう。


「カレーか肉じゃが」


「ならカレー」


 今度は棚を開けて中身を確認している。


「ルーが無かった」


「スパイスは置いてあるだろ」


「私、スパイスの事よく分からない」


「何となくでいいよ」


 大きく失敗する事はないと思う。それにどんなに不味くても俺はアリナの料理は完食する。いや、完食したい。


「自分に自信を持て。失敗してもいい。だから恐れるな」


「カレーを作る人にかける言葉じゃないでしょ。作るけど後で文句言わないで…ソウヤが言うわけないよね。なら余計に失敗したくないよ」


「余り気負うな。初めて何だから成功したら奇跡くらいに思っていればいい」


「そういう言葉は初めてスパイスを使ってカレーを作る人にかける言葉じゃないよ。もし、失敗したらいつかリベンジさせて」


 リベンジしてくれなくてもいいんだけどな。俺の千年の恋が冷める事はない。だから、どれだけ不味くても全部食べる。千年の恋も一瞬で冷める出来事があるみたいな話を聞くが、それが千年の恋じゃなかっただけだ。


「したかったらしてくれ。俺は出された料理は完食する」


「完食しなくてもいいからね。美味しくなかったら残してもいいから」


 残す何て考えられない。人がわざわざ作ってくれたものを残すような事はしたくない。ましてやアリナが作ってくれたものなら尚更だ。


「頑張れ。俺は手伝えないから応援するしかできない」


「さっき止めた事への嫌味?どれだけ言われても譲らないよ。理由は頑張って任務を達成してくれたソウヤへの労いにでもしようと思ったけど、ソウヤが納得していないから何にしよう」


「あれはどうかと思うだろ。せめて挨拶していけばいいのに顔も出さずに居なくなりやがって」


 タナトスへの怒りが再燃してきた。正確には怒りとは違う気もするが怒りという事にしておこう。今度焼き肉を食べている最中にでも文句を言ってやろう。そのためにまずは会わねば。


「取り合えず全部の名前を確認しようかな」


「スパイスを出すのは料理とは関係ないから手伝ってもいいだろ」


「関係あるからダメ!」


 ないと言い張りたい所だが、ダメと言われて終わりだろうな。アリナが読み違えた所はこういう細かい事ならダメと言われても俺はやるという所だろう。


 アリナがスパイスの入っている瓶を出して一つを机の上に出した所でしゃがみ、瓶を数本取り出して立ち上がる。


「ダメって言ったのに」


 むくれてしまった。こういう姿も可愛らしい。


 多少アリナから文句を言われるだけでちゃんと止められないので俺はスパイスを出すのを最後まで手伝った。


 この後、美味しいカレーが完成したのは言うまでもないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