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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
7章 破滅或いは愛故の救い
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97 : 歯車



 崩れた瓦礫を踏み越えながら歩く俺達「(つばめ)の旅団」。ふと、前を歩いていたシュヴァルツが立ち止まった。立ち止まり、耳に手を当て何かを聞いている。


「シュヴァルツ様?」

「静かに、ロゼ」


 唇に指を当てながら、シュヴァルツは表情を強張らせた。ぱっと耳から手を離すと、その手の中に青い火の塊が顕現した。リラへ、「鷹の目」の連中へ回した火の精だ。


「なにがあったわけ?」

「鷹の目が、街へ帰還した」


 ロートの問いに、シュヴァルツは困惑しながらも答える。離れたところで瓦礫の撤去作業をしていたブラウとジルヴァも、ただ事ではない様子を聞きつけ、こちらへ帰ってきた。


「尋常じゃない様子だった……。何か、まずいものを発見したらしい」

「まずいもの、とは?」


 ブラウに質問を投げかけられるが、シュヴァルツはただ首を横に振った。


「わからない、でもとりあえず帰ろう。嫌な予感がする」


 それには同意だ。号令、一同揃って通路の端に避け、楔を突き刺す。一瞬の浮遊感、地上へ帰還した。




 見慣れた施設内を飛び出し、通りを急ぐ。外はすっかり日が落ちていた。鷹の目連中はもう帰ったのだろう。路地を駆け、階段を飛び降り宿へ飛び込む。

 扉を開け放つその向こうで出迎えたのは、ぐったりした様子で机に突っ伏すグリューン。それから俯いているゲイブにリラ、頭を抑えて歯噛みするニワトリ野郎だった。奥のカウンターからツュンデンさんが顔を上げる。レーゲン(ババア)もこちらを振り返った。クヴェルはいない。上の部屋に行かせているらしい。それが、正解かもしれない。


「おかえり……」

「ただいま! ……なにが、あったんだ?」


 無言で俯くニワトリ野郎とグリューンに変わり、リラがこちらを向いた。


「俺達は()()を見て即座に帰還しました……。なので()()がなんなのか、それに関しては推測でしかありません」


 いつになく言葉を濁らせる、遠回りな言い回し。俺達に扉を閉めるよう促し、皆適当な席についた。


「俺達が見たものは本物で、今も実際に起こっているんだと言うことを、わかってもらいたい」


 その言葉に頷き、彼の口から語られる衝撃の出来事を、聞いた。







「な、んで……」

「いや、そんなことが、嘘だ……」


 地下に存在した、謎の施設。明らかに人工的に作られた大規模な何か。そして、そこに囚われていたのは────


「なんで、なんでそんなこと……!」

「体が、魔物に変異するだなんて……」


 支離滅裂(しりめつれつ)な言語、うわ言を繰り返す、全身が魔物に変異した子供達。物のように並べられ、意識もはっきりしていなかったという。ジルヴァは驚き、ロートは動揺を顕にし、ロゼは言葉を無くし口元を抑えた。

 それより、なにより。


「星見の……騎士、が?」


 ブラウが言葉を漏らす。リラとゲイブは目をそらしながらも頷いた。星見の騎士、それが意味するところ。──十二貴族との、関係。


「十二貴族が……そんな施設、なんて」

「嘘だと、信じてえよ……」


 頭を抑えたまま、オランジェが呻く。こいつもまた、俺と同じ十二貴族。


「確かに俺の父親はクソだったよ! あんな家、十二貴族なんて、ろくでもないと思ってたよ!! それでも、さぁ……」


 父親からいないものとして扱われ続けたこいつでさえ、この事実には耐えられない。


「ヴァイス……」


 シュヴァルツが、肩を叩いた。心配しているのだろう。その心配は、的中だ。


「もしも、親父がそんなことに手を貸してるっていうのなら──俺は、親父をブチのめす」


 拳を握りしめる。力強く打ち鳴らした。


「俺の()()が、そんな真似をしてるなんて……認めねぇ!!」


 迷いは晴らす。考えれば考えるほど、思考は渦巻き、迷いが増える。とにもかくにも──やることは、ひとつだろう。


「その施設について調べる。本当に十二貴族が関わっているのか、何をしているのか、それを明らかにする」


 そのうえで──もし、十二貴族(親父達)が関わっているとすれば。


「俺の目標を捨ててでも、俺は十二貴族をぶっ飛ばす!! そんな施設、ブチ壊してやる!!」


 俯いていたオランジェやグリューンも、顔を上げた。


「了解!!」


 ロート達の勇ましい返事。流石は俺の仲間達、処理も切り替えも早い。しかし、だが。


「調べるったって……どうやって?」

「アンタ実家にでも帰る気? 聞いたところで、教えてくれるとは思わないけどね」


 ジルヴァとロートの突っ込み。そのとおりだ。策なし、お手上げである。


「まずは身近なところからヒントを集めていかないか? 例えば……」


 シュヴァルツが向きを変える。壁際に立つブラウ。口元を抑え、顔色を悪くした彼に向かって、シュヴァルツは問いかけた。


「ブラウさん。貴方は、星見の騎士ですよね。騎士学校や……実際に、十二貴族と共に行動する中で、何かを見たり聞いたりしませんでしたか?」


 シュヴァルツの野郎、ブラウを疑う気か? いくら親父に忠誠を誓っているこいつとはいえ、そんなことは絶対にない。親父だって、そんなことに関わっているとは信じたくない。ブラウは顔をあげると、緩く首を横に振った。


