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異端者の吸収  作者: 寫人故事
3-1章 迷宮の魔物
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諦め時はかなり近い

 今日も仕留めきれずに家まで戻ってきた。俺の頭には実力不足という四文字がでかでかと浮かんでいる。実際追い詰める事は出来ても持久力が無いから仕留める事が出来る程の実力はないと思う。


 持久力を上げる方法はファフナーの強化しか無かったからもう無い。本当は一つあるのだが、使いたくない方法だ。


 持久力が無いのは俺だけではなくアリナも同じ。前の戦いでアリナの方が早く魔力が尽きていたからアリナの持久力を上げればもう少し長く戦えるわけだ。だから、俺の方法はアリナの持久力を上げる方法。


 スキルは効果に比べると魔力の消費が少ない。だが、アリナの引力のような大きな効果をもたらすものだと、結構魔力消費が大きい。戦っている最中の俺とアリナが遠いから尚更魔力消費が大きくなっている。だから、アリナを出来る限り俺と近づければ魔力消費は減らせる。


 例えば、俺がアリナを背負って戦うのが最短距離だ。その距離ならアリナと俺の両方にスキルを使っても今の距離よりは少なく済むだろう。


 だがな、このやり方では俺が攻撃をくらった時にアリナも怪我をする可能性が大きい。アリナを背負っている分普段の自分の体型との齟齬が生まれるから攻撃をくらいやすくもなるはず。アリナが怪我をするかもしれないからしたくない。


 したくはないのだが、しなければいけない状況が近づいてきている気がする。戦っている最中には気がつかなかったが、今思い返せばナメクジの体で腫れている場所があった気がする。その腫れに見える出っ張りが発信器なのだとしたら、発信器は少しずつナメクジの体外に向かって移動している事になる。


 まだ数日は大丈夫だと思うが、発信器が魔力切れを起こすよりも先に発信器がナメクジの体から出ていくとなると、想定よりもタイムリミットが近い。


「悩みごと?」


 アリナが俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。わざわざそう聞いてきたという事は何で悩んでいるか分からないのだろう。


「ああ。近いうちにナメクジを仕留めなくては任務失敗が濃厚になるなと思ってな」


 アリナは目を丸くしてカレンダーの方を見ている。


「そうでもなくない?まだ時間あるよ」


「一度ナメクジを逃したらまたナメクジと遭遇するか分からないから今しかないんだよ。それでどうしたら倒せるか考えていた」


 正直、もう万策尽きている。この状況を打破する方法はない。運よく討伐できる事を祈るのみで、もうどうしようもない。


「時の運に任せるしかないんじゃない?それか私を上手く使うとか」


「アリナを上手く使ってナメクジを討伐する自信はある。だが、アリナが怪我をしそうで嫌だな」


「多少の怪我は覚悟してるよ。それでもダメかな?」


 アリナの覚悟が出来ていても俺がダメなんだ。アリナに傷一つ付けさせないというルールが自分の中にあるから無理だ。


「ダメだな。時の運に任せるしかない」


「大切にしてくれてありがとう。でも二人で力を合わせる時に躊躇なんてしちゃダメだよ!」


 少し頬を膨らませているように見える。俺の思い込みが見せる幻覚かもしれない。


 アリナにそんな事を言われても、俺は躊躇するだろうし、躊躇しない事が怖い。俺はアリナを心の支えとして生きているというのに、いざとなれば心の支えを失ってもいいと考えている事になってしまう。それは今の俺を否定するようで怖く、アリナが居なくなった世界を生きていく俺も怖い。


 大事な友だちアリナを失って死んだように生きるなら全然構わない。アリナを大事に思っている証拠だから。アリナがいなくなっても普通に生きている事の方が怖い。今の俺には想像が付かないほどの変化だから自分が何をしでかすか分かったもんじゃない。そういう怖さがある。


