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All be one ! 〜燕の旅路〜  作者: 夏野YOU霊
6章 騎士或いは兄の願い
76/157

74 : 家族



「……はぁ、なるほど?」


 一通り話を聞いたニワトリ野郎は、顎に手を当てて首を捻る。グリューンはふぅんとつぶやき、その後ろでゲイブとリラが硬直していた。


「それで、僕達にこの宿を守れと?」

「まぁ……そうなりますね」


 ニワトリ野郎が風のように駆け出しツュンデンさんとレーゲン(ババア)の元に跪く。


「おっまかせくださいツュンデンさん! レーゲン先生! この『鷹の目』! この宿を守るため粉骨砕身尽くしてみせます!!」


 目をキラッキラさせてそう宣言する。……うわぁ。


「なぁにが『鷹の目』、っすか! 勝手に決めてんじゃあねぇっすよ!!」

「話を聞いてから決めてもらえるかなオランジェ君!!」


 即座に叩かれていた。紛れてグリューンも一発殴っている。ゲイブがため息を付きながら、オランジェの首根っこを掴んで言った。


「わりぃっすけど、()()()()は宿の護衛はできないっす」


 ゲイブの言葉に驚いたのは、オランジェだけではなかった。リラとババア以外、その場にいた全員がえ、と声を漏らす。ゲイブはくるりとこちらを向くと、ブラウの元へ近づいた。


「当たり前でしょうが! なぁに俺達()()を放っといて行こうとしてんすか!」

「クヴェルの兄は貴方だけじゃないんですよ」

「はぁ!?」


 そうだ。ゲイブとリラは五年前まで、ブラウと共に暮らしていた家族。二人の言葉に驚くオランジェより先に、ブラウが声を上げた。普段の冷静な様子とは似ても似つかない所作で立ち上がる。


「何を言ってんだお前ら! お前らはもう鷹の目の──」

「関係ねぇっす! あんたが何と言おうとねぇ、俺らは家族!」


 ゲイブがブラウの胸倉を掴む。負けじとブラウも噛み付いた。


()はあの日! お前達とは縁を切った! ここで出会ったのは奇妙な縁だが、もう他人なんだ! だから大人しく──」

「ごちゃごちゃうるせえクソ頑固!!」


 そう叫んだのは、ゲイブではなく──リラだった。常日頃、穏やかで誰に対しても敬語を使うリラが、口調を崩した。かつかつと歩み寄り、ゲイブからブラウの胸倉を引っ手繰(たぐ)る。


「何年経っても相変わらずですねまったく! いいですか? 他人だなんだ、家族だなんだと言うのは勝手に決められることじゃあない。自分達、俺達で決めることでしょうが! 貴方に言われたからってはい絶縁、とはならないんですよ!」


 眼鏡をずらし持ち上げる。覗いた耳たぶに開いた穴、あれはピアスの跡だ。あの威圧感といい……元不良というのは本当らしい。


()()()! クライ君もクヴェルも俺達は守れなかった! 貴方はそれを悔やんでいるけれど、それは俺達もおんなじだ!! 悔やむ貴方を、励ます言葉すら見つけられなかった!! 黙って旅立つ貴方の背を、見送ることしかできなかった!!」


 俺達は、こいつらの言う「あの日」を知らない。ブラウが友を亡くし、クヴェルが一度命を落とし蘇ったその日、話しか知らない。

 それを目の当たりにし、悔いて、嘆いて生きてきた。ブラウだけじゃない。共に生きてきたゲイブ達だって、きっと同じだ。


「だからこそ! 今の俺達は『鷹の目』じゃなくて、ブラウ君の『家族』として! 貴方のために、クヴェルのために、戦う!!」


 リラの宣言に、ブラウはだらりと手を下ろし脱力した。


「まったく……お騒がせしますね。皆さんからしたら、知らない話を延々されていると思いますが……」


 咳払いのあと、眼鏡を下ろしリラはこちらを向いた。いつもの穏やかな口調だ。


「きっとブラウ君のことです。必要最低限しか話してないんでしょうね。……まあ、それはおいおい、ということで」


 ゲイブとリラは揃って俺に手を伸ばす。


「ロゼさんの代わりに、俺達が同行することをお許しください。リーダー、ヴァイス」

「全身全霊、お手伝いするっすよ!」


 伸ばされた手を掴んだ。


「もちろんだ! 頼むぜ、ゲイブ、リラ!」


 シュヴァルツもロートもジルヴァも、みんな揃って異論なし。歓迎するに決まってる。


「俺の意見は!!」

「黙ってなよオランジェ。いい雰囲気なのに」


 ニワトリ野郎がぎゃんぎゃん言って、グリューンにしばかれていた。ひとまず作戦会議だと盛り上がるホール内、椅子に座って項垂れるブラウの肩を叩く。


「不満かよ」

「不満です」


 即答。だが仕方ない。みんながみんな、頑固でお人好しなのだから。


「不満で不満で仕方ありません。──何かあったとき犠牲が私ひとりなら、みなさんが残っているから大丈夫と思っていたのに。……どうするつもりですか。皆で潜って、皆が破れたら」