「誓って、ありません。私が見てきた限りでは、()()()それに関わっていることは……ありえません」


 その言葉に、安心する。その後に続いた「ですが」という言葉に、また呼吸を無くしたが。


「……今から随分昔、ある北の村で起こった出来事です」


 ゲイブとリラがブラウの方を向いた。その二人に視線をやり、立ち上がった彼らを下がらせ続ける。


「鉱山を有し、炭坑業を生業とする村でした。その村では、鉱山から発生するガスに長年苦しんでいたのです。その対策と称して、国から派遣された医者が『予防接種』と言い、村人に注射をして回りました」


 国から派遣、十二貴族の指示だ。


「毎年毎年、村人全員に打たれる注射。実際、ガスによる被害は減りました。しかし……接種が始まり、数十年もした頃、ある病が村を襲います」


 まさか、まさか。オランジェも、俺も顔が引き攣る。ブラウは息を呑み、それから続けた。顔色が悪い。


「心臓の一部が炭化し、血液に炭が流れ出す病。大人も子供も関係無く、村全体を襲いました。人々は伝染病だといい村人を差別した、しかし実態は違います。……それは、その病に罹ったある医者の男が見つけ出しました。長年の予防接種、その中に含まれていた薬品は()()()()()()()()()()。それらは混ざり合い、それを含んだ遺伝子が受け継がれ、また新たな薬品を入れられ──その果てに、変異反応を起こしていた。それが事実」


 ブラウは、顔を上げる。


「その村は壊滅し、逃げ延びた人々もほぼ病によって死亡。表向きには流行病による村の消滅。しかし、その実態は──十二貴族の指示によって行われていた、()()()()()()()()だったのです」


 その場の一同が、言葉を失っていた。ブラウは腕を抑え、失礼とことわった後に退室する。シュヴァルツは少し思案した後に、椅子に座るババアとカウンターに立つツュンデンさん、二人を見て問いを投げかけた。


「お二人……いや、ギルドゼーゲンは、十二貴族制度を撤廃させるために活動してたんですよね?」

「まあ、そうさ。重税、搾取、それらから民衆を解放するために、ね。あくまでもフルは、だけどさ」

「十二貴族の犯した行為の中に、先のような事例は、ありませんでしたか?」


 二人は顔を見合わせる。少し迷うような素振りを見せた後、観念したようにツュンデンさんは口を開いた。


「……ない、とは言い切れないね。十二貴族が関係してるかはわからないけど。私らの知り合いに、『妙な施設で実験を受けた』って奴らはいた」


 そう言って、ちらりと横目にグリューンを見た。フードをおろしたグリューンの頭部、覗く獣の耳を伺う。


「自然には、生まれるはずのない狼の耳。実験の中で、狼の因子を植え込まれ──狼の力を受け継いだと言っていた」


 グリューンが顔を上げ、耳に触れる。グリューンの耳、そして牙、それらは狼のものだ。本人は「遺伝子異常」と言っていたが、それは。


「もしかすれば、グリューンはそんなふうに実験を受けた奴らの血縁者、なのかもね。奇妙な縁も、あったもんさ」


 そう言って、ツュンデンさんはグリューンの頭をぐしぐしと撫でる。

 もう、確定じゃないか。煮えくり返りそうな頭を掻きむしり、長いため息をつく。調査、どうする。なにからとっかかる。十二貴族が関係してる以上、下手に騒ぎ回っても揉み消される。どうにかして、五層にて行われていることを証明せねば。

 その時だった、ふと、思い出したように顔を上げるオランジェ。


「そういえば……銀の、狐? みたいな紋章に、覚えはあるか?」


 唐突な言葉。オランジェとグリューン、ババアとツュンデンさん、四人以外は揃ってきょとんとした顔を浮かべた。


「施設内にいた連中……その服に刻まれていた、もうひとつの印……そうだ、そうだ。()()()()()()()()()()


 後半、俺達への問いは自分自身へ語りかける言葉に変わる。


「銀の狐、その刺繍。銀の……丸い、月? みたいなのを食う、狐の刺繍が、そいつらの服にあったんだよ」


 シュヴァルツが、立ち上がった。目を見開き、オランジェを見──すぐに、視線をロゼへとずらす。その先で、ロゼは──口元を手で覆い、絶句していた。


「銀月……教?」


 シュヴァルツの言葉、懐かしい響き。高い空から見下ろす月は、嫌なほど眩しい銀に光り輝いていた。一同がロゼを振り返る。彼女はただ、俯いていた。



 静寂を切り裂くようにとんとんと、扉を叩く音が響く。その時気がついた、()()()()()()()


「夜分遅くに失礼いたします」

「いたします」


 よく似たふたつの声が、扉の向こうから響いた。



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