「大事な友人の心配をせずにはいられない。そうありたい。だから、許してほしいな」


 アリナは少しはにかんでから困ったような顔をした。


「私としては嬉しいんだけど、私もソウヤを大切な友人だと思っていて心配をしてる。ソウヤが傷つくくらいなら自分が傷つきたい。それを分かってくれないかな」


 分かる。非常に分かるからこそ譲れない。そんな事よりもアリナが俺を大事に思っていてくれる事が凄く嬉しい。


「分かる。アリナの本音を聞けて嬉しいよ。互いに思っている事は同じだから感情で話し合いをしても意味はない。理性的に考えよう。俺の方が動きも反応速度も速い。俺の方が相手の攻撃を避けやすいから俺の方が怪我をしにくい。ならば俺が前に出るのは普通の事じゃないか?」


 僧侶と戦士がいる状況で僧侶を前には出さない。そういう話だ。


「上手い事纏めたつもりなんだろうけど、元々それじゃあ、ダメだから私も前に出そうという話だったよね。理性的に考えるなら私も前に出るべきじゃない?互いに相手に傷ついて欲しくないの中間を取ればソウヤが前だけどね」


「そうだな。そうだったな。理性的に考えるとそうなってしまう。理性的に考えるのは止めるか。中間を取ろう」


 アリナの口元がかなり緩んでいる。


「鞍替え速いね。数秒で変えたじゃん」


 あのまま行けば負けは必至。状況が悪くなってから鞍替えは出来ないから鞍替えをするなら速い方がいい。


「後二回くらいで倒せなかったら諦めて本部に帰るか」


「奇跡は待たないという事ね。ソウヤが決めた事に従うよ」


 俺はアリナの発言に心臓が飛び出るかと思った。


「完全に従ってもらっては困る。意見してくれ」


 俺の慌てふためきようが面白かったのかアリナは笑いだした。


「そんなに食いぎみで言わなくてもいいのに。慌てすぎだよ。それじゃあ、意見するともう少し粘ってもいい気がするけどね。期限はそんなに迫っていないからもう一度会うぐらいの時間はあるんじゃないかな?」


「奇跡待ちでもアリナは一緒に来てくれるか?」


「勿論」


 笑顔で親指を立てながら言っていた。俺はこういう小さくも大きい事に心が踊ってしょうがない。


「来てくれるなら奇跡が起こすか」


 奇跡的にもう一度出会い、奇跡的にその一回で討伐する。そんな奇跡を起こすよりも二回以内に討伐する方が簡単だろう。奇跡を起こすまでもなく明日討伐してやろう。


 この議論のお陰で明日倒す覚悟を決められた。明日が正念場。明日無理ならそれ以降も無理。そういう気持ちで行こう。そして、この議論の意味は無かったなという話をアリナとする。


「覚悟が決まった」


「覚悟が決まったソウヤを見るのは久しぶりだよ。序列に入るっていう覚悟を決めてサードになっていたから今回はギリギリにならないようにね。大怪我とかしたらひっぱたくよ」


 それは嫌だな。なんだか討伐よりもひっぱたかれない事の方が大きい気がするが、討伐しないとしないで覚悟はどこ行ったの?って言われそうだ。討伐優先。ひっぱたかれる方がいい。アリナが心配してくれるのが分かるから。


「覚悟が決まったのが久しぶりとか言われたら普段はやる気ないみたいじゃないか」


「実際そうでしょ」


「そうだけどさ。もうちょっと言い方ってものがあると思うんだ。ない気がしてきた」


「折れるの早いね。覚悟も折れないように何かないかな?任務達成出来たら何かご褒美を用意しようかな。何かある?」


 何だ?何がある?物を貰うよりはアリナから何かをしてもらいたい。どうする?ここは膝枕とかがいいかもしれない。ああ、でもそれを言う勇気はない。


「考えておく」


「ゆっくり考えて」


 ゆっくり考えてと言われてもな。何か問題のないラインでさせられる事ってなんだ?かなり前にやったトランプの遊びを思いだそう。あれは確か三回連続で勝てばどんな質問でも出来る。一つ質問をして嘘偽りの無い答えを聞き出すというのがいいな。好きな人を聞くとかにしよう。

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