「うーん安心しろ。言っただろ? 俺達は死んでも死なん。勝って全員で帰ってくる! クヴェルも喜ぶ世界も救う! これしか道はねえよ」


 もう一度強く肩を叩いた。何度目かのため息。


「呆れますね……本当に」

「慣れてる」


 ブラウを残し、会議を始めた皆のもとに向かう。そういえば、と思い出して振り返った。


「またちゃんと聞かせろよ。お前の友達? クライノート、だっけ。そいつとの話」

「……ええ」


 シュヴァルツが地図を広げ、早く来いと手招きをしている。俺はわりぃと手を上げて、そこへ向かった。






「とにかく俺とグリューンが宿を守るからには安心だ! 好き勝手やってこい!」

「頼りになるーニワトリ君! ロゼとクヴェル君、この宿を任せたわよ」

「ありがたき幸せロートちゃぁん! よろしければ今度君の料理を……いってぇ!」

「無駄口叩かないでオランジェ」


 わいわいと騒がしいホール内。階段からの足音にそちらを向く。クヴェルが恐る恐る覗いていた。俺は手を振る。


「おはよう! クヴェル!」

「おはようございます……」


 ぺこり、と頭を下げる。ブラウとゲイブ、リラがすぐに駆け寄った。


「大丈夫ですか? 体調は」

「だいじょうぶだよ」

「食欲あるっすか?」

「まだいいかな……」


 過保護め。クヴェルはきょろきょろとあたりを見回し、みんなが旅支度を整えていることを確認する。


「みんな……行くの?」

「おう! 任せとけークヴェル。お前の兄ちゃん、みんなで手助けするからな!」


 ピースサインを送ると、クヴェルは丸い目を大きく見開いた。それから走ってくる。腕を広げると、その中に飛び込んできた。ブラウ達過保護三人組がはぁ!? と声を上げる。


「ヴァイスにぃ!!」

「おお! どうしたクヴェル!?」


 ここに来たときより少し重くなった。背も伸びているだろう。この半年で、クヴェルも大きくなったんだ。


「あにうえを……ぼくのためにがんばるあにうえを、おねがいします!」

「──ああ!」


 かわいい弟分を持ち上げ高い高いしてやる。きゃあっと声を上げた。背後からロートの声。


「ずっるいヴァイス! アタシもクヴェル君触りたい!」

「取って食うつもりだろお前は!」

「アタシは魔物か!」


 クヴェルはロートの方を向き笑う。


「ロートねぇも、シュヴァルツにぃも、みんな、みんなかえってきてね! ぜったいだよ!」


 シュヴァルツは頷き、ロートとジルヴァは親指を立て笑う。そして過保護三人組は──


「高い高いは危険だと以前から忠告していましたが……」

「うっせえなブラウ! 空気読めこのクソ過保護が!!」


 どす黒いオーラを背負っていた。なんて奴らだ。


「俺とグリューンで宿を守るからな! 俺のことも『オランジェの兄貴』と呼んでいいんだぜ?」

「よろしくおねがいします! オランジェにぃ! グリューンさん!」

「……ん」


 なかなか見ない組み合わせだが大丈夫だろう。何かあれば、ツュンデンさんもババアもいる。ロゼだって元気になれば心配ない。

 もしクヴェルを──その身に埋まった「竜の眼」を狙う輩が現れようと、きっと大丈夫。俺達は四層の神霊──リヴァイアサンを打つことだけに集中すればいい。


「クヴェル」

「ヴァイスにぃ?」


 ブラウに抱かれるクヴェルの頭を撫でた。


「ぜってえ、みんな揃って帰ってくるからな」

「……うん!」


 そんな俺達を横目に、ロゼはシュヴァルツの袖を引いた。


「シュヴァルツ様……」

「……ん」


 ぶっきらぼうな返事。ロゼは顔を赤らめ、シュヴァルツを見上げる。


「お体に、気をつけてください。私は、貴方様のお帰りを待っています」

「……君こそ、帰ってくる頃には元気になっててよ」

「──はい」


 そのやり取りにロートとツュンデンさんはひゅうひゅう囃し立てる。嫌な奴らだ。そんな甘酸っぱい雰囲気の中、どす黒いオーラを背負うのが一人。


「はぁいシュヴァルツ君? 前々から気になってたんだが……君、ロゼちゃんとすこぉし距離が近すぎるんじゃないのかい?」

「え、はぁ?」


 オランジェだ。シュヴァルツの肩に手を回しぎりぎりと力を込めている。ロゼがシュヴァルツの袖を引いたまま、頬を赤らめ言った。


「シュヴァルツ様は私の運命の人……ですわ! 私の勇者様にして愛するお方……私の王子様、です!」

「んだとこの黒いの──ッ!!」

「うわぁぁぁぁ!!」


 オランジェは血の涙を流す勢いで胸倉を掴んだ。


「なんでこのオランジェ様がモテなくてお前みたいな黒いのがモテるんだよ! その癖していつも邪険に扱って! 謝れ! 全俺とロゼちゃんに! 謝れ!!」

「なんでだよ僕だって困りきってるしそもそも君だって──」

「あ・や・ま・れ────!!」


 ぶんぶんとシュヴァルツが振り回される。それを見て俺はため息をついた。つくづく締まらない。こういう馬鹿さが、俺達にはよく似合ってる、と改めて思うのだ。



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