表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
6章 騎士或いは兄の願い
86/157

84 : 囲え、炎天



 ──Side Schwartz──



「重力調整! 衝撃緩和!!」


 落下する体が停止する。なるべく真下を見ないようにし、足場へ向かって着地した。ぜえぜえと洗い呼吸を繰り返す。高いところから落ちる経験なんて、三層でもう味わってる。あんなの一度で十分だ!

 中央部に泉をたたえた足場。広さはかなりあり、走り回れるほど。見渡す辺り、リヴァイアサンを中心にした円形に同じような足場が見える。ここを含めて五箇所、ヴァイスとブラウさんが水柱から離脱するのを最後に見たから、二人以外の五人が飛ばされたと見ていいんじゃないだろうか。


「クソ、ここからどうやって……」


 また飛び降りるのは──いや、飛び降りても下は海だ。どうする。リヴァイアサンまでの距離を、ちまちま凍らせながら進むのは困難だろう。

 そもそも僕は、火以外の属性を扱うのは苦手だ。氷の塊を生み出してぶつけたりするのはできるけれど、炎のようには扱えない。

 四精霊──青い炎のウィルオとウィスプ、黒い炎のアグニと白い炎のイグニスを、実体化させる。索敵に出ていたアグニも呼び戻した。しかしここからどうするか……。


 背後から響く、水音。振り返る。中央部の泉から、水が起き上がっていた。見る間に女性のような形を作り、こちらを見られる。


守護(まも)れ、ウィルオ!」


 魔力でできた炎の壁。ぴしぃっと鋭い音を立てて、壁にぶつかる音がした。弾丸? 投擲? わからないが、当たれば怪我をするようなものがぶつけられたのはわかる。


「アグニ!」


 目の前を炎で覆っているため、相手の様子を肉眼では確かめられない。索敵に適した炎、アグニを放ち視界を共有する。

 女の形をした水。その指先から放たれる水の弾丸。女の体は泉から伸びており、その泉はどこへ続いている? 弾丸を防いだまま、アグニを地面の中へ滑り込ませる。

 泉は深く、地面を抜け海まで繋がっていた。しかし僕には見える。魔力でできた管のようなものが、どこかへ伸びている。いくら魔力でできたとはいえ、炎は炎。海の中まで行けとは言えず、そのあたりで引き上げた。


 炎の壁に穴が開く。ぶつけられる水に耐えきれず、一筋漏れたのだ。頬をかすめて血が滲む。まともに当たれば貫通か。生憎、僕にはそれらをかわせるような身のこなしはできない。ウィスプを広げ、どうにか堪える。


 おそらくあの管はリヴァイアサンから伸びている。リヴァイアサンに力を供給している、もしくは供給されている。とにかく、この場所に意味があることはわかった。しかし、どうする。

 相手は水だ、物理は通じない。主に物理戦となるロートやゲイブさんが心配だが、僕だってまずい。僕の得意な属性は火! 火に水、わかりきってることだ!!

 凍らせて叩くことも考えたが──想像だが、あの泉がある限り、いくらでも復活するのではないかと思う。あの泉ごと凍らせるような技は、今の僕には不可能だ。


「うぐっ……!」


 防護壁に穴が開き、弾丸が右脚を貫いた。いつまでも守りに入っているわけには行かない。悪い想像ばかりで、動かないのは最悪だ! 氷を生み出すわけじゃない。相手の周囲、その温度を下げて凍らせて、叩く!


 防護壁を広げたまま、突貫。周囲をアグニで確認しつつ、防護壁を貫通して奴の体に杖を握った腕を突っ込む。この炎は、魔力の塊だ。主人である僕にとっては熱さもなく、体に害はなさない。


氷雪(ひょうせつ)!!」


 広げたてのひらを強く握った。握りしめた杖から、周囲の温度を奪う。見る間に奴は動きを止めた。防護壁を解除、氷の彫像となった奴に向かって、全力の蹴り!!

 手応え、砕けた感触。よし! 杖を引き抜き、下がろうとして──()()()()()


守護(まも)れウィルオ────」


 真下から伸びた鋭い針、もはや、剣と呼ぶべきかもしれない。必死に炎で防ぎ、身をよじったが、右腕を斬られた。後方に下がり、防護壁の影で傷を確認する。

 大丈夫、神経に異常はない。血は流れているが、そこまで深くは無い。以前のハルピュイア戦で、ブラウさんが負った傷よりマシだ。


 やはり、あの程度では効かないか。泉をまるごと凍らせるか、雷を打ち込んでリヴァイアサンへの管を断つかしか無い。


「でも……どうする!」


 思考を吐き出す。口にすることで、脳内の弱音を外に追い出す。

 考えろ、頭を回せ。今僕が持っている力で、できることを考えろ。必ずある、必ず勝てる。僕は、街に帰る!


 いつも庇われて、背負われて、体力の無い貧弱陰気野郎でも、やればできることを見せてやる! ロゼの加護が無くたって、僕は戦える!!



 ──最強の冒険者の相棒には、最高の魔法使いが似合うだろ?

 ──お前は、世界一の魔法使いなんだから

 ──俺の隣に立つのは、お前じゃないと駄目なんだ!!



「やってやるよぉ! ちくしょおぉぉぉぉぉぉ──!!」



 魔法は、イメージだ。


 防護壁を解き、走る。奴とは反対、崖の方へ! 振り返らぬまま、解放した四精霊で奴を囲んだ。背後から飛ぶ弾丸が二、三発僕を貫いたところで止む。背中を見せて逃げ出す奴に、驚いているのだろうか。まあ感情などないかもしれないが。

 撃たれたのは右肩、二の腕、ふくらはぎ。どれも致命傷ではない。かすった程度だ。走る足は止めない。


 明確に想像したイメージに、魔力という原料と名前という器を与え、魔法は完成する。僕は幼い頃から、そのイメージを鍛えられてきた。


 一心不乱に走り、僕は地面を蹴った。


 消火する際、普通は水をかける。しかしその火が、水の沸点より高い場合はその程度では消えない。以前の野営、ロートが猪肉の揚げ焼きを披露した際も、水で消すことはできず魔法に頼った。つまり、()()()()()()()()()()ならば、()()()()()()()()


 体は空に、真下は崖、嫌になるほど見上げた空は青く──


 精霊を通して、戦場を見る。四角錐の形に奴を覆うよう配置された、僕の精霊達。イメージするのはレーゲン(師匠)の背中。偉大な冒険をやり遂げた、大切な僕の道標!

 いける、できる! やってやる!!


「僕は、世界一の魔法使いなんだ!!」


 落下する体、杖を握る。全身を通して、四精霊と繋がる。チャンスは一度だ、後のことなど考えるな、やりきれ!!


(かこ)え! 炎天(えんてん)!!」


 四角錐の形に発生する、炎の檻。師匠の放つ呪文、「七臨(しちりん)天舞(てんぶ)」──その中でも炎の技、「炎天(えんてん)火車(かしゃ)」の威力をイメージした、僕の魔法。それは触れた瞬間に奴の体を蒸発させ、それにとどまらず遥か地下、リヴァイアサンへの管さえも蒸発させた。


「────やった……!」


 思わず感嘆(かんたん)の声を漏らし、柄にもなくガッツポーズをする。──と、そこで気づいた。


 僕、落下中じゃないか。


 まずいまずい落ちて死ぬ!! 即座に重力調整を放ち、必死に岸壁へしがみついた。四精霊を呼び寄せ、斬られた右腕を庇いつつあたりを見回した。リヴァイアサンとの戦闘は続いているのか、絶え間なく波が揺れる。

 クソ、どうやって戻るか。ちまちま海面を凍らせつつ戻れなくはないが──今はほとんど魔力切れだ。あの場に着くまで、どれぐらいかかるか。


「──────! ────!」


 ……声? そちらの方を振り返り、二度見した。


「いっくぞおぉぉ!!」


 突然突っ込んできた魚、の上に乗るジルヴァに、凄まじい速度で腕を向けられ強引に回収された。腹に突っ込む腕の勢いに暗転する意識、その暗い視界で、苦笑いをするリラさんとゲイブさんが見えた気がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