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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
6章 騎士或いは兄の願い
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82 : 青天井



 ──Side Jiruba──



 空を飛んで空を舞って、どんどん身体が落ちていく。まいったな、ヴァイスとブラウの援護をするつもりだったのに、離れちゃったらできないじゃないか!

 真ん中に水溜りがある大きな足場が見えてくる。どうやらボクはそこに落ちてるみたいだ。空中で一回転。体制さえ間違えなければ、ダメージなんてありゃしない。


「よっとぉ!」


 着地。あたりを見回す。リヴァイアサンの体が見えた。それと、同じように伸びる四つの大きな足場。うーん、どうやって戻ろう。ここまで魔魚を呼ぶのは時間がかかるしな。とりあえず指笛を吹いて呼ぶけど、いつ来るかはわからない。

 どうにかして早く戻らなきゃ。


十色(じっしき)ばっと────」


 刀に手をかけたその時、後方からの殺気。抜いた刃を後方へと振る。鋭い金属音。手に伝わる振動。視線を向けた。


 水でできた、女の人? 半透明に透き通った体、泉から伸びている。あれも、人なのかな。長い髪や体から伸びる角、そういう人間もいるのかな。

 でも、味方じゃあない。いきなり背後から撃ってくる人が、味方なわけがない。


「キミは誰だ?」


 答えは無く。刃を見る。この程度で傷がついたり欠けたりするものじゃない。何を撃たれた? 表面が濡れている。水?


「────!」


 次々に飛んでくる弾丸。右左上右下上右下下左右!! 刀で受ける。全弾弾き飛ばした。威力は凄まじい。水とは思えない鋭さ、速さ。まずいな、距離があったら刀は弱い。斬撃を飛ばす予備動作の隙に撃ち抜かれちゃうや。


「そんなことやめて、ボクを見逃してくれないかい?」


 返答は無し。そもそも、会話できるのかな? でも、見逃してくれないってことは──倒すしかない。

 先手必勝!


「十色抜刀、柳緑花紅(りゅうりょくかこう)!」


 斬撃特化の技、「承認」を済ます。勢い良く刀を振り上げる。放たれた斬撃が女の人を斬り裂いた。ぱしゃんと弾けて分断、だけど駄目だ、揺らいだ下半身が変形する。ちゃぷんと音を立てて上半身が再生した。


「うーん、厄介!」


 「十色抜刀」に、属性技はない。物理特化だ。

 女の体が揺らぎ変形、人の形を捨てた。両腕を広げたような形、ずるんと水でできた翼から伸びる穴。

 あ、まずいな。


「おっとぉ!!」


 足場、岩の塊を斬り上げ壁を作る。足りなかった。岩を貫き鼻先をかすめる。


「ははっ……!」


 刀を持ち直し、構え直す。剣先を突き出す体制。


「十色抜刀! 紫電一閃(しでんいっせん)!!」


 貫き、穿つ! 岩ごと抉り前方へ駆ける。降り注ぐ水の弾丸も、切っ先に触れる端から分断する。泉の直前でブレーキ、岩盤の表面を削りながら身を屈める。

 下からの、突き!! 実態はなくとも、この速度には対応しきれるか? 刀が体に入った瞬間に脚を振り上げる。横への薙!


 予感がした。直様足を引っ込める。泉から伸びる棘、いや、針かな。刀で受けるが、あのまま脚を出してたら貫かれてた。



 さてまいったぞ。ボクの技は物理特化、この泉がある限り再生するというのなら、戦いは終わらない。

 十色、この刀が持つ技はその名の通り十ある。そのどれもが凄まじい威力だけど、全て純粋な剣技で磨かれるものだ。属性をまとわせるほど器用じゃないし、ボクは魔法使いじゃない。


「せっかくの腕の見せどころだもん! キミはここで、倒させてもらうから!」


 跳ねた飛沫が変形、剣の形をして飛んでくる。刀で弾き、跳躍。

 泉があるから変形、再生する? 切り離しても、大本があるから駄目? 雷を打ち込んだり、凍らせて砕いたりができないなら、泉ごとぶっ壊すしかないのかな。


「わ! 危ないっ!」


 考えてる隙をついて、水でできた刃が頬をかすめた。危ない危ない、しっかり刀を捌く。でもこれじゃあ削られるばっかりだ。

 後方へ下がりながら、さっき壁にした挙げ句貫いた岩の元へ。それを思いっきり蹴り上げ、砕く。細かな石つぶてとなって、女の姿をぱしゃりぱしゃりと砕いた。

 見渡す向こうで、天まで届くような岩の柱が見えた。あんなのさっきまであったっけ? もう誰かが、こんな奴を倒しちゃったのかもしれない! それは駄目だ、遅れるのは、駄目だ!



 その影から、飛ぶ。両手で握った刀を下げ、一気に距離を詰める。まとわせた魔力を一点に固め、刀の周りへ「渦」を作り出した。




 ボクはまだ、「燕の旅団」に入って日が浅い。まだわからないことだらけだし、まだみんなと話せてない。だからこそ、リヴァイアサンとの戦いを経て、認められたかった。いや、認めさせるつもりだった。

 竜を、ボクを嫌うあの人(ブラウ)に、認めさせてやるんだ! ボクは強いし、頼りになる! 仲間として、胸を張れるって!

 こんな戦い、あっという間に終わらせなきゃね!


「十色、抜刀──」


 ボクはヴァイスの力になりたい。ボクはヴァイスの傍に居たい。ボクは、ヴァイスが語った「夢」の先を見たい。そのためにも、ボクは「燕の旅団」の力に、なりたい!

 二十年前の力の無いボクにできなかったことを、今を生きるキミ達のためにやりたいんだ!



「──青天井(あおてんじょう)ッ!!」



 渦巻く魔力を纏った刀を、女の体に差し込み斬り上げる。振り上げる、と言ってもいいかもしれない。ぐっ、と握る刀に重みがあった。──イケる!


「ぶっ、と、べえぇぇぇぇ──────!!」


 より一層力を込めて柄を握る。脚を踏みしめ息を吐き、止めと言わんばかりに魔力を流した。全力全開、最高出力だ!

 足場に空いた穴から、引き摺り出されるようにして泉の水が打ち上げられた。ありったけ、全部! 空の彼方まで吹っ飛んで、一つにまとまることもできず散り散りになる。



 さてさて、早く戻らないとな。急いで戻って、華麗にリヴァイアサンを倒して、ブラウに認めてもらわなくっちゃ。きっとブラウだって、そんなカッコいいボクを見たら「今までゴメン! 友達になろう!」って言ってくれるはず。


 足場を蹴って、海へ飛び降りる。再度の指笛、これで来てなきゃ、もう餌はあげないぞ! ざぱんと波、そこに現れるボクの相棒。よしよし、いい子だ。


「悪いね! 中央部まで全速前進で頼むよ!」


 その体の上に落下。ちょっと重かったね、ごめんよ。背中を撫でてやり、背びれを掴む。リヴァイアサンがいるから怖いだろうけど、頑張ってもらわなきゃ。


 少し離れたところで破壊音。ボクがいたのとよく似た足場が、音を立てて崩れてる。みんなかな? 派手にやったなぁ。誰だろう。

 ……ん? 目を凝らす。そこから落ちる、赤い髪。黒い箱を背負った──


「ロートぉ!? ちょ、ちょっと戻って!」


 崩れる石に巻き込まれたら危ない! ボクは急いで魔魚を奔らせ、ロートを受け止めるために急ぐ。

 まいったな、少し遅れるよ! ヴァイス、ブラウ!!



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